#163/1850 CFM「空中分解」
★タイトル (KPE ) 87/ 4/ 2 15: 0 ( 69)
ある無害の悪夢
★内容
私、内藤目亜は、PV−A1200を持っているのにもかかわらず、家庭事情により、回線が開けず、仕方なく友人の家でアクセスしている次第。かわいそうと思ったら、是非読んでおくんなまし。尚、このモデムは24,000円以上で売ります。
「あ る 無 害 の 悪 夢」 by 内藤目亜
俺は、アマチュアのカメラマンだ。といっても、投稿写真とかに、アイドルのパンチラとかを送って金にしている、いわゆる、あれだ。他人に言えば失笑を得るだけだが、眼の保養にはなるし、金は入るで一挙両得。プライベートな趣味には丁度いいし、アルバイトには最適。俺ももう、二十歳になるが、やめるにやめられない。先だっても、PENTAXのSFXが発売になって、思わず、逆輸入でFJ1200を買おうと貯めていた金で買ってしまった。こうなると、泥沼以外の何者でもない。第一俺は、これがやりたくて、わざわざ群馬から今年上京して来たのだから。
こんな俺にも一つの悩みがある。俺のタッパは185cmあってマスクも陣内きどりの渋目だが、職業柄(アルバイト柄)、俗に言う挙動不信である。街でミニスカートの娘が歩いていると、つい背がこごんで、あげくには、見えるまで後をつけてしまうしまつ。そう、俺は職業とは裏腹にタッパがありすぎるのだ。困ったものだ。
9月20日の朝、お気に入りの南野陽子ポスターが顔にかぶさり、俺はその息苦しさで目覚めた。南野のファーストLP″ヴァージナル″を買って付いてきた、あのデカイやつだ。「昨日の、時期外れの台風のせいかな。」等と思いながら、ポスターを貼り直して、朝の日課のトイレへ行こうと寝室を出た。すると、いつもなら部屋の鴨居に頭をぶつけるはずなのに、素通り出来てしまった。「どういう事なんだ?鴨居は175cmしかないはずなのに..」ひとつの不安が頭を過る。俺は、慌てて鏡の前に立った。顔には、変化が伺えなかった、が、確実に伸長は縮んでいた。172cm位だろうか。「気色悪いなぁ。これはきっと夢や。はよ寝まひょ。」と、動揺したせいか、訳の解らない関西弁を鏡につぶやき、再び眠りに着いた。
目が覚めると、カレンダー付きの置き時計は、10:30を差していた。しかし、その日付は9月21日となって..どうやら俺は、まる一日ねたらしい。フリーアルバイターである俺は、特に仕事もないので、のうのうと起き上がると、背筋に冷ややかなものを感ぜざるを得なかった。視界が低いのですぐに気付いた。そう、俺は、更に伸長が縮んでいたのだった。140cm位だろうか。もうひとつ不可解なことには、腕が日にやけているのだ。鏡を見ると、それは腕だけでなく、全身だった。鏡で見る140cmで色黒の俺。無気味以外の何者でもなかった。
こうなると、流石の俺も、病院に行くことにした。俺は、千駄ヶ谷3丁目に住んでいる為、最も近い青山病院に向かうには、原宿を通り抜けなければならなかった。「こんな、みっともない格好を他人に見せられるか」と思ったが、背に腹は代えられない。幸い上京して間もない俺には、知り合いなどいない。
いざ外へ出てみると、やはり他人の視線が気になる。神宮前1交差点を過ぎた辺りから人通りが増え、どうしようもなく恥ずかしかった、が、俺は一つの重大な事に気付いた。それというのも、普段ならミニの女の子がいれば背をこごませていたのに、背が縮んだせいで何もしなくても、場合によっては中身が見えるようになったのだ。俺は、病院へ行くことも忘れて、日が暮れるまで竹下通りを意気がった。
家に帰り着くと、一日中歩いたせいでヘトヘトだったが、これから毎日このような日々が続くことを考えると″へ″でもなかった。
翌日目覚めると、俺は又更に縮んでいた。鏡を見ようとしても、あまりにも小さ過ぎて見れなかった。肌の色も更に黒かった。と言うよりむしろ、真っ黒だった。ものは験しで外へ出てみた。すると早速、普通のロングスカートをはいた二十歳前後の女性がやってきた。どうやら小さ過ぎる俺には気付かないらしく、真っ直こっちへ来た。「昨日は、原宿で、ガキばっか見てたからなぁ。ヘヘッ」
「オオー。ばっちりだ。」 俺は、もう道徳心など消え失せ、単なる変質者と化していた。俺は、街へと繰り出した。「絶景。」俺はつくずく思った。変な広告で″幸せを呼ぶペンダント″など買わなくて善かったと....
俺は、仰向けの状態で、歩き続けた。 あと一人で100人というところまできた。誰も、アスファルトとほぼ同化している俺に、気付かない為、100人などあっという間だった。いよいよその100人目が来た。100人目のその子は、ミニスカートをはき、″SUGAWARA″とかいたバックを手に走ってきた。その素振りから、友達を見つけて走って来た様子だ。真っ直にこっちへ来る。俺の心臓は高鳴る。「見えた!!」と思った瞬間、空が真っ暗になった。どうやら俺を踏み就けている様だ。 ハイヒールと違い、地面にベッタリ着く靴の為、抜け出そうにも抜け出せない。「はやくどいてくれ!」と言っても声にならず、一行に退く気配もない。「息が苦しい。」だいぶ堪えてきた。「うぅ。窒息する。いっ息がぁぁぁぁぁぁぁ」
「うぅぅぅぅぅぅ。」俺はあまりの息苦しさに、布団を引き裂かんばかりにもだえ、そして、目が覚めた。気が付くと南野陽子の大きいポスターが顔にかぶさっていた。
「ゆ、夢だったのか...」寝汗をぐっしょりかいた手でポスターをどかし、側にあった手鏡をとって見てみると、そこに写ったのは、色黒でない、いつもの俺だった。カレンダー付きの置き時計は9月20日の朝を差していた。
次の日、俺は帰京することにした。上野駅のホームに立った時、足元から、「どいてくれ」という声が聴こえた様な気がした。
「ある無害の悪夢」FIN