#84/1850 CFM「空中分解」
★タイトル (BUJ ) 86/12/31 18:12 (149)
しょーと・すとーりー・・《ダミーの微笑》By HUMAN
★内容
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〔ダミーの微笑〕
黄昏時の或ローカル空港。滑走路脇のフェンスによじ登る、二つ
の影。
「一郎!早く降りろ!」
「わ、わかっている。そうあせらすな!」
彼ら、信弘と一郎は銀行強盗犯として警察に追われる身だった。
強奪した金は約三億。一生笑って暮らせる位の額だ。ただし、警
察の手から逃れられたらの話しだが・・・・。
「早く気楽に落ち着きたいもんだ。なあ、信弘」
「心配すんな。こんな所に居るなんて誰が知るもんか。」
「しかし、これからどうするんだ?」
「もう少し待て。逃げるのは夜になってからだ。」
二人は影に隠れて夜になるのを待った。
だいぶたって、遠くで声がした。
『おい。そこらへんをよく見といてくれ。』
また違う方向で声がした。
『ここはOKだ。もう一回調べてくれ!』
これを聞いた信弘と一郎は、青くなった。
「こ、ここまで警察が追ってきたのか?」
「そうかもしれないな。空港内を探し始めたんだろう。この調子
なら、何れここまでやってくるぞ。」
「お、おい。どうするんだよ!やばいよこりゃ!」
「よし。もう少し安全な所へ行くしかないな。」
二人は身を屈めて歩いた。
少し行ったところに、旅客機が留まっていた。普通の定期便なら
ターミナルビルの駐機場に留まっているものだ。が、その旅客機
だけは、ターミナルビルとは正反対の人気のないだだっぴろい駐
機場に一機だけで留まっていた。おまけにドアまで開いている。
「一郎、あの飛行機の中へ入ろう!」
「お前本気か?中に客が居たらどうするんだ!」
「そう心配しなさんなって。少しトイレに隠れさせてもらうだけ
だ。明りも見えないしな。」
「うーん。」
一郎はうなった。その時、今度は近くで声がした。
『いや、もう少し見てみる。それからリモコンの方はどうだ?』
信弘と一郎はますます青くなり、
「やべえぜ!とにかく、行こう!話しはあとだ。」
「わ、わかった。」
その飛行機のそばへ寄って行った。
後ろのタラップを登り、ドアへ近寄る。彼らの緊張は絶頂に達
していた。ここで見つかると、何もかも終わりなのだ。
「お、おい。客がもう乗ってるぜ!」
「どうなってるんだ?」
真っ暗の機内へ踏み込んだ信弘と一郎は顔を見合わせた。既に機
内はで満席だったのである。どの乗客も頭を規則正しく前へ向け
て・・・・。
『では最後の点検するぞ!』
またまた声がした。
『コツン、コツン、コツン、コツン・・・』
靴の音。タラップを上がる靴の音。
「お、おい!く、来るぞ!誰か来るぞ!」
「とにかく隠れるんだ!」
信夫と一郎は、一番奥のトイレへ駆け込んだ。
かなりの間、いや正確には2分も経っていなかったが、信弘と
一郎は窮屈なトイレで静止していた。身動き一つせず、息をころ
して。
『それじゃあ、もういいだろう。ドアをしめるぞ!』
壁一つはさんだむこうで、叫び声がした。どうやら、もう出発す
るらしい。
『バタム!』
ドアが閉まった。
「あ、ドアが!」
「あせるな!まだ見つかってない。」
『キーーーーン』
エンジンが金属的なうなりをあげ始めた。それと共に機体がガク
ンと進んだ。
「おい!走ってるよ〜。どうするんだよ〜。」
「うろたえるな!離陸するんだったらすりゃいいじゃねぇか。い
ざとなれば乗っ取りゃいいんだ。」
「そんなぁ・・・。信弘ぉ、俺ハイジャックなんてやだぜぇ。刑
がよけ重くなるだけじゃないか!」
「ワッ!!!!!」
いきなり離陸した。二人はバランスを崩し、畳の半分もない床に
倒れ伏した。そして気を失った。
飛行機は離陸した後、しばらく上昇を続けた。
「おい一郎。大丈夫か?」
「ああ、たいしたことない。俺達どれ位気絶してたんだ?」
信弘は、床にぶつけた頭をさすりながら一郎に聞いた。
「10分位だと思う。 なあ信弘ぉ、いったいこの飛行機は何処
へ行くんだ?ここには窓もないし、どこ飛んでんだか見当さえつ
かない・・・・・・・ちょっと出てみないか?」
「そうだな。だが気ずかれないようにしろよ。」
一郎は折り畳み戸を少し開け、機内を見渡した。
誰一人として立ち歩いたり、話をしていない。それに、離陸して
しばらくするとスチュワーデス達が、忙しそうに歩き回るのだが
それも見つけることが出来なかった。
「一郎、どうだ?気ずかれた様子はないか?」
「ああ。気ずかれてはいないが・・・・・」
一郎の額には、汗がうっすらとにじんでいる。
「なにか妙な気分なんだ。とにかく、お前も覗いてみろ。」
「よし。」
今度は、信弘が機内を見渡した。が、やはり結果は同じだった。
「どうだった?どことなくおかしくないか?」
「ああ、気になる。乗客が静かすぎるんだ。話し声一つ聞こえな
い、それによく見ると身動きもしない・・・」
「気になるなあ・・・」
マッハ0,8で飛ぶ密室。喋りもしない乗客達、生気の無い機内。
二人はこの不気味さに我慢出来なっかた。
二人は、乗客の視線、生きている人間の視線が自分達に集中す
るのを期待して客室に出た。
しかし頭を前に向け、手を膝の上にちゃんと載せ、シートベルト
をキチンとはめた乗客達は、誰一人として振り向かなっかた。
「こ、これは・・・・・」
「ま、まさか・・・・・」
二人は同時にいった。
「人形だ!!」
乗客役のマネキン達は、その無表情に微笑みをたたえていた。新
しい仲間が増えたと・・・・。
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「では報道関係に対する説明を始めます。ただ今、リモートコ
ントロールによって飛行している実験機は着陸地点への最終進入
体勢にあります。そして1分後には胴体着陸する予定です。今回
の実験の目的は機の破壊を測定することですが・・・」
その研究員は得意気な顔をして言った。
「実験機には100体の人体ダミーが搭乗しています。それぞれ
の人体ダミーには、頭部と胸部に衝撃計測器が内臓されていて、
接地時の衝撃、つまり人体の脊髄に損傷を与える衝撃を計測しま
す。ではこのモニターで接地するまでご覧ください。」
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「それでは最初のニュースです。昨日の午後から行われていた
航空宇宙研究所の実験機による胴体着陸実験で、残骸の調査をし
ていたところ100体のダミーに混じり、2名の人間の死体を発
見しました。死体の損傷が激しいため性別、身元は判断出来ない
状態です。
では次のニュースです。警視庁は、昨日▲▲銀行から3億円を
強奪した犯人二人組を全国に指名手配した模様です。では警視庁
記者クラブの※※記者を呼んでみましょう。※※さん・・・・」
=====Fin=====
作者あとがき**だいぶ昔に書いた話のリメイクです。よくある
話ですが感想ください。