AWC 『殺人告知...(4)』


        
#31/1850 CFM「空中分解」
★タイトル (LAG     )  86/10/24  12:22  (181)
『殺人告知...(4)』
★内容
夜の街を抜けて郊外の梨畑の間を走り、自動車の町である豊田市を抜ける。
次は遠く岡崎に住むZEEK氏で本名は冬野和男と言う。
なんでも退職金でコンピュータを買うために転職までしたというクレージーなマニア
らしい。
しかしコンピュータマニアと言う奴はいつ寝てるんだ?
とてもまともな人間のやる事ではないと思いつつ、泉の顔を思いだして独り言を
いった。

「あの娘も絶対まともじやない...」

ZEEK氏はやはり30代前半の男で独身と言うことだ。
コンピュータマニアの世界は男でも理解に苦しむのだから若い女の子に縁が
無くなるのは当然だろうと思った。
職業は電話器のセールス。
30代で眼鏡をかけて長髪の男といえば軟弱な気持ち悪い感じしかしないが、この
ZEEK氏は中学生がそのまま大人になったようで、決していい男では無いが子供に
好かれるタイプである。
(ただし若い女には絶対好かれないと思われる...)

「ええっと、あのCHATの前は岡崎のT−NETというBBSに遊びに行ってたなぁ

 ...シスオペが知ってますよ」

「いえ本当に車で行っていたのです、電話器を売りつけてやろうと思って...
 よく考えたらホストはモデムがつながっているので電話器は要りませんでしたが、
 ハハハ」

ZEEK氏には完全なアリバイが有るようだ。
まあ、この男が人を殺したり出来るのはゲームの世界で将軍になった時だけだろう。

「金沢氏を恨んでいたような人は知りませんか?」

「仲間内では人を恨むとか、そんな事は起こらないと思いますよ、たまに仲間の悪口を

 ボードに書きすぎて喧嘩になるくらいですかねぇ...しかし金沢さんはそんな事は

 無かったと思います、悪口を書く人は決っていますから」

田舎風の暗い木造家屋の二階にコンピュータを置いて、訳の分からない本が
いっぱいの、まぎれもなくマニアの部屋である。
ZEEK氏のひっきりなしに吸うタバコが寝不足の目にしみた...

翌日の捜査会議で被害者の周辺捜査の結果が分かった。
まず被害者は金に困っていた事。
2000万円の手形が月末には落とさなければならない事と、市内の金融業者に
かなりの額の借金があって脅されていた事も分かった。
1カ月程前に、奥さんと別れ話がでて現在別居中である事など、かなり追い詰められた

状況だったようだ。

依然として進まない捜査に佐々警部はカッカしていて、大きな声が響きわたる度に
クーラーの効いた会議室も、下を向いて汗を拭く人間が増えてきた...
なんたって密室の謎が解明されなければ捜査も進展する筈がない。

一向に涼しくならない午後になって泉から明るい声で呼び出しの電話が有った。

「そろそろ被害者の周辺捜査は終ったんでしょ?」

「ああ、終ったけどそんな事知ってどうするんだ?」

捜査の結果を部外者に漏らすのは、やはりためらわれた...
!%

「分かった、すぐ出るから家で待ってて欲しい...」

確かにあの日の被害者の交信記録なら調べておく必要は有るようだ。
泉の狙いはなんなのかよく分からないが。
レジャーマップは名古屋駅のすぐ近くのマンションに事務所があって、
そこにシステムとともにシスオペの丹田正信氏がいた。
丹田氏は背の高い色白の眼鏡の男で年齢は、やはり30代前半のようだ...
なかなか真面目そうな人柄に見える。
もっともこういった一見真面目そうな人間が満員の地下鉄で女性のお尻をさわったり
するのも珍しくはない...

「ええっと、あの日のログを見てみますと...あったあった、BOPPOさんは
 15:00から10分置きにアクセスしています、そして誰がいるか確認して誰も
 いなかったら、すぐにLOGOFFしていますね」

一雄が驚いて言った。

「被害者は14:00頃に殺されているのですよ!犯人か幽霊以外そんな事は出来ない

 筈だ!」

「ちょっと失礼...」

泉が丹田氏の手に持っているログリストを手に取った...
暫く真剣な面もちでリストを眺めていた泉は大きく諾くと椅子から立ち上がった。
目が輝いているのを見ると何か発見したようだ。
「分かりました、どうも有難う..これで失礼しますわ」

あっさりと礼を言って立ち上がる泉に一雄は慌てて後を追った。

エレベーターの中で考え込んでいる泉を追って、一雄は閉りかけたエレベーターの
ドアをあわてて開くと、走り込んできた。

「おい待てよ...何か分かったのかい?」

「分かったわ、あれは幽霊だって事がね」

「なにか分かったのなら、少しは教えてくれてもいいだろう」
e$2$i$l$k$H;W$&$1$I!"$^$@BLL\$h!%!%!%
 情けない事言ってないで大胆に推理してみなさいよ」

「そんな事言ったって犯人があの部屋から脱出出来る方法が分からないのだから推理の

 しようがない...」

名古屋駅から地下鉄で泉の家に帰るつもりだったが警察の捜査の結果が聞きたいという

泉の要求で地下鉄大須観音で降りて、近くの白川公園へと向かった...
いつのまにか夕暮れが迫った白川公園は、ちらほらとアベックの姿が目だち始めて
いる。
一雄と泉も恋人同士よろしくベンチに肩を寄せて座っていたが会話の内容はとても
恋人同士の甘い語らいとはほど遠いものであった...
被害者の周辺捜査の結果を聞き終ると、ニッコリ笑って泉は言った。

「少し気分転換が必要ね...」

突然後ろから一雄の肩に手を回すと首ったまにかじりついて熱烈なキスを...

どうもキス1回でごまかされた感はあるが、密室の謎と引き換えでも損をしたような
気にはならないのが不思議なところだ。
なんとなく鼻歌気分で捜査本部に帰り、相変わらずの佐々警部の仏頂面も、
そんなに気にならなかった...
一雄の推理はともすると脱線気味である。
最初のキスの時、確か泉は「しばらく恋人にする..」と言った筈だ、と言うことは
この事件が解決したら恋人もお払い箱かな?
それから最大の謎は密室殺人より、あんなに魅力的で頭も良さそうな娘が冴えない
平刑事の自分なんかとこうしてつき合っている事だ。

その夜はあまり眠れなかった...

次の日の夕方、やはり明るい声で泉から電話が有った。

「私にはあの部屋で何が起こったか分かっているんだけど聞きたくない?」

推理の結論が出たらしく、自信たっぷりな泉の言葉に一雄は聞いてみたいと思った。

「分かったよ、参考のために聞いといてやるよ」

「すまんすまん、謝るよ...夕食をオゴるから機嫌をなおしてくれないか?」

電話の向こうは少し機嫌がなおったようだ。

「国際ホテルのディナーでフルコースをお願いね...」

とたんに一雄の心臓はドキン!と音をたてた、今日が給料日だからいいようなものの
それでなかったら、とんでもない出費に成ってしまう...

「話を聞いてからだぞ、くだらない推理だったらラーメンにするからなっ!」

電話のむこうは含み笑いしている。

「あら、恋人と給料日のデートにしてはケチるじゃない?」

敵はなんでも先刻承知のようだ、泉の声が続く...
「まだ明るいからホテルのベッドと言うわけにはいかないし、謎解きには殺人現場が
 一番かもね」

金沢氏のマンションに着いたのは5時を少し回ったところで、密閉された室内はうだる

ように暑かった。
なにせクーラーを入れる主人がいないので一日中閉め切りとなっていて、窓を開けたが

一向に涼しくならない。
外の蝉の声が、一層暑さを感じさせる。
家具やコンピュータは、さすがにそのままになっていた、借金取りも殺人現場に
入り込んで、物を持ち出す事まではしないようだ。

しばらくたって、夏らしくレモンイエローのノースリーブのワンピース姿で泉が
現れた。
来るなり顔をしかめて文句を言う.....

「暑いわねぇ!クーラー入れといて欲しいわ」

「俺たちはお客様じゃないからね、勝手な事は出来ないよ...そんな顔すると美人も

 だいなしだなぁ!」

「まぁいいわ、後でゆっくり埋め合せしてもらうから....」




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