AWC 吉外信報68                 大舞 仁


        
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★タイトル (XVB     )  99/11/ 6   7:59  (133)
吉外信報68                 大舞 仁
★内容

『アモールとプシケー』(黄金のろば)より
物語のあらまし(その2)
 その後ヴェヌスの仲間がプシケーを探り当て、彼女を鞭で打ったりその他い
ろんな責め道具でさんざん虐めたあげく、ヴェヌスの前に連れていきました。
ヴェヌスは笑い声を立てて「大きなお腹をして私の気をひいて慈悲心をおこさ
せようというのだろう。結構な子供を産んで私を幸せなお祖母さんにしてくれ
るのだからね。まだこんなに若い女ざかりにお祖母さんなんて呼ばれてさ、し
かも下司なはした女の生んだ子を、このヴェヌスの孫だって世間に言われるな
んて。また万が一子を産むのを見逃しておくにしても、生まれた子供は私生児
ということになるのだよ」こう言い終わるとプシケーにとびかかって、着物を
びりびりに引き裂き、髪をふりほぐし、頭をゆすったりして、さんざんに打っ
ちつけました。そして小麦や大麦や、栗に罌栗粒、小豆、豌豆、蚕豆などを取
り寄せ、ごちゃごちゃにかきまわし一山に混ぜ合わせて積んでおいて、「そこ
にまぜて置いてあるいろんな種子の寄せあつめを選り分けておくれ、一粒ずつ
ちゃんと種類別にしておいてね、夕方までにしっかりと片ずけておくのだよ」
と言いました。
 プシケーはあまりにも乱雑な穀物の山に手のつけようもなく、ただ茫然と言
いつけられた仕事の大きさに、物もいわずに途方にくれているばかりでした。
すると小さな蟻が出てきて、クピードの連れ合いを気の毒がり、姑の無慈悲さ
に腹をたてて、その辺りに住む蟻たちの軍勢をすっかり呼び集めて、一生懸命
にめいめいが一粒ずつ山と積んだ穀物をすっかり始末し、それぞれ別に種類わ
けした後、姿を消しました。
 夜がくるとヴェヌスが帰ってきました。言いつけた仕事がびっくりするほど
立派にされているのを見ると、「これはお前のやったことじゃないね。本当に
悪い女だよ」そう言うと粗いパンの片を放り出して寝間に入っていきました。
 この間中クピードは、たった一人で御殿の奥に、一間の部屋に閉じ込められ
たきり厳重に見張りをされていました。傷を重くしてしまったり、自分の好き
な人と一緒になったりしないようにというわけです。二人の愛する若者同士は
一つ屋根の下別々に引き離されてみじめな夜を明かしたのでした。
 次の日、ヴェヌスはプシケーを呼びよせて「森の奥に泉があって、その辺り
には金色のかわごろもにかがやいた羊たちが見張りもなしにいつも草を食べて
遊んでいるのだよ。羊の毛皮から毛を一房私にとって来てほしいのだがねえ」
と言いました。
 プシケーは唯々とすすんで出かけました。その命令を果たすというよりも、
河に身を投げていろいろな災難から憩いを得ようというつもりでした。ところ
が、緑の葦が優しく歌いながら諭してくれるのでした。「いろいろな苦労に心
を痛めたあげく、憐れな最後を遂げて、この聖らかな水を穢してはいけません。こ
んな時間に恐ろしい羊どものところに近づいては駄目ですよ。今は太陽から炎
熱を受けて、いつも酷く荒れ狂うので、人間を死なせてしまうほどなのです。
けれども夕方となり、羊どもがおだやかな河原に鎮まるころには、背の高い木
の下に身を隠すことができるでしょう。羊どもの張り詰めた気も弛んできて、
すぐわきの枝葉をゆすれば、金色の羊の毛が見つかるでしょう」
 葦の言ったとおりにプシケーは行い、無事柔らかな金色の羊の毛をヴェヌス
のところに持ちかえりました。ところがヴァヌスは見事果たした危ない仕事を
見とめようとしないばかりか、眉をひそめ苦笑いを浮かべながら、「今度のこ
とだって、誰かがそっと教えたのを私は知っているよ。だけど今度こそ厳重な
試験をしてあげる。あそこに険しい山が見えるだろう。あそこから真っ黒な泉
の水が近くの谷に落ちて淵となり、黄泉の沼地に注ぎ込むのだけど、その泉の
源泉の水が涌き出る奥底から、冷たい水を一杯この小壷に汲んできておくれ」
と言うのでした。
 プシケーは山の一番高みへと向かって参りました。今度こそこの上もなく惨
めな自分の命に決着をつけようと思ってです。峰にやってくると、この途方も
ない大仕事の命にもかかわるほどの難しさが解ってきました。大きな岩がそび
えていて、滑りやすく近よることなど思いもよらず、身の毛をよだつような恐
ろしい噴流が出て、洞窟の裂け目からはそのまま滝となって崖を流れ落ち、行
く道にえぐりつけた狭い水路に隠されたまま、近くの谷あいへ落ち込んでいる
のでした。
 この有様を見るとプシケーは石になったように眼や耳の感覚はぼうっと脱け
てなくなり、最後の慰めという涙さえ出ないありさまでした。
 気高い大鷲が来て、「この世にも聖いとひとしくまた情け容赦もない泉の水
を、一滴でも手に入れようと、いえそれどころか手に触ることさえもかなおう
と思っているのですか。さあわたしが手助けいたしますから、小壷をおよこし
なさい」こう言うと、水を満たしに急いで飛び立ち、大きな翼をゆらゆらと揺
りはためかせて、水を汲んできました。
 こんな大仕事をしたプシケーをヴェヌスは認めません。命の縮むほど恐ろし
い微笑みを浮かべ、プシケーを呼んで「お前さんは大した魔法使いとみえるね。
全く気味が悪いよ。この小箱を持って、冥途の冥王御自身が住んでいる亡者の
棲家へ行って、お妃のプロセルビナにこう言うのだよ―ヴァヌス様の御依頼に
は、あなた様の好い御容色をほんのちょっぴり、ほんの一日の間保つだけ、分
けてくださいますよう。前からのご自分の御容色は、御子息の病気の看病です
っかり減らし使い果たしてしまいましたので―ってね」と言いました。
 プシケーは今度こそ自分の運もこれまでと覚悟し、とりわけて高い塔のとこ
ろに行き、そこから身を投げようとしたのです。ところが塔が急に物を言い出
して「一番お終いの難題のこの仕事で考えもなくへこたれてしまうのです。蜜
酒でこね固めた大麦粉のお餅を持って、口のなかには銅貨を二枚くわえて行く
のです。冥界に行く途中で、薪を積んだ馬が馭者にひかれてくるのですが、荷
から落ちる小枝を拾ってくれと頼まれても、あなたは一言もものを言わずに黙
って通り過ぎるのです。三途の河へ着くと、河守のカローンが渡し賃を請求し
ますから、口から直接一枚だけ取るように仕向けるのです。河を渡る途中年寄
りの亡者が手を差しだして船の中へ引き上げてくれと言いますが、憐れみに打
ち負かされて引き上げてはいけません。河を渡って少し行くと機織りの婆さん
が布を織っていて手を貸してくれと頼みますが、これも手伝ってはいけません。
これらはヴァヌスの奸計から出ているもので、あなたの手から麦粉餅を落とそ
うとしているのです。大きい首を三つも持っている猛犬がプロセルピナのお宮
の番をしています。その犬にそのお餅を一つだけやって手なずけると楽にそこ
を通りぬけられ、プルセルピナのところにいけるでしょう。お妃は腰をかけて
御馳走を食べるよう勧めるでしょうが、あなたは座るのも地面にして、食べ物
を粗いパンをもらって食べるようにするのです。そうしてからわけを話して、
お妃のよこしたものを受け取り、犬に残りの餅をやり、船頭にまだ口の中にと
っといる銅貨をやり、その船で元来た道を戻るのです。ただ何より気をつけな
ければいけないのは、どんなことがあっても小箱を開けようとしたり、覗いた
りしてはいけません。どうあろうとその中に隠されている神々しい美しさの秘
宝を、物好きに調べてみようなどと思ってはいけません」塔はこまごまと親切
に教えてくれました。
 プシケーは塔の言ったとおりのことをして、一方プロセルピナは小箱の中に
何かを入れて固く蓋をして渡してくれました。
 プシケーは来た道を帰り、もとのあかあかした日の光を仰ぎ、手を合わせて
伏し拝んでみると、今までは早くいいつけられた勤めを果たそうと思っていた
ものが、向こう見ずな好奇心が胸に湧きだってきて、神々しい美しさを愛しい
良人に気に入られようと、ほんのちょっぴりお裾分けに預かろうという気持ち
になり小箱を開けました。
 するとどうでしょう。小箱の中には何も入っていず、ただ幽冥界の―地獄の
眠りだけが、蓋をとったプシケーにかかり、たちまち彼女はその場に崩れおち
て、じっと身動きもせず、その姿は死屍と何の相違もありません。
 クピートはもう傷跡も固まり治ったので、プシケーと長い間別れているのが
我慢しきれなくなり、閉じ込められていた部屋から抜け出すと、眠り続けるプ
シケーのところへ飛んで駆けつけました。そして、プシケーの持っていた小箱
を閉めなおすと背中の矢の先端でプシケーを呼び覚まして「可哀想に、お前は
今度も同じ好奇心から死ぬところだったじゃないか。だけどもお母様の言いつ
けの仕事を早く果たしておしまい。後のことは私が始末をつけるから」と言い
ました。プシケーはヴェヌスの元へプロセルビナの贈物を持っていくのでした。
 その間にクピートはユッピテルの御前に事の次第をのべたてて助けを求めま
した。ユッピテルは神様方みんなを会議に集め、神々の前で「クピートは一人
の乙女を選んで、深い間になっている。だからその女と固い契りを結び、末永
くプシケーと添い遂げさせるのはよろしかろうではないか」と言いました。そ
してプシケーを天上に連れてこさせた不死の神酒を盃に満たして差し出し「プ
シケー、さあ飲んでとこわの命を得よ、さすれば未来永劫この縁の絶えること
もないだろう」と言いました。
 御婚礼の御馳走が所狭しといっぱいに並べられ、一番の上席には花婿、花嫁
が座をしめすと、次にはユッピテルもお妃のユーノともども腰をかけ、順ぐり
にすべての神様方を席につきました。さまざまな神が二人を祝福しました。
 こういう風にしてプシケーは正式にクピートのところへお嫁入りして、やが
て二人の間には月満ちて一人の娘が生まれました。これが『喜悦』と呼ばれる
女神です。

第一回はあらすじ(物語のほとんどという声もあるが(苦笑))についやして
しまいました。まあ、長い文章を少しまとめただけの練習文章としてもよろし
かろうということで皆様まけてくださいまし、来週からはアモールとプシケー
について女性のための自己実現です。
なお、エリック・ノイマン著 『アモールとプシケー』河合隼雄監修 玉谷直
實 井上博嗣 共訳 を多いに参考にさせてもらいました。





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