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★タイトル (GLD ) 96/ 9/ 6 19: 1 (130)
熱闘!ブロンコス96(3) Faith
★内容
1996年9月2日(月)正午。ほとんど英語なんてわからないくせに、水上は街
を歩きながらラジオでFENを聞いていた。イヤホンから怒濤のような早口英語で、
今週のNFLの試合結果が流れてくる。
英語が分からないとは言っても、チーム名とどっちが勝ったかぐらいは、神経を集
中すれば繰り返し聞いている内にわからないこともない。ただ、アナウンサーが試合
結果以外の情報や冗談をまじえながら話すので、けっこう難儀するのも確かだ。
が、どうやらチーフスがオイラーズを破ったのが聞き取れたらしい。いきなり人混
みの中で立ち止まり、イヤホンを差した側の耳を手で押さえながら神妙な顔つきをし
たと思ったら、突然、拳を振り上げガッツポーズを決める水上を、横を歩いていた食
事に行くらしいOL達が指を指して笑った。
正木は昼休みのベルと同時に、職場のパソコンをインターネットに接続した。お目
当てはもちろん、NFLのホームページだ。すでに昼飯のことは頭にない。
「ホストに接続中」の表示が消えるのを待つ時間が長いが、去年までは月曜夜のN
HK−BSのスポーツニュースか、火曜日の朝刊を待つしかなかったのだから、職場
のパソコンからインターネットに入れるようになったおかげでこの時間に試合結果が
分かるようになったのだ。文句を言うのは贅沢というものか。
念のため断りを入れておくが、NFLではその週のほとんどの試合を日曜日に行う
が、時差の関係上、現地で日曜午後であれば日本では月曜午前中となる。つまり、ア
メリカで日曜日にやった試合の結果が日本の新聞に載るのは火曜日ということになる
わけだ。
そうこうするうちに、ようやくインターネットに接続され、正木は日曜日の試合結
果を呼び出した。
Philadelphia 17 - 4 Washington Final
Cincinnati 16 - 26 St.Louis Final
Arizona 13 - 20 Indianapolis Final
試合結果が次々と表示される。そして・・・
NY Jets 6 - 31 Denver Final
「よっっっっっしゃぁっ!」
まわりの目も気にぜず、思わず力いっぱいガッツポーズの正木。デンバー・ブロン
コス、まずは開幕戦勝利である。もともとブロンコスは開幕戦の勝率はけっこういい
のだが、これでAFC一位の23勝13敗1分となった。マイク”出戻り”シャナハ
ンHC(ヘッドコーチ)にとっては4年連続の開幕戦勝利だ。
「正木さぁん、ブロンコス勝ったんすかぁ」
ゲームの詳細を表示したところで、間延びした声で同僚の藤代が声をかけてきた。
実は藤代はブロンコスファン歴は正木より長い。
「おう。前半の23分までで4タッチダウンの猛攻だ。しかもオドちゃんを8回もサ
ックしてるぜ」
オドちゃんとはジェッツのQBニール・オドネルのことらしい。スティーラーズか
ら今年移籍してきたベテランだ。
「じゃぁ、ずいぶん守備がよくなったんだ。行けますねこれは」
「おーともよ」
「あれ、でもエルウェイが2回もインターセプトされているんだ」
「んー、ま、その辺はいいんじゃないか。勝ったんだから」
ブロンコスはエルウェイの加入以来、攻撃力はかなりのものであった。にも関わら
ずこのところ低迷していたのは、ディフェンスの建て直しに手間取ったためである。
そこが補強されているとすると、今年は確かに行けるかもしれない。
「正木さん、来週の相手はどこすかぁ」
「えーとだな、アウェイでシーホークス戦だ。楽勝だな」
確かに、格でいえばブロンコスの方が上かもしれない。がしかし、去年の成績は五
分だ。AFC西地区は油断していい地区ではない。
「AFC西地区のほかのチームはどうだったんすか」
藤代が地区優勝争いのライバルたちの動向を気にした。
「えーとだな。チーフスはオイラーズに辛勝。お、レイダースはレイバンズに負けて
るな。チャージャースとシーホークスの地区内対決はチャージャースの勝ち」
「何すか、レイバンズって。そんなのありましたっけ」
「ああ、クリーブランド・ブラウンズが今年からボルチモアに移転して、チーム名も
変えたらしいんだ」
「へー。最近、そういうの多いっすね」
チームが弱いと、観客動員が減るしテレビ中継も少ないから、収入が少なくなって
経営に苦労する。弱くても市民に愛されるチームもあるが、地元が応援してくれない
と選手もフロントもやりづらい。というわけで、成績の振るわないチームが移転した
がるというのは珍しいことではない。
迎える都市の側は、オリンピックの誘致合戦なみに勧誘するから、条件さえ整えば
わりとあっさり移転してしまう(NFL本部の承認が必要であるが)。川崎のロッテ
・オリオンズが千葉に移転するとき、千葉県民の中には「あんな弱小チームが県内に
来たら恥だ」という者も少なからずいたが、NFLのチームが街に来るというのは経
済効果と市民のプライドへの影響力が比じゃないのだ。
同じ頃、西村”フリーター”も自宅のパソコンから正木と同じ画面を見ていた。
ひいきのジャイアンツはビルズと対戦し、延長に入って20対23で負けていた。
(ジャイアンツはNFC、ビルズはAFCの所属であるが、レギュラーシーズン中に
何試合かはカンファレンス間での対戦がある。日本のプロ野球に置き換えるなら、ペ
ナントレース中に巨人と西部が対戦するようなものである。)
(ビルズ相手にほぼ互角なら、去年よりマシになってきたってとこか。しかしこの試
合内容じゃなぁ)
そもそも17対0から追いつかれたのが気に入らない。延長の6分19秒、攻めて
いたジャイアンツだったが、自陣41ヤードからパスを投げようとしたQBブラウン
がビルズのブルース・スミスにヒットされて落球。これを敵に奪われて攻守交代とな
り、最後はフィールドゴールを決められて万事休す。一番、応援のしがいのない負け
方だった
(来週は敵地でカウボーイズ戦か。こんな調子で勝てるのかよ)
とつぶやいた途端、携帯電話が鳴った。
電話にでる瞬間に、いやな予感は、した。
『ゆたか?ファルコンズどうだった?』
いやな予感が的中した。めぐみだ。
「あー、えーとファルコンズ?」
聞こえているのに聞き返す。まさか、去年結成されたばかりの新興チームであるパ
ンサーズに負けたとはいえない。
『試合あったんでしょ。勝ったの?』
「えーとね」
しかも、29対6の大差で負けたなんて言えない。
『・・・・・』
いきなり、めぐみが沈黙した。まずい。気付かれたか?しかし得点がフィールドゴ
ール2本だけなんてブザマなゲーム内容を知ったら、めぐみはアメリカ大使館に怒鳴
り込みに行きかねない。
もちろん、めぐみも人並みに常識ある大人だから、そんなことをするわけはない。
しかし西村はマジでそう心配した。
『ふーん、負けたんだ』
声に、思いっきりトゲがある。開幕でいきなりコケるようなチームを人に押しつけ
やがったな、そんな声だ(少なくとも西村にはそう聞こえた)。
「あ、いや、その、勝負に勝ち負けはつきものだし」
『次の試合は勝つよね。開幕2連敗なんてがまんできないわよ』
「だ、大丈夫だよ。ファルコンズは弱いチームじゃあ、ない。そうそう連敗はしない
さ」
『聞いたわよ、今の言葉』
唐突に電話が切れた。多分めぐみの同僚は午後一杯、不機嫌なめぐみの表情に戦々
恐々とするのだろう。めぐみは静かに、周りの空気が凍り付くような冷めた目で怒る
タイプの美人だ。
きれた電話を置いた西村は、パソコンに向き直った。来週の試合のスケジュールを
確認する。
「大丈夫だろうな、ファルコンズ」
独り言を言うようなタイプではないが、思わず口に出して言った。今の西村に、ジ
ャイアンツのことは頭にない。
画面に表示された、ファルコンズの来週の相手は、
MINNESOTA homegame
「バイキングスか。えっ、バイキングスぅ!」
バイキングスのQBといえば、カナダのプロリーグの時代から数えて通算パス距離
の記録保持者のベテラン、ウォーレン”苦労人”ムーンではないか。一方のファルコ
ンズは去年のパスに対する守備は30チーム中29位のドン底だ。
「勝ってくれよぉ」
思わず天を仰ぐ西村であった。
次週(第2週)
ブロンコス 対 シーホークス (デンバー・マイルハイスタジアム)
チーフス 対 レイダース (カンザスシティ・アローヘッドスタジアム)
ファルコンズ 対 バイキングス (アトランタ・ジョージアドーム)
ジャイアンツ 対 カウボーイズ (ダラス・テキサススタジアム)
−To be continued.−