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推理小説的読書法「レディア・サーガ」3 永山
★内容
「あんたら、砂漠を越えて来なさったのかい?」
ラルムが振り向くと、そこには陽気そうな中年男が立っていた。
男は、砂にまみれたラルムとリアを興味深そうな目で、しげしげと見つめてい
る。
「ああ、そうだ」
「へぇ、そりゃあ凄い!」
男は身振りを交えて、些か大袈裟に驚いて見せた。
「何せ、ここ数年、あの砂漠の広がり方と言ったら! この街だって、去年の今
頃は豊かなの土地で、砂漠からは遠く離れた所に有ったんですよ。
それが今では、砂漠の入り口の街となっちまった。尤も私の知る限り、ここが
砂漠の入り口になっちまってから、砂漠を越えてきた人間は、あんたらが初めて
ですがね」
砂漠を越えてきたラルム達が珍しいのは判るが、どうにも男の話し方は大袈裟
すぎる。
おそらくは話すことを生業とする者、身なりから判断して商人であろうとラル
ムは思った。
「あなたの様な屈強の戦士ならともかく、そちらの娘さんはよくもまあ、生きて
砂漠を越えられたものだ………。さぞかし、辛い事だったでしょう」
男はラルムの腕に抱かれる様にして、ようやく立っているリアに同情の眼差し
を向けた。
「すまんが妹に水を一杯、貰えないか? 必要なら、もちろん金は払う」
「水ですか………何しろ街の井戸も、ここ数年はめっきり水の量も減ってしまい
ましてねぇ。街の住人も割り当てが決められている始末で………」
そう言って、男はしばらくの間、疲れ切ってぐったりとしたリアの顔を見てい
た。
「いいでしょう! どんな事情かは知りませんが、こんな可愛らしい娘さんが、
命を賭けて砂漠を越えて来たんだ。水の一杯や二杯、喜んで差し上げましょう。
私の店はすぐそこです、着いて来て下さい」
それは店と呼ぶには、些か寂しさを覚える物だった。
街角に日除け付きの小さな台を置き、その上に数種類の果物を並べて有る。そ
れだけの物だった。
「ささ、お嬢さん飲んで下さい。おっとと、一気に飲んじゃいけませんよ。乾き
きった身体が、びっくりしてしまいますからね。ゆっーくり、ゆっくりとね」
そう言って、男は木の器に水を注ぎ、リアに手渡した。
器を手に取ったリアは、一瞬ラルムの顔を見た。兄より先に水を口にする事を、
躊躇したのだろう。ラルムは小さく頷いて、先に飲むようにと促した。
「主は果物を商っているのか?」
リアが水を口にするのを確認して、ラルムは訊ねた。
「へへっ、主なんて呼ばれる程、大層な商いはしてませんがね。何、果物には限
りません。行く先々で手には入る物を仕入れ、それを別の場所で売る、しがない
↑「はいる」が「は いる」になった変換ミス?
旅の商人ですよ」
男は、出会ったときから一瞬たりとも絶やしていない笑顔で、そう答えた。
「旅の? しかし砂漠の入り口とはいえ、それを越える者も越えてくる者も無い
様では、商売にならないのではないか?」
「いえ、そうでも無いんですよ。砂漠化のせいで、この街自体、いろいろと品不
足で住民がいい客になってくれますし。街の西にはオウル山脈沿いのルート、北
にはマルカディア草原のルート、そして北東には海へ出るルートが有るお陰で、
この街を出入りする旅人自体は少なく無いんですよ」
そこまで言うと、商人はやや声を低くした。
「もっとも、どのルートにも、邪神の復活以来怪物が出ますからね。あなたの様
な屈強な戦士か、そういった人を護衛に雇わなければ、ちょっと恐ろしいですが
ね。
それにどういう訳か、砂漠化もこの街の手前で、足踏みをしている様なんです
よ。
噂では、邪神を復活させた魔導士の意志だって事ですが、私はそれ以外に何か
有ると睨んでるんですがね」
見ると、商人が長話をしている間に、リアはすっかりと水を飲み干していた。
僅か一杯の水ではあったが、今のリアにはどんな薬よりも効いた様だ。その顔色
は、先程と比べて明らかに良くなっていた。
「おっと、話に夢中ですっかり忘れていました! 戦士様も、喉が乾いておいで
でしょう」
商人はリアから、空になった器を受け取り、それに店の裏に置いた瓶から水を
汲む。
「ささ、どうぞ」
ラルムが商人から差し出された器を受け取ろうとした時、通りの向こうからざ
わめきが聞こえて来た。
「捕まったぞ! シンシアの奴が、とうとう捕まったぞ」
騒ぎの方向から、そんな声が聞こえてきた。
「シンシア? 何者だ」
「ああ、この街に住み着いている盗人の娘ですよ。盗人と言っも、心根は悪くな
い子なんですがねぇ。とうとう捕まった様ですねぇ」
「娘………主、その娘の年齢は?」
「さ、さあ………16、7ですかねぇ。そちらのお嬢さんと、同じくらいじゃあ」
そこまで聞くと、ラルムはもう、騒ぎに向かって動き始めた。
「リア」
「は、はい」
リアもまた、慌ててラルムの後を追う。
「あ、戦士様。お水は」
「すまん、主。世話になった」
走りながら、ラルムは商人に一枚の金貨を投げ渡した。
「なんだい、行っちまったか………」
ラルム達が立ち去った後、商人はその手に残された一枚の金貨を、しげしげと
眺めていた。
「いくらなんでも、水一杯に金貨一枚とは………大したもんだね」
商人は金貨を空に放り投げる。
そして落ちて来た金貨を掴み、にやりとした。
「まあ、いいか。お嬢さんの方は、ちゃんと喉を潤わせられた事だし」
「とうとう捕まえたぞ! このクソあまめ!!」
男は地に伏した娘を踏みつけ、誇らしげに言った。
「手こずらせやがって。だがそれも今日で終わりだ。いままで俺様の店から、散
々売り物をかっぱらってくれた礼、たっぷりとさせてもらうぜ」
どうやら男は商人の様だったが、その粗野な話し振り、長髪に伸ばし放題の髭
といった風貌、顔や手足に見られる無数の傷跡。それらを見る限り、真っ当な商
人とは思えない。その見て呉からは盗賊と言った方が、皆が納得しただろう。
「おい、このアマをふん縛れ!」
男が命令すると、後方に控えていた巨漢の男がその手に持っていた縄で、娘を
後ろ手にして縛り付けようとした。
「くそっ、汚い手で触るんじゃねぇ! こら、デブ、離しやがれ!!」
娘は男に負けない口汚さで叫びつつ抵抗した。
しかし巨漢の男は手足をばたつかせた娘の抵抗など、全く気にせず、瞬く間に
縛り上げてしまった。
「よーし、上出来だ」
縛り上げられた娘を見下ろし、長髪の男は満足げに言った。
「畜生! あたいをどうする気だ!」
↑女盗賊だから「あたい」? ここまでスタンダードにやられると、
ちょっと……。
自由を奪われてもなお、娘は挑戦的な目で男を睨み付ける。
「さあて………どうしたものかなあ」
周りを取り囲む野次馬達に向けて、少々芝居がかった口調でそう言うと、長髪
の男は値踏みをするかの様に、娘の身体を見つめた。
均整の取れた身体は小麦色に焼け、それが娘の若さを強調している様だった。
短いが、見事なまでに輝く黄金の髪が、肌の色によって一層引き立つ。その身体
を袖の無い一枚布の服を腰の所で、革のベルトで止め、隠している。しかしそこ
から延びた、すらりとした手足、そして袖口から覗く豊かな膨らみは娘自身が意
識していなくとも、その色気を主張していた。
「こうして見ると………ふん、なかなかいい女じゃないか。えっ、シンシアよ」
男は屈み込み、シンシアの顎を指でしゃくり上げた。
「どうだ、俺の女にならねぇか? そうすれば、これまでの事は水に流してやる
ぜ。それにこれからは、いい思いのし放題だぜ」
男の顔に唾が飛んだ。
「ふん、そう言う科白は、鏡を見てから言いやがれ」
一瞬、シンシアの口元が笑みを作り、次の瞬間には唾が吐き出された。
唾は男のこめかみ辺りに当たった。
↑三行上の、男の顔に飛んだ唾もシンシアが吐いたんでしょうか? そうだ
としたら、唾を飛ばし過ぎのような気がします。恐らく、描写の重複だと
思いますが。
その唾を拭うより先に、男はシンシアの顔を力一杯に叩き倒した。更に男は、
右足で倒れ込んだシンシアの顔を踏みつける。
「上等だ、クソアマめ」
男が目で合図を送ると、無口な巨漢の相棒が一振りの剣を差し出した。
「知ってるよなあ、シンシアよ? このザッカの街の決まりを。確か、捕らえら
れた盗人の裁きは、捕らえた者がつけられるんだっけなあ」
そう言って、男は集まった野次馬達を見回した。野次馬達から、何も反論が無
い事を確認し、満足そうに笑った。
「てめぇも盗人なんぞをやっている以上、覚悟は充分出来てるんだろうな………」
悦に入った表情で、男は手にした剣に舌を這わした。
「もう一度訊いてやる、これが最後だ。俺の女にならないか?」
「誰が! 人間の女が、貴様の相手なんかすると思ってるのか?」
シンシアの顔を踏みつける、男の足に力が入った。
「決まったよ、てめぇの裁きが。斬首だ」
男が足を退かすと、すかさず相棒がシンシアの身体を押さえ付けた。
「アニ……キ、これ」
巨漢がシンシアの首の辺りを見ながら、言った。
「ん、なんだ、こりゃあ」
「こら、気安く触るな」
「うるせぇんだよ」
男はシンシアの胸をまさぐる様にして、それを引き出した。
「こいつは………すげぇ」
それは銀細工のペンダントだった。
円形の縁の中にその弧と接する様に、正方形を二つ、均等な間隔でずらして作
った星形。円と星形との間は、蔦と葉が細かく精巧に細工されている。星形の中
央には、真紅の宝石がはめ込まれ、その周りにを白く輝く四つの宝石が、十字を
↑誤字? 「を」だけでいい?
描く様に囲んでいた。さらに星形の八つの頂点には、それぞれ異なった八色の宝
石。そして、中央の以外の十二の宝石の周りには、星の中央から宝石を抱え上げ
る様にして、神々らし姿が刻まれていた。
↑文字抜け?
「おい、シンシア。こいつを何処で盗んだ? これだけの細工物、そんじょそこ
らの金持ち程度が持てるモンじゃねぇ………そうだな、王族、それも昔のレディ
アぐらいの大国でないと………が、まさかてめぇ如きが忍び込める訳もねぇ。い
や、第一レディアの王族連中が滅んだのは、てめぇが産まれたがどうかの頃だ…
……」
「ごたくを並べてねぇで、返せ! これはもともとあたいのだ」
シンシアが首を振ると、ペンダントは鎖に引かれて男の手から跳ね飛んだ。
「ケッ、まあいい。そいつはてめぇの首をはねてから頂いてやる」
男は剣をゆっくりと頭上に上げた。
「安心しな、これでも俺様は嘗て、レディアの兵士だったんだ。小娘一人の首な
んぞ、一振りではねてやる」
「フン、お前見たいなヤツが? 嘘をつくんじゃないよ。レディア兵は鍛え抜か
れた兵士だったそうじゃないか………顔中に傷を付けられる程度の腕のヤツが、
ね」
「減らず口もそこまでだ」
渾身の力を込めた剣が、シンシアの首に振り下ろされた。
ラルム達が人垣を分けて前に出ると、地に伏した若い娘が、男に踏みつけられ
ていた。
その会話から男は商人で、娘はその商品を盗もうとして捕まったらしい。
「あの子、かわいそう………」
そう言ったリアの顔を見て、ラルムは改めて一杯の水の力を知った。
一時は死人と変わらぬ顔色をしていたリアだったが、先程水を口にしてからは、
少しずつ紅みを取り戻しつつある。
もちろん、完全に元気を取り戻すには、充分な食事と休憩が必要では有ろうが。
「助けてはあげられませんか?」
「いや、この街にはこの街の決まりが有るのだろう。余所者が無闇に、口を挟む
訳には………」
ラルムは途中で言葉を止めた。
「お兄さま、あれは」
リアもまた、それに気付いたらしい。
二人の視線は、男が娘の胸元から引きずり出したペンダントに向けられていた。
「事情が………変わったな」
↑ラルム達が水をくれた主と別れて、騒ぎの起こっているこの場所に足を運
んだ理由が分かりません