AWC レディア・サーガ =第一章(5)=   悠歩


        
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★タイトル (RAD     )  96/ 3/20  23:53  (133)
レディア・サーガ =第一章(5)=   悠歩
★内容

「いらっしゃいまし」
 ラルム達が宿屋に入ると同時に、それを待ち受けていたかの様に主人の声がした。
「一晩泊まりたい。部屋は空いているか?」
「はい空いておりますが………一部屋で宜しいので?」
 頭の禿上がった五十がらみ主人は、ラルムに腕を捕らわれたままのシンシアと、後
ろに控えたリアの顔を交互に見比べながら言った。
「ああ、一部屋でいい」
「あの、大変失礼とは存じますが。まさかシンシアの為に、お手持ちを使い果たされ
たのでは………。あ、いえいえ誤解なさらないで下さい。それならそれで、仰って頂
ければ何とか致しますので。シンシアの命を助けて頂いたお礼でございます。ですか
ら、ええ、あの、その娘に、どうか乱暴な事だけは………」
 どうやらこの主人も、先程の野次馬の中にいたようである。
 それにしても、このシンシアという盗人娘は、意外にも街の者達に人気が有るよう
だ。
「心配は無い」
 そう言って、ラルムが僅かに首を振って促すとリアが前に歩み出て、主人に銀貨を
一枚手渡した。三人が一泊するのには、充分な額である。
「レディア銀貨だが、使えるだろう?」
「はい、もちろんでございます。レディア製は物が確かですから、今でも充分に。で
は、お部屋にご案内致します」
 ラルム達の前に立って主人は食堂になっている一階を横切り、その奥に有る階段を
上った。
「それではごゆっくり。何かご用が有りましたら、わたくしは一階の方に居りますの
で」
 二階の突き当たりの部屋にラルム達を案内すると、そう言って主人は下へと戻って
行った。
「それでは私は食糧の買い出しに行って参ります」
 部屋に入って一息付く間もなく、リアが言った。
「無理をするな。せめて食事をして、体力が戻ってからでもいいだろう」
「いえ、私はもう大丈夫です。それに明日は早くに、出立しなければならないのでしょ
う?」
 ちらりと、リアはシンシアの顔を見た。
「では、行って参ります」
「あの子、気を利かせたんだろうね」
 リアが立ち去ると、それまで不機嫌そうにベッドに腰掛けていたシンシアが、初め
て口を開いた。
「気を利かせた?」
「そうさ。それにしてもあんた………」
「ラルムだ」
「ふーん、別に名前なんてどうでもいいけど。一体、どう言うつもりなんだい。あん
な可愛い子がいるのに、その前で別の女を買うなんてさ」
「リアは妹だ」
 シンシアは少し驚いた様な顔をした。
「妹? らしくないね、あんたら兄妹。まあ、いいけどね」
 そして抱きつく様に首に手をまわし、ラルムをベッドに座らし、自分もその横に座
る。
「あんたには礼をしなくちゃ、ね。命を救ってもらったんだから」
 ラルムの頬に自分の頬を寄せて、甘い声で囁いた。
「あんただって、私の身体が欲しかったんだろう。でなきゃ女一人にあんな大金、払
えないものね。この………ド助平野郎!!」
 そう叫ぶと、シンシアはバネが弾ける様に素早く立ち上がった。その手には、ラル
ムの腰に有った筈の大剣が握られている。
「ふん、あたいを甘く見ないで欲しいね。あたいを抱きたがる助平野郎は、てめぇ一
人じゃ無かったさ。おかげで、こういう状況には慣れちまって。未だあたいを抱くっ
て光栄に、預かった野郎はいないのさ。あんたも命が惜しければ、諦めな」
 シンシアは凄んで見せたが、ラルムの大剣はあまりにも重すぎた様だった。両手で
しっかりと握っているにも関わらず、切っ先は地に付いたまま、持ち上げる事が出来
ていない。
 その様子を、ラルムはおかしそうに見ていた。
「なんだい、あたいがこの剣を使えないと思って、馬鹿にしているのか」
 ラルムの表情に気付いて、シンシアは腹を立てた様だ。
 むきになって、剣を持ち上げようとする。ぷるぷると震えながら、僅かに切っ先が
上がった。だがシンシアの力では、それが精一杯だった。すぐに力尽きて、ガツッと
鈍い音と共に剣先は床を叩いた。
「その剣は女が扱える様な代物ではない。俺は別にお前を抱くつもりで、奴等から助
けた訳ではない。だから、安心して剣を返すんだ」
 ラルムはなだめるように言った。が、それがかえってシンシアの癇に触ったらしい。
「へん! 気取りやがって。何様のつもりだい」
 手に負えぬと分かった剣を床に叩き付けると、シンシアは部屋を飛び出そうとした。
 それまでは落ち着き払っていたラルムは、突然疾風の如き素早さで立ち上がり、シ
ンシアの腕を掴んだ。
「クソったれ、やっぱりあたいの身体が、欲しいんじゃないか!」
 キッとラルムを睨み付けるシンシア。だが当のラルムは、シンシアを見ていなかっ
た。その厳しい視線は、ドアの外に立つ者へ向けられた。
「何者だ」
「私ですよ、お忘れですか戦士様」
 そこには人懐っこそうな笑顔を湛えた、中年の男が立っていた。ラルム達が街に着
いた時に、リアに水を恵んでくれた商人だった。
「あんたか………一体何の用だ?」
「実は私も、広場での事を見て居りました。シンシア、あんたいい人に助けてもらっ
たね。感謝しなくちゃいけないよ」
 男はシンシアに対して、親しげに話し掛けた。しかし、シンシアはそんな男を怪訝
そうに見返す。
「あんた、最近街に来た商人だね。あたいは、あんたの事をよく知らないんだよ。あ
んまり馴れ馴れしい態度をとるんじゃないよ」
「おやおや、それは。戦士様、ちょっとお邪魔してよろしいでしょうか?」
 そう言うと、男はラルムの返事も待たずに部屋に入り、窓際の椅子に腰掛けた。
「私もあの騒ぎを、野次馬として見てましてね。その際、シンシアさんのペンダント
も遠目にですが、見ることが出来まして」
「だから、何だって言うんだい」
 ラルムの腕を振り解いたシンシアは、腕を組んで男の前に立った。
「はっきり言いましょう。私に譲って欲しい。五千、いや一万ディア出しましょう」
「ふざけんなよ! こいつはあたいを育ててくれた………」
「ちょっと待った」
 興奮して今にも飛び掛かりそうなシンシアを制し、ラルムが前に出た。
「貴様、何者だ?」
「はあ、私はしがない旅の商人で御座いますが」
 質問の意図が分からない、と言った様な顔で男は答えた。
 ラルムは男の目を睨み付けたまま、床に捨て置かれたままの剣を拾い上げた。
「最初に会った時の口振りでは、街に随分と詳しい様だったが。今のシンシアの話し
だと、貴様がこの街に来たのは、つい最近だと言う」
「ほう、確かに少し不自然かも知れませんねぇ」
 男はラルムの指摘に対し、特に取り繕う事もせず、その矛盾を素直に認めた。
「まさか貴様、『闇の者』か」
「だとしたら、如何なさいますか? ラルム・ザダック・ラドウ様」
 答える代わりにラルムは剣を振るった。

「あ、あんた………なんて事をするんだい! この人殺し」
 男の首が宙を舞うの見たシンシアは、震える声でラルムを非難した。だがそのラル
ムは、まだ剣を構えたまま床に転がった男の首と、椅子に腰掛けた身体を交互に睨み
付けている。
「まだ殺してはいない様だ」
 シンシアはラルムが狂っているのだと思った。
 そして恐る恐ると、男の身体と頭を見た。或いはラルムが現れなかったら、あの野
盗崩れの男共の手で、自分が辿っていたかも知れない姿と重ね合わせながら。
 だが何か不自然な気がする。思ったよりも、男の身体も頭も出血していない。
 こんな物なのだろうか。
「ひっ!」
 ラルムの視線の先を追ったシンシアは声にならない悲鳴を上げた。床に転がった男
の首が、シンシアの目が合った瞬間、ニヤリと笑ったのだ。
「心配頂いて光栄ですよ、シンシアさん。でもね、私はこのくらいの事では死にませ
んから、安心して下さい」
 男の首は、先程まで全く同じ口調で言った。そしてそれまで椅子に座っていた身体
がゆっくりと立ち上がり、首を拾うと、もと有った位置へと戻す。傷口は瞬く間に消
えて行った。
「な、なんなんだよ、こいつ」
 シンシアの声は震えていた。自らの死を覚悟した時よりも、激しく心臓が鼓動をし
ていた。                            クグツ
「私は黒の一族、ラルム様の言われる『闇の者』。我が名はグァーバ、傀儡師グァー
バ」
                    第一章(6)へ続く





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