#4632/7701 連載
★タイトル (AZA ) 96/ 2/25 13:28 (190)
うちの文芸部でやってること 6−8 島津義家.他
★内容
−−「モーラッド」
「モーラッド」は盛んに反響波を打って、敵艦の位置を特定しようとしてい
た。共鳴反応ではなく反響波を使っている理由は、敵艦の向きを知りたいから
だ。共鳴反応はより確実に敵の位置を特定できるが、魔道石の位置が判るだけ
で、その向きまでは知りようがない。
「敵の向きは、まだわからんのか?」
ブログナ副長が苛立たしげに聞く。
「動いているのであれば、特定出来るはずです。着底しているのでしょう」
「だが、飛行艦の甲板は平面なんだ。それを頼りに早く見つけろ」
サルケルド魔道長が息を呑んだ。
「まさか……」
「どうした。報告は、正確かつ迅速に、だ」
「それが……、敵艦はこちらを向いています! 手前の山の斜面にへばりつい
ています」
「なに!」
ブログナ副長が目をむく。一方のジラーティ艦長は冷静さを保ったまま命ず
る。
「後部気嚢、強制排気。三、四、九、十各噴射口、全力噴射!」
「モーラッド」はずり落ちるように山の反対側に後退しようとした。だがそ
の船体を半ば乗り出している状態では、どう考えても手遅れだった。
−−「ガンブレイズ」
「敵艦、後退していきます」
エイバー見張り員の報告に、ラモナーグ艦長は口をねじまげた。「むぅ、腹
に叩き込んでやるつもりだったが。反響波誘導。全弾発射」
「ガンブレイズ」の艦首から四発の噴進弾が同時に発射された。
一発は木の梢に尾部の安定板を叩かれ、安定を失って山肌に突っ込み、爆発
した。さらに一発は空中の「モーラッド」ではなく、山頂に誘導されて誤爆。
だが、残る二発が着弾した。
一発は「モーラッド」艦首の衝角に命中、直接の被害はほとんど与えなかっ
たがその破片が艦橋に飛び込んで、指揮要員を負傷させた。もう一発は九番噴
射口に突き刺さり、それを粉砕したところで炸裂した。その破片は内殻を貫通
し、気嚢二つを破裂させた。
「ガンブレイズ」は発射とほぼ同時に右に舵を切り、逃走に移っていた。そ
してそこから二つほど尾根を越えたところで再び着底した。
「二発命中しましたから、それなりの打撃は与えられたでしょう」
喜色を浮かべるシーリング戦務長とは対称的に、ラモナーグ艦長の顔は冴え
ない。
「ああ。だが、沈めた訳じゃない」
それが、彼等が「逃げた」理由だった。四発同時に噴進弾を撃ったため、一
時的に間接戦闘力を喪失したのだ(噴進弾の再装填には我々の感覚でいうとこ
ろの三十秒近い時間がかかる)。もちろん、今は全ての発射管に噴進弾が装填
されている。
「ええ、まぁ、そうですが」
シーリング戦務長が声を落とす。
「さて、どうする? もう一戦を望むか、それともこのまま逃げるか」
「無論、戦うべきです。向こうは損傷しています。叩くなら今でしょう」
ベイラー先任士官が断言する。
「よし、じゃあ、そうするか」
気負う艦橋要員達の中にあって、ラモナーグ艦長は瓢々としたものだった。
−−「モーラッド」
「モーラッド」は半ば不時着に近い形で着底していた。
「応急修理はほぼ完了しました。ただし、艦首砲の旋回は不可能です。噴射口
が破壊された際に、台座が破片で歪んだようです」
ブログナ副長が報告をまとめ、ジラーティ艦長に伝えた。彼は先ほどの被弾
で腕に裂傷を負っていた。
「くそ、なんて事だ」
傍らのモーマー砲術長が吐き捨てる。
「ここは逃げるべきです。駆逐艦一隻を沈めようが沈めまいが、大勢に影響あ
りません。それよりも、本艦が生き残ることを優先すべきです」
ブログナ副長がそれを聞きとがめた。階級はブログナ副長のほうが上だが、
年齢・軍歴は叩き上げのモーマー砲術長のほうが上だ。自然、ブログナ副長の
口調は丁寧なものとなっていた。
「しかし、駆逐艦相手に逃げ出したとなれば、戦士としての誇りに関わる」
「そんなことは問題ではありません!」
「何?」
険悪な空気を察して、ジラーティ艦長が二人の会話に割って入った。
「離脱するにしても、どうやってだ? 反響波は地表すれすれに動けばごまか
せるが、共鳴反応を探られると間違いなくつかまるぞ」
そして、彼はブログナ副長のほうを見た。策を考えてみろ、彼の目はそう言
っている。
「ええ。ですから、それを逆に利用してやるのです」
ブログナ副長は意味ありげな笑みを浮かべた。この戦闘で自分が軍人として
成長していることを、彼は自覚していた。
−−「ガンブレイズ」
「ガンブレイズ」は高度六百まで浮上すると、敵が着底すると思われる斜面
に向けて、ゆっくりと前進し始めていた。ラモナーグ艦長は抜かりなく見張り
員を前方に集中させていたが、やはり頼りになるのは反響波及び共鳴反応だっ
た。
「見えんなぁ」
自ら双眼鏡を構えるラモナーグ艦長がさも無念そうに言う。
「共鳴反応、打ちますか?」
ベイラー先任士官の問いに、ラモナーグ艦長は不真面目な口調で応じた。
「よし、やるべぇか」
共鳴波が放たれる。途端に正面から明確な反応が返ってきた。
「います! 前方、距離一三○○。着底しています」
「照準ー!」ラモナーグ艦長。
「照準、よし!」シーリング戦務長が威勢良く復唱する。
「撃て!」
艦橋の頭上から、鈍い衝撃が響く。噴進弾が発射されたのだ。
着弾。爆発。闇夜に沈む景色が一瞬だけ炎に照らされる。
「!」
前方の見張り所に増援として駆り出されていたエイバー見張り員が唸り声を
上げる。彼は敵の姿を見たのだ。それも、地上ではなく空中に、そしてその姿
は、最初にみたときよりも遥かに大きく見えた。「モーラッド」は左舷を「ガ
ンブレイズ」の正面にさらしていたのだ。
彼はほとんど反射的に伝声管に飛びついていた。
「こちら前部見張り台! 敵艦発見! 本艦の正面、高度は向こうのほうが上
です。距離、二百!」
「二百ぅ?」
さすがのラモナーグ艦長も蒼白になった。反射的に報告のあった空間に視線
を送ろうとする。しかし、衝角が艦橋の上に大きく突き出している駆逐艦の構
造上、直接見ることは出来なかった。
「連中、一体どうやったんだ……」
ベイラー先任士官が信じられないといった表情で呟く。今までとは比べ物に
ならないほど厳しい表情になったラモナーグ艦長が怒鳴る。
「判らんか? あの艦、全部の魔道石を地面に放棄したんだ!」
−−「モーラッド」
ラモナーグ艦長の読みは当っていた。「モーラッド」は魔道反応に探知され
ない為、魔道石を捨てて逃走しようとしていたのだ。
しかし、突然の爆発に、ジラーティ艦長は策が奏効した事を喜ぶより、この
距離に接近されていた事実に驚いていた。
「見張り員は何をやってたんだ!」
ブログナ副長が喚く。
魔道石を全部投棄したおかげて敵の一撃はかわしたものの、敵の接近を反響
波の逆探知出来なかったのだ。
ジラーティ艦長は見張り員を罵るよりも先に行動に移っていた。すなわち艦
尾砲による攻撃を命じたのである。
「駄目です、死角に入っています! 艦を旋回させて下さい」
艦尾砲の砲術手が悲鳴を上げる。それを無視するかのようにジラーティ艦長
が怒鳴り返す。
「五、六、十五、十六番噴射口、全力噴射! 艦尾砲、射角が取れ次第撃て!」
−−「ガンブレイズ」
「ガンブレイズ」は仰角を取った。闇の中に溶け込んだ敵の姿が艦橋からも
見える角度になった。
噴進弾を再装填し、照準している間は無かった。それより先に敵が発砲して
しまうだろうし、第一距離が近すぎる。
「よし、突っ込むぞ! 衝角戦用意! 総員何かにつかまれ!」
ラモナーグ艦長は即座に決断した。艦橋の硝子の内側に、防護壁が降ろされ
る。
「全速前進! 輝光石噴射も使え!」
−−「モーラッド」
「敵艦、突進してきます!」
見張り員が喚く。
「くそ、艦尾砲が間に合わない……」
モーマー砲術長がうめく。その間に、ブログナ副長は全伝声管の蓋をあけ、
声を限りに怒鳴った。
「総員、衝撃に備えよ!」
次の瞬間、凄まじい衝撃が両艦を揺さぶった。「ガンブレイズ」の衝角は「
モーラッド」の下腹に突き立ち、下部構造物を破壊しつくし、気嚢まで達した。
−−「ガンブレイズ」
だが「ガンブレイズ」も無事では済まなかった。「モーラッド」の船底外殻
装甲の一部がめくれ上がり、「ガンブレイズ」の艦橋を貫いたからだった。
それに弾かれたラモナーグ艦長は額から血を流して昏倒した。
「衛生兵! くそ、状況は……、ええと」
指揮を半時動的に与えられたベイラー先任士官は混乱しながらも状況を整理
した。
「被害報告!」
伝声管に喚く。返ってきた報告によれば、衝撃に耐えかね、数名が各所で負
傷したようだった。
「とりあえず、鼻面を抜くぞ。逆噴射開始!」
命令に対し、返ってきたのは意外な報告だった。
「噴射口損傷、逆噴射不能」
「なんてこった」
足元から振動。ベイラー先任士官は、長年の経験でその感覚が意味している
現状を理解した。高度が下がり始めている。浮力が重量を下回った「モーラッ
ド」が衝角に突き刺さったままだからだ。このままでは共倒れになる。
「ええぃ、くそ、どうすりゃいい」
「慌てるな、先任」
彼の背後から頼もしい声。衛生兵の看護によって意識を回復したラモナーグ
艦長が、「モーラッド」の装甲を押し退けながら先任士官のもとに歩み寄った。
頭に巻かれた包帯が痛々しい。
「艦長、大丈夫ですか」
「なんとかな」
「いかがいたしましょう。衝角が抜けません」
「うん。船底後部噴射口、全力噴射」
「えっ」
この言葉には誰もが驚いた。
「本艦が降下しているのは敵艦が重りになっているからだ。だから敵艦を軸に
半回転して、逆立ちする。その後で浮力を最大にすれば向こうが勝手に落ちて
くれる。もし落ちなくても、直接地上に叩き付けられずに済む」
「なるほど」
ラモナーグ艦長が艦尾にある機関部に命令を伝えた。が、機関長の情けない
声が返ってくる。
「それが……。先ほどの衝撃で昇華液、塩水各貯水漕が破損し、流出してしま
いました。本艦はもう、昇華気体を作ることが出来ません」
ベイラー先任士官はあんぐりと口を開けた。
「勝ったと、思ったのにな」
ラモナーグ艦長が自嘲気味に言って笑った。
二隻は文字通りもつれあって着地した。両艦共に懸命に浮力を生み出した結
果、地面に激突してばらばらになるという事態だけは避けられた。
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