AWC 輝光石列伝・外伝 星空の元で 1   島津義家


        
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★タイトル (AZA     )  95/11/30  15:19  (125)
輝光石列伝・外伝 星空の元で 1   島津義家
★内容
輝光石列伝・外伝 星空の元で −−ある戦士の証言

はじめに
 オーリアスの戦乙女・ジョアン=バイオレットの名を知らぬ者は今のランデ
ィール帝国にはまずいないであろう。八千の軍隊を率いて、その三倍のタング
ルーム軍から帝国を守った彼女は、今や伝説となろうとしている。
 私はこの度、彼女の指揮下で戦ったある戦士に話を聞く機会を得た。私の目
的は二つ。あまり具体的な描写をされる事のない、現代戦の実像を知ること。
もうひとつは、神秘のベールにつつまれたジョアンの実像を知ることである。
 前者に関しては、ほぼ満足のいく結果が得られたように思う。ただ、後者に
おいて、多少予想を裏切られた点がある事を先に述べさせてもらう。それは、
また読者諸兄にとっても同様の感想を抱かせるかも知れない。その点は心して
もらいたい。

 王女様? そりゃあ、美人だった。でも、なんというか、うん、格好いいっ
て言ったほうがしっくりくるな。綺麗、とか、可愛い、とか言うよりはな。
 そう。容姿は言われている通り。ブロンドの髪がこう、腰まであって、蒼い
大きな眼はいつも輝いてた。ああ、でも、どんな苦境の時にも笑顔を絶やさな
いってのは嘘だ。逆に俺は、王女様が笑っているのをほとんど見た事がなかっ
たね。そりゃそうだろ。目の前で人がバタバタ死んでるって時にヘラヘラされ
てたんじゃ、こっちがかなわない。
 装備に関しても大体言われている通りだね。ただし、短刀を手に指揮をとっ
てたのはあまり記憶にない。大抵はボウガンを持っていたように思う。なんせ、
あの頃の主兵装はなんといってもボウガンだったからな。兵のほとんどはボウ
ガンを持たされてたと思う。それは直接関係ないか。それに第一、王女様はほ
とんど陣頭指揮なんてしなかった。
 俺たちの部隊は一○八師団と呼ばれていた。師団長はもちろん王女様という
事になっていた。でも、実際に戦闘を指揮していたのは副師団長のライアス一
佐だった。まあこれは後で話す。師団なんて言っても、完全充足の状態でも定
員は八千名でしかなかった。陣地に入ったときはあと千人くらい増強されてた
ような記憶があるが、それでも全然足りなかった。
 戦闘の実際? それを一口に説明するのは難しいな。一つはっきり言えるの
は、あんたらが思っているような剣での斬り合いってやつはほとんど発生しな
い。すくなくとも、俺たちの時のような陣地戦では、そうなるとかなり面倒に
なるんだ。損害が増えるからね。
 敵の数は大体、二個師団だったと思う。それがいっぺんに押し寄せてくるん
じゃなくて、順番に一万人ぐらいが向かってきたように思う。何故かというと、
地形が問題だったんだ。山を両側に挟まれて、戦闘正面が確保できないんじゃ
仕方がなかったんだ。
 俺たちが布陣していたのはウェリア川の南側だった。敵の進路になる事が判
り切っている橋を落とした、その帝国領土側だった。
 ああ、背水の陣ね。そういう話も最初は出てたみたいだな。いやなに、気合
いを入れる為じゃない。川という重要防御地形、それそのものを守る陣地の事
さ。そういう戦術が、今じゃ常識なんだろ?
 結局その案は没になった。何しろ兵の数が八千じゃあ、その前衛陣地を守る
だけで精一杯なんだ。前衛陣地は、強力な主防御陣地があってこそ価値がある
んだ。
 まあそういう訳で布陣したんだが、正面地形はまずまずだった。正面には遮
蔽物がなく、両側からの迂回は森と川に遮られて、大規模には出来ない格好に
なるんだ。ただし、正面は小高い丘になってるのが少し厄介だったな。投石機
の最大射程が丘の向う側になるんで、弾着を確認出来ないんだ。
 それでもウチの投石機大隊には名人がいてねぇ、二、三発敵の弾が飛んでく
れは、方位と方角をあっという間に見抜いちまうんだ。第一、十分に数が揃っ
てりゃ、森の中に置いた偵察班の「敵、射程内に侵入」の合図一つで雨あられ
と叩き込むだけだから、あんまり不安は感じなかったな。
 そう、そういう事。話が逆になったが、戦闘の開始は投石機の打ち合いで始
まる。そして何発か打ったら細かく陣地を動かすんだ。そうしないと、敵がこ
ちらの投石機の位置を見抜いて弾を打ち込んで来るからな。
 ん? そうだ。弾には色々と種類がある。というよりも、適当な大きさと重
さのあるものなら、なんでも飛ばしてたみたいだった。
 俺も詳しくは知らないが、陶器製や、石片を粘土で固めた弾はそれほど多く
なかった。これは広範囲にダメージを与えられるんだけどやっぱり作るのに手
間がかかるんだろうな。大抵は丸く削った石を使った。最後のほう、弾の補給
がままならなくなったときには、水を吸わせた木を輪切りにしたやつまで使っ
てた。効果があったかどうかは知らんがな。
 投石機の弾は投石機だけを狙ってる訳じゃ、もちろんない。歩兵も叩こうと
してる。俺たちの場合は、塹壕に頭を低くして潜ってるが、向こうは大変だっ
たろうな。石が降り注ぐ中を走ってこなきゃならないんだから。
 こっちの投石機は、丘の向う側を射撃範囲としていた。そして丘を越えてき
た奴には、まずロングボウが射撃をかける。
 このロングボウってやつは誰某を狙って射る場合、大体三十レードほどが有
効射程になる。ところが、とにかく遠くまで飛ばせと言われたら、仰角を付け
てうつと、五十レードは届くんだ。
 この場合、ロングボウ隊はひたすら遠くに飛ばすやり方で射っていた。連中
は面制圧射撃とか言ってたな。出来るかぎり素早く、多くの矢を定められた区
域に叩き込むんだ。同時に肩幅より狭い感覚で矢が降り注いだら、絶対によけ
られない。まあ実際はそこまでいかないが、狙って打たなくたって、当ること
は当るんだ。
 その区域を突破した奴に対して、ボウガンを射かける。この射撃にも線制圧
射撃と狙撃の二種類がある。川を越えてきた連中に対しては狙撃が行われてた。
矢が足りなくなったときは投石も結構やってた。あまりダメージを与えられる
訳じゃないが、なにもしないよりはずっとましだ。それに、頭上から石がバラ
バラ降って来るなんて、あんまり気持ちのいいもんじゃないだろ。
 それすらも突破したら、剣の出番かって? いやいや、その前に槍隊が投入
される。川を越えてきた敵をそれで叩くんだ。そう、文字通り叩く。槍は突く
武器じゃない。少なくとも戦場において集中運用するとき、突く事はほとんど
ない。俺たちの隊の槍は四レード近くあるやつで、狙って突くなんて事が出来
る武器じゃなかった。隊伍を組んだ槍隊が、隊長の合図で思いきり振り上げ、
勢いよく降り下ろす光景は、なかなか壮観だったぜ。敵にとっちゃ迷惑だった
だろうけどな。
 ここまで話してると、こっちがいつも一方的に勝っているみたいだな。言う
までもないだろうが、これはあくまでも理想。矢や投石機の弾が十分にあり、
指揮系統が混乱していない、そんでもって敵がこちらど同数か、少ないくらい
でないととてもこうはいかない。
 そうだ。最初の頃はほとんど川に近づくまでに撃退出来ていた。しかし序盤
であんまり景気良く投石機やロングボウを撃ちまくったおかげで、すぐに弾や
矢が切れちまった。
 そうなると、敵が川を越えるまで抑え切れなくなり、時には陣地の一部にも
取りつくまでになった。
 そこではじめて、剣の出番になる。さっきも言ったように兵士のほとんどは
ボウガンを持っていたが、もちろんいざとなったらそれを捨てて剣を抜く。
 俺の所属していた中隊の隊長はオスカー大尉という御方。その大尉が初めて
「抜刀!」と怒鳴った時はさすがに震えたね。その時、俺は一人をようやく負
傷させることが出来た程度だった。まあ、相当へっぴり腰だったろうからな。
怪我しなかっただけでも運が良かったよ。
 敵は毎日やってきた。多いときは日に三回も突撃してきた。全くそれでよく
抜かれなかったと思うよ。敵の攻め方は、あんまり変化が無かった。妙な話だ
とは俺も思う。ちょっとは頭を使えばいいのに、って仲間うちで話した事もあ
る。
 うん。向こうにも軍監がついてたんだろうな。向こうの軍規ではなんて言う
んだったかな。……そう、政治士官。そいつら、軍事も知らないくせに口ばっ
かり出すんだろ? よくそういう話を聞いたような気がする。もちろん、王女
様にも帝国から派遣されていた軍監がいたが、あんまり戦術に口出ししたって
話は聞かなかった。さっきも言ったように指揮はライアス一佐が執っていたし、
ライアス一佐は誰が見ても名将だったからな。文句の付けようも無かったんだ
ろう。
 そんな訳で、俺達は二週間ばかりその陣地で持ちこたえていたと思う。怪我
人はどんどん後送され、あんまりあてにならない新兵がばかり増援に派遣され
てきた。戦闘の中で死傷した指揮官の代わりがいなくなったんだ。さっき話し
たオスカー大尉も、十日過ぎの頃に左肩に大怪我を負って、戦線を離脱する羽
目になった。そのあとはかなり悲惨だった。代理の代理、いやそのまた代理だ
ったのかなぁ、とにかく、俺みたいな奴に中隊長代理の任がまわって来ちまっ
たって訳だ。

−−続く




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