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★タイトル (DXM ) 95/10/ 5 0:18 (113)
紅の霧 〜ノルム王国の野望〜 (4) 宅急便
★内容
◎あらすじ・・・
俺はみゅらーず。異世界から来た騎士だ。ひょんなことからチャムってい
う魔法使いと知り合い、キネムって言う占い師のばあさんの所に連れていか
れて、この世界のことや俺自信のことについての説明を受けた。
しかし、俺が何者なのか、そしてどこで何をしてたのかについては、まだ
いまいち分かってないような気もする。
そして、どうやら異世界から来たのは俺だけでなく何人かの仲間がいるこ
とも聞いた。そして、妖魔も・・・。
そこで、俺はその仲間たちに会いに行くことにしたのだった。
俺とチャムは、この暗い洞窟のような所を歩いていた。どうやら地震は納
まったらしく、先ほどしていた「ゴゴゴ・・・」というような音は聞こえて
こず、揺れも無くなっていた。
「しかしおまえ、誰かに似てるなぁ・・・」
俺は、唐突にチャムに言った。
「誰かって、誰よ?」
俺は戸惑いながら答えた。
「誰って聞かれてもなー・・・・、俺にも分かんねーよ」
「ああ、そうだったわね。たしか記憶が無かったのよね」
そのチャムの言葉は、俺の心に重くのしかかっている。
俺は何でこんな所にいるのか?いったいどこから来たのか?
キネムのばあさんから聞いた話では、俺のことは全然分からなかったが、
仲間に会えば、もしかしたら何か思い出すかもしれない。いや、もしかした
ら仲間から何か聞くことができるかもしれない、そういう思いで俺の頭の中
は一杯だった。
とにかく、そこに行けば、仲間に会えばすべて分かるんだ・・・。
「ところでねえ、あんたさあ・・・」
「ん?なんだよっ?」
「ほんっとのほんとうに、なんにも覚えてないの?」
「なんだよっ、俺が嘘をついてるって言うのか?」
「いやさー、もうかなり時間も経ってるし、そろそろ思い出してもいいんじ
ゃないのかなっ、って思ってね」
・・・なんか、いちいちとうるさい奴だなー、等と思っていると
「なーんて、あんまり気にしないでねっ、ねっ」
はぁー、あまりにも明るくふるまうチャムを見ていると、俺が悩んでいる
ことって、あまりにも意味が無いように思えて、思わず溜息が出てくる。
「ところで、これからのことなんだけどさー・・・」
チャムが言おうかどうしようか迷っているふうにして、俺に言った。
「ん、なんだ?」
「実はなーんにも考えてないの・・・えへっ」
「だぁーっ、おいおいおいっ、おまえ本当に何も考えてなかったのか?」
「うんっ」
チャムはきっぱりとした口調で平然と答えた。
「しかしその仲間のいる場所くらいは分かってるんだろ?」
俺は、仕方ないなと思いつつ聞いた。
「ええ、分かってるわ。分かってるけど・・・・」
「ん、どうした?」
チャムが口籠もってしまったので、俺は聞いた。
「それがさー、実は牢屋に捕われているのよ」
「なにーっ!!」
まったく、なにがどうなってるんだか・・・
「そろそろ説明しないと、これからのことも分からないでしょうから話すわ」
「ふうーっ、やっとかよー」
チャムは周りの気配を伺うと、
「じゃあ、あそこにしましょう」
と言い、目の前の岩場を指差した。
「あれっ、周りが明るくなってるな」
俺は不思議そうに、チャムに尋ねた。
「ここは、外の光が色々な所から漏れてるから、明るいの」
ここは、少し肌寒かった。
「まず最初に言っとくけど、私はあなたの過去については、ほとんどすべて
知っているわ。しかしね、あなたがその時考えていたことや、やろうとして
いたことまでは、当然分からないわ。そして、私はあなたに話せないことも
いろいろとあるの」
チャムは少ししてから話し始めた。
「あなたは20年前、こことは違う世界で生まれた。そして10年後、あな
たはそれまで平凡な生活を送っていたにもかかわらず、いやむしろそうであ
ったからこそ事件に巻き込まれてしまったのよ」
「事件?どんな?」
俺は興味津々に聞いたが、帰ってきた答えは俺の期待していたようなもの
ではなかった。
「あなたは・・・、いい?ここからが重要なの。あなたはとある怪物に襲わ
れてしまうの。ただ、私はその怪物については知識がないから分からないけ
ど、その世界ではとても恐れられていた怪物だったのね」
「なんで俺が襲われなくちゃいけないんだ?だいたい、俺はその時何をして
いたんだ?」
「それは・・・」
突然にチャムが口籠もった。
「ま、いいや。とにかく、それで俺はどうなった?」
「助かったわ。助かったけど、あなたは瀕死の重傷を負ってしまうの。しか
しね、あなたはもともと運が良かったのでしょうね、その時に偉大な治療師
がいて、あなたは回復したわ」
「それで?」
「あなたの運命がそこで変わってしまったのよ・・・」
「???」
俺がどうも話が見えないなと思っていると、チャムは言った。
「ごめんなさいね、私はこれ以上は言えないわ。これ以上言ってしまうと、
私は追放されてしまうから・・・」
「・・・わかったよ」
結局俺はなんにも分からずに謎が深まっただけか・・・。
大体、怪物だの偉大な治療師だの、どんな奴らだったのだろうか?
「それと、もうひとつだけ言っておかなくてはならないことがあるの」
「なんだ?」
「それは、あなたのもっている剣、それをなくしたり壊したりしたらあなた
はきっと自分を見失ってしまうでしょう」
俺は剣をチャムの前に突き出しながら言った。
「なんだと?なんで俺がこんな剣をなくすだけでそんなことになるんだよ?」
俺は、ますます訳が分からないといった具合に剣を眺めた。
「それとも何か?俺の剣にはなにか俺の秘密が封じてあるっていうのかよ?」
チャムは静かにうなずいた。
「そうよ、あなたはその剣をどうにかすることで自分を死に追いやることに
なるのよ。だから、その剣は大事に扱いなさい」
しばらくして、チャムが言った。
「じゃあ、そろそろあなたの仲間に会いに行きましょか?」
「そうだな、行くか」
目指すはノルム王国の王都ノルム、その城の地下牢。
どうも長い長い旅になりそうだという予感が、俺はしていたのだった。
(5)につづくのであった・・・