AWC 吉外信報42               大舞 仁


        
#4532/7701 連載
★タイトル (XVB     )  95/ 9/30  14:50  ( 66)
吉外信報42               大舞 仁
★内容

 今回は地獄の第八層の途中から最後までです。

 第八層 
 第八嚢は、狡知者。謀略を持って人を騙した人が入るところです。ここでの刑は、
火やぶり。焔がひとりひとりをくるむように包んで焼いているのです。つまり魂のホ
イル焼きといったところでしょう。

 第九嚢は、不和分裂の種をまいたもの。生前に中傷したり、仲だがいさせたもので
す。ここでは、鬼が剣のひと太刀で、身体を血潮で彩ってくれると、身体はおとがい
から屁をふる尻まで、身体は二つになり、切られたところから足にかけて、はらわた
がぶらんぶらんとぶらさがり、呑み込んだものを糞にする臭い胃袋や臓物がはみ出し
ます。また喉元をえぐりとられ、鼻が眉毛のつけ根までそがれ、耳も片方しかついて
いません。
 首と胴が離れた人さえいます。でも首がなくなったとしても心配することはありま
せん。首のない胴体が、切り落とされた自分の首をつかみ、ぶらんぶらんと提灯のよ
うに案内させているのです。こうすれば地獄の道も明るくなるというものです!

 第十嚢は、錬金術師、偽金造り。ある者は、頭の先から爪先まで、癩病のかさかさ
が斑になった肌を持つようになっています。彼らはあまりの救いのないかゆさにひっ
きりなしに、爪をたてて掻いています。疥癬のかさぶたを掻きおとす姿は、鯉などの
大きい魚の鱗を包丁でがりがり削ぎ落とすのと良く似ています。
 またある者は、囲いを飛び出した豚のように、噛みつき突っ走りながら、お互いの
首根っこにかぶりついて引き倒し、固い石の谷底をずるずるひいてじゃれています。
 人間の下半身を股のところで切り取ったなら、琵琶のような形になる人が、肺病や
みのように口をぱかんとあけたままで、上唇はひたいに、下唇はあごの方へめくりあ
がっています。その人は、重い水腫病にかかっているせいで、体液のめぐりが悪く、
手足が膨らんだり細くなったり、顔と太鼓腹の調節ができていないからなのです。

第九層 ここは地獄の最下部、氷漬けの湖、血族殺害者、売国奴、友や恩人を裏切っ
た者が氷漬けにされています。そしてその中央に、すべての悪の根源である三顔の悪
魔ルシファーがいます。
 七層、八層と同じく、ここも四つの円にわかれています。

 第一円は、肉親を裏切ったものが落ちるカイーナ(弟殺しのカインの名をとってい
る)。ここでは氷漬けの人間が、寒さのために頬まで鉛色にして、歯をかつかつなら
しています。だれもかれもその辛さのために、うなだれて顔を隠し、口では寒さを、
目ではこころの哀しみをそれぞれ表しています。目から時折流れる涙は、唇まで滴る
と両目は凍てついて凍りついてしまいます。そんな者たちが首から下氷の中に埋めら
れて、観光客はよそ見をするとふんずけそうになります。

 第二円は、国を売ったものが落ちるアンテノーラ(トロイヤを売ったとされるトロ
イヤの老将アンテノルから名をとっている)。氷つけの男が二人、頭と頭を重なりあ
って飢えてパンを齧るように、上の男が下の男の脳とうなじの間あたりをがつがつ歯
を立てて噛み砕いています。はたしてド頭は美味しいのでしょうか?

 第三円は、食客に対する反逆的な行為を行ったものが入るトロメア(ジェリコの首
領トロメアからとった名)、氷の冷たさのあまり顔も凍り、眼球さえも凍っています。

 第四円は、恩義ある人を裏切った人が入る地獄の最下部の最下部、地球の中心部だ
からひどく狭いユダの国ジュデッカと呼ばれています。魂のことごとく氷でおおわれ
て、氷の中を寝そべり直立しています。また頭で立ったり、爪さきで立ったりもして
います。またまたある者は弓なりに自分の頭と足を向き合っていることもあります。
 ここには地獄の王ルシファーがいます。その顔はかつては美しかったというのに、
今はどうでしょう。顔が三つに分けられ、一つは無力の黄色、一つは無智の黒、後残
りは憎悪の赤い顔になっています。これはキリストの善の権威、智恵、愛に対しての
言葉です。三つの顔からはこうもりと同じつくりの大きな翼が引っ付いて、その翼が
羽ばたくとあたり一面を凍らしてしまいます。三つの顔の六つの目からは涙が流れ、
三つの顔からは血のまじった唾と涙が滴り落ちています。ルシファーは頭が三つある
もので、一度に三人の特別製の人間、ユダ、プルトウス、カシウスの肉を生きたまま
食べます。肉は、よく歯で噛みつぶし、背中の皮を這いて身をよじらせて食べるとた
いそう美味しいそうです。

  ルシファーの氷漬けを見ると、世にも奇妙なSMショーは終わってしまいました。
                                  大舞 仁
おわび、学習研究社 世界文学全集27 ダンテ 訳 三浦逸雄 を参考にしました。




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