#1254/1336 短編
★タイトル (VBN ) 00/ 4/ 9 15:18 ( 63)
お題>サイコロ>「サイコロボーイ 2」 時 貴斗
★内容
「ひきょうな手を使いやがって。あれじゃあ別にサイコロじゃなくても
何でもいいんじゃないのか」
左腕に包帯を巻いた男は、ピストルを青年につきつけていた。
「あんたもしつこいねえ」青年は笑顔で答えた。「しかしよく助かったね
え」
塔の屋上、六畳ほどの広さしかないその場所の端に、彼は追い詰めら
れていた。ぎりぎりの緊張感が、彼を高揚させる。
「さあ、おとなしく設計図を返してもらおうか」男は一歩、彼に近づい
た。
「何の事だい?」
「今さらとぼけなさんな。“時限爆弾”の設計図、どこに隠したんだ。誰
が持ってる。お前か? お前のボスか?」
「僕にボスはいないよ」
一定時間が過ぎると爆発的な勢いで増殖する細菌兵器、QWERTY-
UIOPのDNA設計図が男の組織に渡れば、世界は恐慌に陥る。
「別に返したくなきゃ、それでもいい。お前を殺して、しらみつぶしに
探すだけのことだ」
「返すさ。あんたにじゃなく、正式な持ち主にね」
男の眉間に一瞬、しわが寄った。しかしすぐに元のポーカーフェイス
に戻った。
「タブ博士にか。それともキャップスロックか。どちらに返したところ
で、ろくな事にならない。分かるだろう? 科学者に渡しても、政府に
渡しても、悪用されるだけのことさ。元の持ち主である我々に返すのが、
一番安全なのだ」
笑わせやがる、と青年は思った。何人もの人間を殺して、横取りして
おいて、元の持ち主もないもんだ。
「しらみつぶしに探すより、僕に聞いた方が早いと思うけどね」
「ほう、やっと言う気になったか」
彼は唇をゆがめた。探し回っても簡単には見つからないぞという意味
で言ったのに。頭の悪いやつだ。
「それじゃあ、サイコロで決めようか。白状するか、殺されるか」
「なんだと!?」
「偶数が出たら、白状する。奇数が出たら撃っていいよ」
彼は手の平にサイコロをのせて見せた。男はちらと見て視線を彼の顔
に戻した。厚い唇が三日月のように曲がった。
「ほほう。今度こそサイコロボーイの名にふさわしい、技を披露してく
れるのかな? しかしどんな手を使う気だい? 偶数が出ても奇数が出
ても、お前にとっては不利だぜ」
「それは見てのお楽しみ!」青年は手を握った。
「おっと」男は銃口を上げた。「またぶん殴られちゃたまらないからな」
そう言って男は、後ろに下がっていった。
「さあやって見せなよ、サイコロボーイ!」
青年は手を振り上げた。
「やあーっ!」
レンガ敷きの床に硬い音を響かせながら、サイコロが跳ねていく。そ
れは男の足元で止まった。男は銃口を彼に向けたまま、頭を下げた。
「二だ」再び上げた顔に、満足そうな笑みが浮かんだ。「約束だ。白状し
な、サイコロボーイ」
「うーん、そうだねえ」青年はあごに手をあてた。「それはねえ」
その時、小さな爆発が起こった。男の表情が驚愕に変わるのが、一瞬
だけ見えた。
「わあっ!」
あっという間に男の姿が床の向こうに消えた。
「俺が言ったこと真似すんじゃなあああーっ!」
青年は、床の上にできた黒いこげ跡を見つめた。
「あんたのくだらないアイデアを実現するために、わざわざ全部二の目
のサイコロを作ったんだ。爆弾入りだから、結構金かかったぜ。有り難
く思いなよ」
彼は垂れた前髪をかき上げた。
<了>