AWC 大型消費者小説  「かじってはいけない」  ゐんば


        
#1215/1336 短編
★タイトル (GVB     )  99/10/18   0:57  ( 92)
大型消費者小説  「かじってはいけない」  ゐんば
★内容

マックシェイク(日本マクドナルド)

 ドリンクはいかがですかと聞かれたので、コーラやコーヒーではあまりにかじ
りがいがないのでまだしもなマックシェイクを選ぶことにした。ご承知の通り、
この商品はストローで強く吸い込まないと口の中に入っていかない。十分に吸い
込んだ後かじろうとしたが、歯の上に乗せるのがまず難しく、歯が歯に当たるだ
けである。窒息を覚悟でさらに大量のマックシェイクを口の中に送り込んだ。確
かにかじることはできたが、ぬるりとしてかじりごたえがない。おまけに歯の根
っこに沁みてたいそう冷たかった。このような冷ややかなものはかじってはいけ
ない。

セブンスター(日本たばこ産業)

 まずフィルターのある側からかじってみたが、ぐんにゃりとなんとも歯応えの
ない感触しか得られなかった。確かにかじっても問題はなさそうだが、かじる意
味があるとは思えない。それではというわけで逆のサイドからかじってみた。た
ばこの葉が口の中に充満し、急いでうがいをしたが後味の悪さが残る。このよう
な危険なものはかじってはいけない。

ユニ(三菱鉛筆)

 かじるといえば鉛筆である。最近はシャープペンにおされて鉛筆の生産量も減
っていると聞く。しかし、私はシャープペンの冷ややかな歯触りがどうしても好
きになれない。
 今回私は9Hから6Bまで17種類の鉛筆を用意してかじり比べてみた。しか
し、どうもラインナップによる違いが明確でないのである。説明によれば6Bが
一番濃くて9Hが一番硬いことになっているが、はっきりいって歯応えは全然変
わらない。これではバリエーションを揃えている意味がない。このような半端な
ものはかじってはいけない。

スコッチブライト・セルローズスポンジたわし(住友スリーエム)

 片面が緑色の金物洗いになっているやつである。歯応えは申し分ないのだが、
こいつがなかなかに噛み切りにくい。意外と金物洗い部分よりもスポンジ部分の
ほうが柔構造なだけ噛み切るのに骨が折れる。どうにかこうにか噛み切れたが、
力の入れ過ぎでには舌がざらざらになっていた。こういう舌をけがするものはか
じってはいけない。

MAXやまびこ号(JR東日本)

 東京駅で目の前にしてまず迷った。かじろうにもとっかかりがないのである。
やはりかじるとすれば先端部分だろうかと先頭車両に回ってみたが、運転士の目
が光っている。とうていかじれそうな状況にない。警戒を突破してかじれたとし
ても、そのまま電車に発車されたらたいそう間抜けである。まあ、発車したとし
ても次の停車駅は上野だからたいしたことないのだが。
 そんなわけでのぞみ(JR東海)とかじり比べをする予定だったが、断念せざ
るを得なかった。このような巨大なものはかじってはいけない。

デジタル・ムーバ(NTTドコモ)

 口に入れるには手ごろな大きさである。携帯電話はボタンがいくつもついてい
るから、舌触りも楽しい。しかし、口の中に入れていたときにちょうど電話がか
かってきた。あなたは口の中で着メロがなった経験があるだろうか。せっかく口
の中にあるのだからそのまま会話しようとしたが、通話ボタンがどこにあるかわ
からずにくちゃくちゃやっているうちに切れてしまった。このような使い勝手の
悪いものはかじってはいけない。

松本喜三郎(ゐんば)

 かじると「痛い」といった。おまけに目には目を歯には歯をとばかりにかじり
返してくる。かじられながらどうせかじるなら手児奈にすればよかったと思った
が、それをやると別のジャンルの小説になるのである。
 そう、作者はたまには食わず嫌いをせずに時事パロディものも書いてみようと
思ったらしいが、やはりどうみても単なるナンセンスである。どだい原作を読ま
ずにパロディをやろうというのに無理がある。
 そんなことを考えている間に鼻の頭をかじられた。このようなかじり返してく
るものはかじってはいけない。

フエキ糊(不易糊工業)

 思い出させないでくれ。

青雲(日本香堂)

 森田公一のコマーシャルソングでおなじみの線香である。といっても森田公一
自体おなじみでない人もいるかも知れない。森田公一は作曲家で、キャンディー
ズやアグネス・チャンのヒット曲をいっぱい作っている人である。森田公一とい
えばなんといっても大ヒット曲「青春時代」である。「森田公一とトップギャラ
ン」というバンドを率い、自らボーカルとして独特の鼻声で歌っていた。
 ところで、この「森田公一とトップギャラン」に一時期シュガーの笠松美樹が
在籍していたのをご存じだろうか? シュガーという名前に覚えがなくても「ウ
ェディングベル」という曲はご存じかも知れない。教会で式を挙げる元彼に悪態
をつく女の歌である(こう書いてしまうと身も蓋もないが、実際こういう歌なん
だからしょうがないじゃないか)。ミキこと笠松美樹はこのボーカルとキーボー
ドを担当していて、シュガー解散後一時期トップギャランに入ったそうである。
 このシュガーでベースを担当していたモーリこと毛利公子が若くして亡くなっ
たのはご記憶の方も多かろう。妊娠中毒症の一種だったらしい。お気の毒なこと
である。
 で、なんだっけ……そう。かじってはいけない。

                            [完]




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