AWC そのほしにむかって   永山


        
#1201/1336 短編
★タイトル (AZA     )  99/ 7/18  21:40  ( 60)
そのほしにむかって   永山
★内容
 ハオルカ星の統一政府では、重大な会議が煮詰まっていた。
「諸条件を総合的に判断すると、いずれの星も長所短所があって、議論では決
められないようだ」
「その通り。三つに絞り込んだが、あとは距離、大きさ、環境……どの条件を
優先させるかの問題でしょう」
「では、この候補三星を対象に無記名投票を行い、一つを選出する。各人は己
の信じる星を選ぶ。投票結果を総意とすることでいいのではないですかな」
「異議なし」
 投票は滞りなく行われ、一時間後、一つの星が選ばれた。イオアと呼ばれる
星だった。
 ハオルカ星人達は知る由もなかったが、その星は日本語で言うところの「太
陽系第三惑星 地球 」である。
「イオアなら、まあよい」
 多少の反対意見はあったが、積極的なものではなかった。反対する連中にと
っても、次善の物を選ぶならイオアという意識が高かったのだ。
 その理由は、イオアの美しさにあった。おおよそ人(ハオルカ人の意)の住
める惑星の中で、イオアほどきれいな星はなかった。青く輝く宇宙一の宝石だ
った。ハオルカ星より何千光年も彼方にありながら、なお色あせることなく、
見る者の心に訴えてくる、ある種の神々しささえ有している。
「本日この時点を持って、他星移住計画推進委員会は発展的解散。イオア移住
促進委員会を立ち上げる。ひいては具体的な計画を速やかにまとめ、素案とし
て提出することを最初の目的とする。――一刻も早い移住完了を祈願する」
 わずか二ヶ月後、第一次の移住船団十二隻がハオルカ星を発った。先発隊の
意味もある故、比較的小規模な変声となったが、ハオルカ人にはこれまでに積
み上げてきた宇宙旅行の経験と技術があり、何の心配もなかった。超光速の移
動方法を開発していたので、イオアまでは二十年足らずで到着する計算である。

「通常航法に入りました。すでにイオアを肉眼でとらえられる距離のはずです」
「やっと拝めるか。超光速移動中は景色を全く見られないから心許なかったが、
どれ……ああ? どこだ?」
「どこと言われましても、右手の窓から見えるはずです。青い宝石のように輝
いている星が」
「いくつかの星々は見えるが、イオアらしき天体は見当たらない」
「そんな。計算に間違いはありません」
「言い合っていても始まらん。窓に星図を重ねてみてくれ。そしてイオアの位
置を矢印で示せ」
「了解。――これがイオアです」
「やっぱりおかしい。そこにイオアはない」
「馬鹿な? だとしたら、イオアがすでに爆発するか何かで消滅したことにな
りますが、付近一帯にそのような兆候を見当たらなかった……」
「いや、代わりの星ならある。今、そちらに映してやろう。ほら、黄土色をし
た毒霧でも渦巻いていそうな模様の星がある。しかし、まさかあれがイオアで
はあるまい」
「……ひょっとしたら」
「何だ?」
「あの薄汚れた星こそ、イオアなのかもしれません」
「む? 分からん。どういうことか説明せよ」
「我々がイオアを最後に確認したのは、超光速に入る直前です。その時点でイ
オアまでの距離は三千光年はありました」
「当然だ」
「三千光年あるということは、イオアからの光は三千年かかって届きます。三
千年前の姿を見ていることになるのです。つまり、我々が見たのは三千年前の
イオアを見、それから出発した……」
「はっきり言え。分かるようにな」
「三千年前には美しかったイオアですが、この星の文明や自然は徐々に崩壊し
つつあったのでしょう。こうして我々が到着した現在、全くの廃墟と化し、あ
のような醜い姿をさらしている……そう考えたのです。あり得ないことではあ
りません」

――終




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