#222/1336 短編
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実録>ぼくは君だけは許さない(2) 丈留
★内容
以下の物語はノンフィクションであります。
が、全てが私個人の物語ではありません。
第五話
三年間の遠距離恋愛を経て、M氏とK子は婚約した。二人が会え
るのは年間を通して数回である。いつもは、電話で愛情の確認を
していた。このラブコールもほぼ毎日となり、往復の航空運賃よ
り高くなることが多かった。
クリスマス・イブの日、二人はデートした。三回目のイブを幸せ
に過ごしたのであるが、−−。
事件は最後の日に起きた。
M氏が公衆BOXから遠距離通話をしていたのであるが、カード
残度数がわずかとなった時、表にいるK子へテレホンカードを持
っていないか合図したのだ。当然、K子は慌てながら財布の中か
ら取り出したカードを公衆BOX内のM氏へ手渡した。
電話を終えたM氏は、公衆電話のカード返却口に出てきたカード
をさり気なく受け取った。カードの表には可愛らしい花束の写真
とホテルの名前がプリントされていた。そう、M氏の知らないラ
ブホテルである。
「おい、浮気しとったんかい!!」
P.S.
結局、二人は別々の人生を歩いたとさ。
第六話
背の小さい少年がいた。なにしろ、小学校から中学にかけて、ク
ラスで一番小さかった。少年は想っていた。いつか整列の前並い
をするとき、両腕を前に突き出す前並いがしたいと・・。そう、
少年は、両手を両脇腹に添えた前並いしかしたことがなかった。
そんな想いからか、身長に対するコンプレックスがあり、小学校
の頃から背の高い奴に舐められると、すぐ喧嘩をしていた。少年
は、とにかく喧嘩だけは強かった。後に、この少年は中学で裏番
長となり、高校で天才ボクサーとなる道を歩むのである。しかし
、表面はもともと童顔で、中学生になっても小学校低学年生にし
か見えないM君であった。
中学の一年の時である。昼休みの時間に男子のグループと女子の
グループが別々に、そして教室を二分してかたまっていた。女子
のグループの中央には、大人ほどの体格をしたデブの女子がいた。
女子は、その少年が裏番長であることを、その風格から知る由も
なかった。静かな昼休みのひととき、デブの女子が、少年に手招
きした。何やら、不思議そうな表情で少年は近づいて行った。
「ねえ、あたしの膝に腰掛けてみてよ」と、デブが言った。少年
は試しに、そのデブの膝に腰掛けてみた。すると、突然、デブの
女子が大声で一言叫んだ。
「きゃー、かわいい!!」
その瞬間、少年はデブの女子に強烈に抱きしめられた。そう、少
年は抱っこちゃん人形と同格に扱われたのだ。この出来事で少年
が失ったものは、裏番長の面子だけではなかった。以来、少年は
女性に抱きしめられる快感を忘れることはなかった。
「おい! わしに何さらしたんじゃ!」
第七話
サンタクロースが両親であることを知ったのは、いつの頃だった
のだろうか。ぼくらは、誰に聞くともなく知っていった。そんな
現実を理解しだした頃の出来事である。
中学1年生になったM君(第六話と同一人物)は、クラスでとて
も仲のいいS子がいた。席は隣通しで、休み時間もいつも一緒で
あった。まだ、M君はS子を異性として意識していなかったのだ
ろう。S子は美人で頭も良く、背が高くて(M君より)、運動も
抜群だった。そんなS子をM君は尊敬していた。
ある日、M君の後ろの席の男子が言った。
「子供は何処から産まれてくるのか知ってるか?」
とっさの質問に、M君は即答しかねた。M君は考えていた。「コ
ウノトリが運んで来ないことだけは確かだ。待てよ。そう、親戚
の叔母さんが難産でお腹を切開して子供を産んだことを母親に聞
かされていた。だから、子供はおへそから産まれるんだ」と、確
信した。M君は、その男子とS子に向かって答えた。しかし、二
人は顔を見合わせて笑ったのだ。すると、「おい、S子! 教え
てやれよ」と、その男子が言った。やや不機嫌そうな表情でS子
がM君の耳元に顔を近づけて、囁いた。その瞬間、M君は石にな
った。以来、M君はS子と口を利くことはなかった。だた、どう
しても納得のいかないM君は、帰宅してから、夕飯の支度をして
いる母親に、消去法で聞いてみた。母親もはじめのうちは、笑み
を浮かべてM君の疑問を聞いていたが、あまりにもしつこいので
強行策をとり、その場を逃れた。そう、M君は母親に往復ビンタ
を喰らったのである。
「おい! おれが何したっちゅんじゃ!?」
P.S.
母の日になると思い出す。「憶えていますか? お母さん!」
第八話
二十年来の女友達がいた。いや、彼女がM氏を異性として意識し
ていないのだろう。とにかく、幼なじみである。実家も近所であ
ったせいか、よくM氏の家に遊びに来ていたY子は、逆にY子の
部屋にもM氏を招いていた。
高校の時、Y子の写真アルバムをのぞいていたM氏は、一枚の新
聞の紙片を見つけた。それは、M氏が県民体育大会で好成績を納
めた時の新聞である。大事に切り取ってある新聞を見て、Y子の
家族のような暖かみを憶えて、M氏は感激した。三年にもなると
Y子は美人の大人になった。ある日、M氏はY子の部屋で彼女に
スキャンティを見せられて、鼻血を出しそうになったこともある。
しかし、あくまで幼なじみで、異性交渉はなかった。
大学時代も下宿先に田舎の名産品を届けてくれる等、面倒見が良
かった。いつもY子は言っていた。「女ができたら、あたしが見
定めてやると」 後に、そんなY子も東京で実業家になり、若く
してベンツを乗り回すキャリアウーマンとなった。
一昨年の冬、Y子は美人の友人を連れて、M氏を温泉に誘った。
そこは群馬の吾妻峡である。ムササビの水車の宿という秘湯に三
人で宿泊した。女二人とM氏一人の旅である。浴衣姿のY子が言
った。「この宿の奥に混浴の露天があるから、三人で入ろう!」
M氏はその言葉に動揺した。だがM氏は、動揺を悟られまいと、
さり気ない表情を強引につくった。しかし、すでにM氏の右手は
手ぬぐいを握りしめていた。Y子が言った。「先に入っていて、
すぐ後から行くから」 M氏はさっそく露天に向かった。ところ
が、露天といえど緩くて、足の膝までしか水深のない露天であっ
た。それでも、M氏はひたすら露天の中で、二人を待っていた。
長いこと湯船に浸かっていても、暖まらないのである。凍えそう
になっている体にムチを打って、M氏はひたすら耐えた。
そこへ、やっとY子が浴衣姿で現れた。M氏は固唾をのんで期待
していた。すると、Y子が言った。「旅館の叔母さんに聞いたら
ね。この時期、露天は閉鎖してるんだって。あんたも、よく入れ
たわね!?」 そして、颯爽と宿へ帰って行った。その時、冷た
い露天の岩風呂より、Y子の後ろ姿の方が冷たく思えた。
「おい! だれが言いだしたんじゃい!」
P.S.
そんなY子も、今年の七月に結婚します。同じ郷里で、ほぼ同じ
環境で育つてきたのに、女友達は結婚して、別の郷里に骨を埋め
る。そんなことを考えると、チト淋しい気がします。でも、人生
の三分の一を共感できるY子は刎頚の友として健在です。
「Y子! 幸せになるんだぞ!」
むすび
あしたから、真面目に創作します。 丈留