AWC 初版「桜花の舞落ちる頃」    丈留


        
#214/1336 短編
★タイトル (TAD     )  94/ 4/20   1:10  (103)
初版「桜花の舞落ちる頃」    丈留
★内容
シナリオ(いまでも蒲公英咲いてますか)第三話
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       「桜花の舞落ちる頃」  -梗概-
                         南 丈留
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 時は終戦間近の昭和二十年春、既に肉親を空襲で失い、幼なじみ
の哀香(二十歳)だけが心の支えであった主人公の春樹(二十二歳
)は、学徒出陣で海軍航空予科練生として徳島の海軍基地にいた。
 連合軍の本土上陸が近づいた五月、上官が三角兵舎に入って来て
哀香との婚姻を勧め、絶句した後、涙を堪えて「分かっていると思
うが、諸君の健闘を祈る」と、付け加えた。春樹は、それが特攻出
撃の命令であることを暗黙に察した。この特攻出撃は、軍事機密と
され、編隊三名だけの特攻作戦、その名を菊花特攻作戦と名付けら
れた。
 翌朝、春樹は鹿児島県の陸軍知覧基地に移動し、作戦の念密な計
画作りに明け暮れた。
 五月十九日、その日は、隊員達に家族の慰問がある日である。母
親と抱き合う隊員から妻子と家族の団らんに慕る隊員まで様々であ
った。その中に、哀香の姿もあった。長旅の疲れを隠しながら細っ
た顔に笑みを浮かべて春樹に会いに来た哀香に対し、春樹は「わざ
わざ来なくてもよかったとう」と、心の感激とは反対の素振りを見
せた。婚約はしたが生きて帰らぬ任務ゆえに、哀香に対するせめて
もの思いやりであったのだろう。
 六月十日快晴早朝、海軍鹿屋特攻基地から春樹を含めて二名乗員
した雷神が沖縄めざして離陸した。
 菊花計画、それは特攻弾頭機桜花に原子核弾頭を装備したもので
あった。離陸から一時間、二人は奄美大島で一端着陸し、偵察機か
らの出撃命令を待った。その時、春樹は戦友の大平に本土帰還を勧
めたが、大平に帰還の意志があろうはずもなかった。大平は二人め
の子を身ご持つた妻と二歳の子を残し、この世を去ろうとしていた。
 沖縄東南二百キロ沖の洋上を前進していた米艦隊を捕らえた春樹
両隊員は、思わず息をのんだ。その瞬間、春樹が大平に「貴様は生
きろ」と、言い残し菊花弾頭機を突然切り放した。まだ、着弾距離
には早すぎたが、落下の飛行距離と合わせて限界の着弾距離であっ
た。すなわち、切り放し後、弾頭点火を遅らしてからの低飛行特攻
であった。
 太平洋戦争の最前線にて、「貴様は生きろ」と戦友に言い残し、
戦火に飛び込んでいった男の亡骸が海に消えた。
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 いつしか五十年の歳月が流れ、昭和の影が薄らいだ春の日、鹿児
島県佐多岬の砂浜に一人の男が流れ落ちた。その男を救出した女学
生の千春(二十二歳)。
 現代に甦った春樹は、平成の世を知っていくたびに、無情の儚さ
を憶えていく。
 現代女性とのやり取り、暴走族(特攻語る)とのやり取りで、怒
りは頂点に達する。
 一方、政府は菊花作戦の存在が、春樹達から漏れている事をしり
、情報流出の所在を調べつつ、刺客(自衛隊)を差し向ける。歴史
では、日本が核を先に使用したことは偶然、歴史の闇に葬られてい
たからである。
 政府に追われながら昔の婚約者である哀香を探す春樹と千春は、
哀香が終戦間近、結核で死亡していたことを知る。
 逃げる気力も失った春樹は、政府に捕まるのであるが、驚いたこ
とに政府の最高指揮官が、あの戦友(大平)であった。大平は、春
樹だと言い張る男に、まだ気づいていなかった。
 春樹が大平に訴えた。
「こんな日本を造るために、俺達は死んでいったのか」と・・。
 連行される春樹の後ろ腰に、薄汚い親指ほどのマスコット人形が
巻き付けてあった。それは、まさしく戦火に飛び込む春樹が哀香か
ら送られた物だとして、はな身はなさず腰にぶら下げていた物であ
った。それに気づいた大平は、初めて春樹であることを確信した。
それと同時に、底知れぬ想いがこみ上げて来るのを大平は憶えた。
戦後五十年の這いあがりとも言うべき敗戦の屈辱と卑しさを呑み込
んで復興した歳月で荒んだ杖が下りたような解放感に包まれて、涙
がこみ上げて来るのであった。感無量で言葉がでない大平であった
が、気が抜けたように言った。
「哀香さんは、生きている」と、・・。
 哀香の生存を知らされた春樹は、再び迎えに行く。そして、再会。
 だが、既に彼女は、結婚しており、現在は寝たきりの夫を介護し
ていた。夫を介護している哀香の姿を眺めた春樹は生還した自分に
嫌悪感を憶えて哀香の前から消えるのであった。
 時に埋もれて失ったもの、それは主人公と供に青春を歩き、自分
の生きた証を共感できる、今はなき人々であった。
 時代に受け入れられず孤独となった主人公は行く当てもなくさま
ようが、再び前世に帰還するため、戦友の大平に特攻した現地へ戻
すように頼む。
 そして、自衛隊の戦艦で現地へ向かう春樹と、見送る千春。別れ
際に、千春がマスコット人形を手渡し、失われし想いに振り返らぬ
よう示唆するのであった。しかし、大平の部下である下士官が密か
に暗殺を計画し、春樹は戦艦甲板上で銃殺、そして洋上に放り出さ
れ、千春も殺される。共に海底に沈む二人。
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 時は昭和五十七年、平和な日本に桜花が舞落ちる頃、特攻基地の
跡地は小学校に換わっており、戦争の足跡も消え失せ、零戦の滑走
路も小学校への桜並木になっていた。
 その桜並木を手を繋いで歩く後ろ姿に二人の子供の影があった。
男の子のランドセルには、マスコット人形が揺れて、それぞれの名
札には、平仮名で”はるき”と”ちはる”の名が記されていた。
 舞落ちる桜花の儚さにかえて--。
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登場人物の背景
{男性}
春樹(主人公):肉親を戦争で失い、幼なじみの恋人のみ
大平(戦友) :妻子有、二人目の子どもが生まれようとしている
{女性}
千春(ヒロイン):反戦家
哀香(婚約者) :唯一の幼なじみ
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ラスト保養所で真相





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