AWC お題>どいつもこいつもわかっちゃいねえ $フィン


        
#185/1336 短編
★タイトル (XVB     )  94/ 1/23  18:40  (100)
お題>どいつもこいつもわかっちゃいねえ    $フィン
★内容

 ねえ奥さま、ここをあけてくださらないかしら。
 ああ、ありがとう。
 奥さまだったらわたくし入れていただけるものと感じておりましたわ。
 だって奥さまたいへん人がよさそうですもの。
 悪気があって云ったのじゃないんです。本当にわたくしから見て奥さまいい人に思
えたのですよ。
 それに今日奥さまの後ろ姿を見てから、わたくし気になっておりましたの。
 だって橋のたもとに立っていた奥さまたいへん寂しそうで今にも飛び降りそうな感
じがしておりましたの。
 そこでわたくしそれではいけないと思って、失礼なことですが奥さまの後をつけて
お宅までついてきたところなのです。
 それにしても奥さまいいところにお住まいですね。インテリアもご趣味もいいです
し、きっとだんなさまもいい人なのでしょうね・・・。
 ああ、ごめんなさいね。
 身もしらずのわたくしのようなものがお宅に入りこんで、じろじろ見たり、だんな
さまのことを云ったりして、奥さま気分を悪くしたのではないでしょうか。
 そんなことない。よかった。
 奥さまは本当に優しい人なのですね。わたくしの思ったとおりの人ですわ。
 後をつけてきたかいがあったというものです。
 奥さま、笑いましたね。その笑顔いいですよ。
 奥さまのような人には寂しい顔は似合いません。
 優しくて思いやりのある奥さまが悲しそうな顔をされるとわたくしまで哀しくなっ
てしまいそうです。
 奥さまわたくし考えますに、心に何か大きな心配事があるのではないですか。
 ない? そんなことないでしょう。わたくし奥さまの顔を見て、ピンときました。
 直感というものでしょうか。わたくしよくあたりますのよ。
 奥さまには人には云えないような何が重大に心配事があるのじゃないかって。
 やはり、あるのですね。
 わたくしの思ったとおりですね。
 わたくしは誰にもしゃべらないですから、その胸のつかえを少しでも軽くするため
におっしゃってくれませんか。
 そうしたら奥さまの気も少しは晴れるような気がします。
 云えないのですか。
 ごめんなさいね。わたくし知らず知らずの内に奥さまになれなれしくし過ぎました
ね。
 そうですよね。よく考えてみれば、わたくしのような身も知らずのものに心の秘密
を云えるはずはないですよね。
 すぐに誰にでもこういうことを云うのはわたくしの良くない癖なのです。
 わたくし昔ですね。わたし他人様の悩み相談のような係になっていたものですから、
ついつい他人様の相談を受けたくなるのですよ。
 あ、そうですわ。奥さまがどうしても心の秘密を云われたくないのならわたくしい
いものを持っております。
 ええと、どこにおいたかしら、あったあった。
 このつぼなのですけどね。どうです。小さいですが綺麗でしょう。
 少し古いものですけど有効期限はまだ切れてないはずですよ。
 実は奥さまのような人に買ってほしいのです。
 いくらですかって?
 本当に安いものですよ。
 たった百万円で幸せがかえるのですからね。
 効用を教えましょうか。
 まず可愛い子供さんが生まれます。大事な子供さんの受験にも成功します。家庭内
暴力が直ります。だんなさんの愛が戻ってまいります。年頃の方にはいいご縁談が来
ます。病気の方には病気が直ります。
 それにこのつぼを持っているだけで悪霊、物の怪がよりつきません。
 これっていいでしょう? 悪霊、物の怪まで追い払ってくれるつぼはわたくし長年
扱っていますが、この度はじめてで、めったにない代物なのですよ。
 まあとにかくいろいろな幸せがたったの百万円でかえるのです。
 どうしました奥さま、急に恐い顔をして、あ、あ、そうでした、わたくし忘れてい
ました。
 偉い人が直々に書いたありがたいおフダをつけて、幸せが十倍になる特典もつけま
しょう。
 奥さまにぐちをこぼすみたいですけど、このつぼを売らないと幹部の方に怒られて
しまうのですよ。しがない末端のわたくしはつらいですねえ。こうして毎日がんばっ
てもなかなか幹部になれないものですから、いつになったら偉い人になれるのでしょ
う。
 さあ、わたくしがこれまで言ったのですから、奥さまつぼがほしくなったでしょう?
 え?
 なんといいました。わたくしの聞き間違いかもしれませんから、もう一度云ってく
れませんか。
 つぼはいらない・・・ですか。
 えーそんなあ、買ってくださいよ。わたくしは奥さまのような不幸な方を見つけて
買ってくれることを願っていたのですよ。
 どうしてもいらないのですか? 困りました。
 うーん、本当にこのつぼの中には幸せが入っているのですよ。
 信じてくださいよ。
  奥さまああああああ

 わたしがしょんぼりしていた理由はこういう訳なのです。
 あなたこれでわかりました?
 今度こそはうまくいくと信じて各家庭に幸せを持ってまわっているのですがいつも
しくじってしまうのです。
 わたくしの販売方法のどこがいけないのでしょうかねえ。
 わたくしいくら考えても、どうしてもわからないのです。
 あなたその顔もしかしてわたくしを馬鹿にしていませんか。
 そんなことないですよね。
 よかった。
 わたくしの話を聞いてくれたお礼にたったの百万円で売ってあげましょう。
 え? あなたいらないのですか。
 やはりわたくしの話を信じてくれてなかったのですね。
 どうしてこちらの世界の方はわたくしの云うことを信じてくれないのでしょう。
 わたくしにも我慢の限界と云うものがあるのですよ。
 ちょっとあなたに云ってもいいですか。

 どいつもこいつもわかっちゃいねえ

 みんな不幸になっちまえ


                                  $フィン




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