AWC 宇宙一の力                ケイ


        
#174/1336 短編
★タイトル (WJM     )  93/12/12  18:32  (182)
宇宙一の力                ケイ
★内容



 その夜、俺は酔いつぶれていた。駅から家に向かい歩いていたはずなのだが、気が
つくと見知らぬ公園で寝ていた。時計をみるとまだ3時だった。
 俺は痛む頭を拳でごんごんと叩きながら、あたりを見回す。いったいどこだろう。
 ふと。
 ベンチの前に男がいた。
 「こんばんは」
 驚いた俺が尋ねる「いったいあなたはどなたですか?」
 「私ですか? いえいえ、べつにそんな事はどうだっていいんです。ところで、今
あなたは何か欲しいものがありますか?」
 まだもうろうとしている頭で、俺は素直にその問に応えようとした。同僚と昼休み
に腕相撲で負けたことを思いだした。軽い気持ちで
 「そうだなあ。力が欲しい。それも世界一の力をね」
 そう言って、俺は大きな口をあけて自分でも心地よいと感じられるくらいに笑いだ
した。「いや、世界一じゃだめだ。宇宙一の力が欲しい」

 男は、なんの表情も現さないで、
 「そうですか。分かりました」と応える。
 「ところで、そんなことを私になぜ聞くのですか?」
 「あなたに、その力を売りたいと思いましたね」男は、どこか不気味に笑った。外
灯が無表情を照らしている。影が深く刻み込まれていた。俺はこの男の精神状態と、
今みる姿とに身震いしたが、なかなか面白く俺自信興奮しているのも事実だったので、
そのまま座っていた。
 「売りたい? どういうことですか?」
 「私は、つい先日、ポケットを拾いましてね」男は、コートを広げ、自分の腹の部
分を俺にみせた。そこには、半円型の白いポケットが縫いつけられていた。
 「なんだかわかりますか? 見覚えがあるでしょう。ドラエモンのポケットですよ。
拾ったんです。たぶんスペアポケットかなんだかだと思いますけどね」
 俺は、急に笑いがこみ上げてきて、立ち上がり男の肩を叩きながら、静かな夜に精
いっぱいの笑い声を響かせた。
 「あなた自分で作って自分で縫いつけたポケットなのに」
 「疑うのも当然のことですよね。それじゃあ、こういうのをどうやって説明します」
 男は、ポケットに両手をつっこんだ。その格好と、男の容貌とは大きなアンバラン
スで滑稽だった。ところが。ポケットから大きな扉を男は出した。
 「ドコデモドアァ」口にださずにはいられないといった感じで、恥ずかしげに、ド
ラエモンのモノマネ口調でそうつぶやいた。その後で、顔を真っ赤に染めながら、ド
ラエモンが道具をだすときに流れるバックミュージックをつぶやいた。
 俺はなんだか哀れに思えてきた。が、よく考えて目をみはった。
 こんなに小さなポケットから、こんなに大きなドアが出てきたのだ。
 「……!!」
 男は、顔を両手で包み込み、パンパンと二度叩いた後、もとの低い声で、
 「ドコデモドアです。本物です。どうぞお試しください」と、うす気味悪く笑った。

 俺は扉を何の迷いもなく開けてみる。が、当然の光景。男が多少慌てたように早口
で説明した。まず行き先を念じなければいけないようだ。
 俺は、自分の家の前を念じて扉を開いてみた。その通りになった。俺は何度も何度
も繰り返し真偽を確かめて、最終的に信じさせられた。

 俺の口はもう何もいえない。身体は恐怖にではなく一種興奮にガタガタ震えている。
男は、俺に錠剤を二粒手渡した。
 「これを飲むなら、あなたは宇宙一の怪力になるでしょう。料金は少々値がはりま
すので、この能力を生かせるなんらかの職につき、それなりのまとまったお金が入っ
たときに、また改めて請求させていただきます」
 男は、相変わらずどこか不気味な無表情で、俺の前から去っていった。俺の頭はい
まだもってパニック状態にあるために、男がどこへいったのかなどはまるきり観察す
ることができない。

 一時間ほど俺はベンチに座りこみ、ドコデモドアでみた、膨大な量の光景をはんす
うし続けていた。やがて、俺はなんとか現実に意識をやることが出来るようになると、
掌に乗せられた錠剤二つをなんの危惧もなしに、飲み込んだ。1分も経たないうちに、
腹の中りから沸騰した力がふつふつと湧き出てくるのを感じるとることができた。血
が暴れる。血管が見て取れるくらいに波うっている。

 俺は、力をこめて足でコンクリートベンチを蹴ってみた。すると、大きな音をたて
て、コンクリートはくずれ、そのかけらは数十メートル先まで飛んだ。
 サクラの木をはりての要領で力を加減しながらついてみた。あっさりと木が折れる。


 阪神ファンの俺はみなぎる自信で、彼らの練習中にグランドに入り込んだ。何物だ
という顔をして、監督が俺に声をかけた。出ていってくれというような事を言われた。
俺はニヤリと笑って、足元に転がるボールを降り被り上空空高く、真上に投げつけた。
ボールは高く高く上がり、その間に俺はバットをひろいあげて、構えている。
 ボールがおちてきた。俺は、当然力を加減しながら、思いきり振り切った。ボール
は、外野バックスルリーンを遥かに越えて、見えなくなった。
 監督が、俺を驚いた表情で見つめる。
 「入団したいんだが、テストを受けられないかな」

 さっそく、テストとなった。すべてをあるていど加減して受けたのだが、それでも
人間はずれの記録で、パスした。

 球団側から入団してくれるよう願い出てきた。莫大な契約金を提示してきた。俺が
少々しぶったからだ。そしてこの事はまだしばらく秘密にするようにと言われた。
 もうシーズン途中であったが、俺のデビュー戦は2週間後だ。

 俺は、例の公園にいた。夜。あの日からここが俺のお気に入りの場所となっている。
若い男女のカップルが向かい合い、何か深刻そうな顔をして話している。男が女に問
いつめているようだった。
 ふと、目を正面に戻すと、男が立っていた。
 「どうです? あの錠剤は」
 「素晴らしいね。本当に。ところで、あの効力は半永久的なものなのかい?」
 「いいえ、とんでもない。あれは、お試し品で、2ヶ月の効力です」
 「な、それは本当か! ぜひまた買いたい。どうか売ってくれ。そうでないと俺は
困るんだ」
 「分かっていますよ。ところで半永久的に効力をはっきしつづける錠剤もあるので
すが、どうです。こちらを買われては」
 「そんなものがあるのならば、当然そっちを買うよ。売ってくれ。ところでそれは
いくらだい」
 男が口にした金額に俺は驚いた。俺の契約金以上の金額だった。宝くじの一等と前
後賞を合わしても、まだまだたりない。
 それでも、俺はこの能力さえあれば、これから先いくらでも稼げる事ができるのだ
からと、数分迷っただけで、OKした。小切手にサインをする。男は、帰っていった。
明日は俺のデビューする日だ。スポーツ新聞は一斉に俺を騒ぎ立てるだろう。ニュー
スも、ゴールデンタイムのテレビ特集も、俺で持ちきりになるのだ。全試合、ホーム
ランをうちつづける自分の姿に、俺は一睡もすることができなかった。俺のワガママ
で、ほとんど練習にも顔をだしていない。が、俺には自信があった。もともとアマチ
ュア野球に所属していて、それなりの評価は得ている。それにくわえ宇宙一の力でも
って、俺のうった玉は場外にとぶ。どんな宇宙人がいたとしても、俺の力にはかなわ
ないのだ。

 俺の名が、甲子園につげられると、一斉にどよめきが沸き上がった。それはそうだ
ろう。俺は早く打順が回ってくる事をねがった。俺は3番で起用されているので、こ
の1回の表の攻撃で必ず回ってくる。緊張は、自信により、未来への興奮にとってか
わっていた。8割程度の力で、バックスクリーン直撃を狙おうか。きっと穴があくだ
ろうよ。

 俺の名前がアナウンスされる。3番センター、オカザキ。どこからともなく大量の
拍手が沸き上がり、いっそう応援歌はなりだした。
 ヤクルトのキャッチャーは、とまどっているようだ。ピッチャーのもとへ走りより、
何か相談をしている。俺はボールに当てる事だけに集中すればいいのだ。
 心臓が、苦しいほど早くなりだしている。俺のこれからの野球人生がいま始まる。
世界的スターの誕生だ。将来は大リーグで野球をやっているかもしれない。数十億と
いう年棒を毎年、死ぬまでもらいつづけるのだ。

 ピッチャーが降り被る。
  投げた。
 (僅かにそれている)
 俺は選球眼もなかなかのもので、コーナーわずかにはずれたボールだった。
 続いては、カーブだ。
 これもボールだろう。

 ノーストライク、ツウボール。

 次は恐らくストライクを投げてくる。俺はもう暴れ出したくなった。発狂しそうな
身体を必死でおさえたのだが、息が荒くなりゼイゼイと大きく肩で息をしはじめた。

 「早くこい、早くこい、早くこい」呟きは、段々と叫びに近くなってきた。キャッ
チャーが驚いて、再度ピッチャーマウンドへ走りよる。俺はますます声を荒くして
「早くこい、早く投げろ」と叫びだした。
 あまりに大声になったので、審判が俺に注意する。が、俺はどうしてもたえる事が
できなくて、繰り返し叫びつづけた。審判は俺から発される異様な自信に満ちた雰囲
気に、おされて、ピッチャーに早く投げるようにと催促した。キャッチャーは、座り、
ミットをかまえる。

 ピッチャーがゆっくりと降りかぶった。ゆっくりと。ゆっくりと。俺は、口からよ
だれが流れているのも頓着しないほどに、興奮していた。
 ボールが投げられた。
 手元がすべったのか、真ん中。
 絶好球だ。
 うちごろだ。
 イージーボール。
 俺は、肩で息を一つして、大きなスイングで
 宇宙一の力を、バットの勢いにのせながら、
 振り切った。

 ボールがバットにあたった。強く
 つよく、
 つよく
 つよく、
 強く。
 世界的瞬間。フルスイングしたバットはボールをとらえた。
 鉛のボールが、力で線のように歪む。そしてこれから、飛び出すのだ。
  今
 飛び出した。

 が、少し方向が違った。ボールはそのまま、下に飛び、俺の左足にふかくのめり込
み、俺の足の骨をくだいだだけでは、まだエネルギーのありあまるボールは、はねか
えり、俺の顎にあたり、地面にあたり、また跳ね返り、心臓とは逆の胸にあたり、地
面にあたり、また跳ね返り、今度は腹にあたり、地面にあたり、また跳ね返り、後ろ
へ倒れかけた俺の股間にあたり、そしてやっとのことで地面を転がった……。










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