AWC お題>相克(2) 株の巻   【惑星人奈宇】


        
#141/1336 短編
★タイトル (ZQG     )  93/ 9/29   4:35  ( 94)
お題>相克(2) 株の巻   【惑星人奈宇】
★内容
 達夫は、株式投資が好きで30年間もずっと、道楽として株を買ったり売った
りしている。
 大事なことは、ただ一つ。株を買うべきか売るべきか休むべきかを決めること
だ。

 友達の香根子が尋ねてきた。香根子も財産作りに興味を持っていて、株とか債
券投資にのめり込んでいる。
「達夫君。今は買い時だよ。これから更に公定歩合が下がるでしょ。今買わなか
ったら何時買うのよ」
 達夫は彼女の言葉を聞いていて、金利が更に下がって円安に成り輸出が好調に
成ったとしても、果して本当に株式の値段が上がるのだろうかと疑っている。
「だけどさ、株式売買出来高が減ってきたことから考えれば、次の段階として暴
落が起る前兆だよ」
「暴落は無いよ。政府系の年金団体とかが買い支えるから心配無いよ」
 香根子はプロの投資家が喋るようなことを言って、自信満々である。
「しかし、日本の輸出過剰は世界の景気を悪くして失業者を増やす原因に成って
いると言われているじゃん?」達夫は世界情勢からの発言をして、香根子の考え
の思慮不足を指摘した。
「やだねえ。日本の株式を買っているのは、大方外国の人達であることを知らな
いの? 外国人も日本の経済力の強さと素晴らしいさに驚嘆しているのよ」

 全くその通りだ。なぜ、こんなに、外国の資本家が沢山日本の株や債券を買う
のだろうかと考えてみたことがある。それは外国人が個人主義的だから自国のこ
とに興味が無くなり、つまりは自国内の産業に期待できない程失望していて、仕
方無く自分の財産を増やす為に外国の優良株を買っているのだ。

「日本はさ、アメリカとソ連が冷戦を続けていた時は、漁夫の利のごとく潤った
けど。今後は、今までのようには利益を出せないと思うよ」
「大丈夫だって! 達夫君は案外気が小さいのね。アメリカは移民で成り立って
いる国だから、良いと思う商品を買ってくれるのよ。合理的なのよ。だって、そ
うでしょう。部品などは東南アジア諸国とかから調達しているし、儲けられない
仕事はしないのね」
 香根子は至って健康的な考えを述べた。

「でも円高に成ると、輸出が減るでしょう。やはり、日本の工業は衰退すると思
うな」
「あはははは。大丈夫! 世界一の技術力が有るから。」
「うへうへ。まあな! ……かも知れない」
 達夫は、香根子の楽天的な性格に呆れた。

「アメリカは手恐いよ。自由の国だから世界中から移民として集まってくるし、
広々としている。それに比べ、日本は円高が進行し、狭い敷地にグチョグチョに
人々が住んでいる。仕事無くなったら大変だよ」
「そすると、達夫君は、日本の経済は今が絶好調で、この後は、段々と下り坂だ
と言いたいの? 外国人は何ていうかしら、その……、お互いに戦争し合ってい
るから、工業の復興は時間がかかると思うのよ。戦闘民族に輝かしい未来は無い
よ。世界と仲良くが一番の政策さ」
「だけどな。これからは、アメリカや中国、ヨーロッパに東南アジアなど、皆豊
かな生活求めて頑張ると思うんだ。だから日本は現状維持で十分のような気もす
るしな」
「違うよ。世界の貿易は、技術力の有る方が、有利なのよ」
 達夫は、香根子の勢いに押されて唾を飲み込み、一呼吸した。

「香根子さんは、何か買ったの? 僕はあんまり興味無いけど」
「今度、下がったら買おうと思ってるの。強力な政府の力が働いているから大丈
夫だよ。暴落は無いと思う」
 達夫は香根子の話を聞いていて不安になった。日本産業の漁夫の利的な時代は
終っているから、ぐんぐんと株価が上がることは無いだろう。もう数年様子を見
て、日本株式への投資をするかどうかを再検討するつもりでいる。

「しかしだよ。現在日本は不景気でしょ。だから簡単では無いよ」
「大丈夫だって。日銀は公定歩合をいざと成れば下げるそうだし。だからね!
銭がだぶつき始めてから、慌てて株を買うより、そろそろ買う方が利益を得易い
のよ」

「僕は低金利時代が、ほんとは、嫌いなんだ。銀行とかに預ける気に成らなくて、
100万円とかが何処にでも置かれていたり誰でも持ち歩いているように思えて、
気持ち悪いのさ」
 達夫は低金利だと為替の変動を予想し難いのだ。ほんとは買いたいのだけど、
行動に移れないのにいらいらしている。

「男は度胸だよ。いざという時には早く決断して行動するものなのよ」
「あはははは。それは……、女は愛敬! 男は黙って札束のビル作りなのだ」
 達夫は、香根子の勢いに負けそうで、関係無いことまで言ってしまった。

 達夫と香根子は、蓄財にかけてはお互いに、競争相手であった。
「達夫君は最近何か買っての? 9月21日でしたっけ? 公定歩合が1.75
%に下げられたの! 私びっくりして仕舞って、あの少し前に転換社債買ったん
だ。この後、びゅっと値上がりしそう気がして、ドキドキなの」
「まさかあ。ほん! そりゃあな。上がるかも知れないな」
 達夫は香根子に先を越されたような気になり、目の下をピクピクッとさせた。

「ねえ。紅茶入れてくれない?」
 達夫は、ゆっくりとポットからカップに湯を注ぎ、ティ・バッグを入れた。
「名古屋の名産ういろうが有るけど、食べる?」
「ありがと。この次にするわ。今から用事があるのよ。だから帰る」
 暫くして香根子は立上り、玄関に向かって歩き始めた。達夫も後に続いた。

 香根子は、玄関で向い合い、達夫の腕をぎゅっと思いっきり抓った。達夫も香
根子の腕の皮膚を指で挟み、強くひねった。。
 奇妙にも思えるこの行為は、何年も前から続いている。腕の皮膚を抓ることに
よって痛みを感じさせ合い、冷静さを忘れさせないためだ。

 ***** 完 *****




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