#2857/3137 空中分解2
★タイトル (KCF ) 93/ 2/13 23:34 (181)
掲示板(BBS)最高傑作集28
★内容
「掲示板(BBS)最高傑作集27」からの続き
どうにかこうにか、予約した成田エクスプレスに乗ることができ、また憂うつ
が始まりました。口臭課長のそばへ行かなければならないのです。同時に予約し
てもらったため課長の席は私の隣なのです。おそらく課長は私が乗り遅れたので
はないかと心配しているはずです。今回の場合、自分の席を探すのは簡単です。
切符の座席番号など見る必要などないのです。五感のうちの嗅覚だけを使えばい
いからです。まん中の車両に乗車したので、前後どちらの方向が臭いか鼻をくん
くんさせました。前の方が臭かったので、私は前の車両に移りました。車両の中
央部に来ても相変わらず、悪臭は前からにおってきます。私は「課長の野郎、こ
の前の車両にいるな。」とつぶやき、前の車両に移りました。ところが、今度は
後ろから悪臭がにおってきたのです。「あれ、課長とすれ違ったかなあ。」と私
は疑問に思い始めました。でもそんなはずはありません。私は呼吸を止めずにそ
こまで来ていたのです。列車の通路は狭く、そんなところで通常の呼吸をしなが
ら課長とすれ違ったら課長の口臭をもろに吸い込み、すぐそばの座席に座ってい
る人の膝の上にばったりと倒れていたはずです。かわいい女の子が座席に座って
いた場合は、課長の存在の有無に係わらず倒れた可能性がありますが、そのよう
な人はいませんでした。「これはどこか変だ。」と感じた私は、鼻を凝らしなが
ら今度はゆっくりと後ろへ逆戻りしました。そして、最後から2列目の席で、女
の人が赤ちゃんのおしめを替えていたことがわかりました。これはますます変で
す。赤ちゃんが汚したおむつごときに課長の口臭が負けるわけがありません。仕
方がないので、私は切符に書かれている座席番号を確認して、自分の席へ行きま
した。課長はやっぱりいませんでした。乗り遅れたのかもしれません。座席は2
人掛けの席が向かい合う形のもので、窓際の私の席の前には日本人の女性が座っ
ていました。私の席のとなりの本来は口臭課長が座る席の前にはプロレスラーじ
ゃないかと思うくらい立派な体をした恐そうな外人が座ってました。私はその外
人を見た途端、「これは口臭課長とひともんちゃくあったな」とピンときました。
日本人なら前の席にどんなに臭い人が座ろうが、何も言わずに最後まで我慢して
しまうのですが、外人は思ったことをはっきり口に出します。おそらく口臭課長
が自分の席につくやいなや、いや、おそらく課長がこの車両に乗り込むやいなや、
この外人に「ユー、スティンク!(おまえは臭い!)」と怒鳴られたはずです。
課長は自分では英語がかなりできると思っているのですが、世間相場からいくと
初心者、どころかまったく英語を習ったことがない人と分類されるほどの英語力
であるため、何と外人に言われたかわかるわけがありません。そんなわけだから、
その恐そうな外人の前に平気で座ってしまったはずです。外人は怒って口臭課長
の首ねっこをつかんで持ち上げました。課長は呼吸ができないので苦しくて足を
ばたばたさせました。その恐そうな外人は、殺してしまってはまずいと考え、し
ばらくしたら首ねっこから手を放してやりました。持ち上げられていた20秒間、
課長は息ができなかったので、降ろされた直後、「はーはー」とものすごい勢い
で呼吸を再開しました。課長が普通に呼吸をしていても、付近は東京夢の島にあ
る生ゴミ捨て場になってしまうのに、課長がものすごい勢いで呼吸をしたものだ
から、成田エクスプレスの車内は一瞬にして、水洗じゃない便所を利用したとき
に足をすべらせて落ちてしまったあの暗黒のシェルターへと変わってしまったの
です。このままでは乗客の命に係わると不安になったその外人は、口臭課長を再
び捕まえ、トイレにぶち込んでしまったはずです。「そうか!課長はトイレに監
禁されているのか!」車内の座席状況を見ただけで、課長の居場所を見つけ出し
てしまうなんて。あらためて私の推理力のすばらしさに自分自身で酔ってしまい、
足元をふらふらさせながらトイレへ行きドアを開けてみたのですが、課長はいま
せんでした。やっぱり単に乗り遅れただけでした。
もしかして口臭課長は飛行機にも乗り遅れ、アメリカへは私一人で行くのでは
ないかと思い始め、嬉しさがだんだんこみ上げてきました。しかしよく考えると、
この成田エクスプレスは成田空港へは飛行機の出発3時間前に着きます。だから
下手すると、課長は後続の列車に乗り、飛行機に間に合ってしまうのではないか。
こみ上げてきた嬉しさがだんだんと不安に変わっていきました。やがて、列車は
成田空港駅に着きました。集合時間まで1時間あったので、空港内の銀行に行き、
お金をドルに替え、おみやげ店で時間を過ごしました。そして、飛行機の出発2
時間前になり、恐る恐る集合場所に行ってみると、やっぱり口臭課長はいました。
私はその時、成田空港のベンチで休んでいる時にうとうとして寝てしまい、これ
は単に夢を見ているだけであってほしいと真剣に祈りました。そして、なんとか
この悪夢から覚めたいと自分のほほを力の限り爪を立てておもいっきりつねりま
した。ほほから止めどもなく流れる血と堪えきれない痛さのため、私は成田空港
の救急医務室に駆け込み、顔面を包帯でぐるぐる巻きにしてもらいました。課長
の野郎。来るんだったら新宿の待ち合わせ場所に時間どおり来ればいいものを。
今まで一人で出張できるという淡い期待を抱かせやがって。私は、顔面に巻かれ
た包帯をほどいて、課長の首を締めてやろうかと思いながら課長に言ってやりま
した。「課長、どうしたのですか。心配してました。」思っていることとよくも
これほど違うことを言えるものだと自分自身感心してしまいました。課長は私に
気付き、「おや、フヒハ君。どうしたんだ、その包帯は。それはそうと申し訳な
い。東京駅行きの特急に間違って乗って寝てしまい、終点で駅員に起こされて成
田空港じゃなくてびっくりしたよ。でも間に合ってよかった。」と冷汗をかきな
がら私に言いました。私は、「何で東京駅行きの上り特急に乗ったんだよ。下り
の特急に乗れば、長野県の松本で起こされ、俺は一人で太平洋の空の上だったの
に。このばかやろう!」と思いながら、「終着駅が東京駅でよかったですね、課
長。一人で飛行機に乗らなければならないかと不安で仕方ありませんでした。」
と私の口は血のにじんだ包帯を通して言っていました。
私たちの乗った飛行機はアメリカン航空サンノゼ行きでした。その日の便はか
なり空いているらしくあまり人が乗ってきません。私も口臭課長もタバコを吸わ
ないため、禁煙席を与えられたのですが、これがとんでもない大失敗でした。南
ウイングにあるアメリカン航空のカウンターに二人で一緒にチェックインしたた
め、連れの客と思われ(実際に連れの客だが私はそう思われたくはなかった)、
口臭課長と隣同士の席にされてしまったのです。どうしてタバコ吸いますと嘘で
も言って口臭課長と離れた席を割り与えられるようにしなかったのか。課長の口
臭を50センチしか離れていないところで8時間も耐えるのに比べたら、禁煙席
で他人の吸うタバコの煙に耐えることなんて、教壇の上に「おまる」を置き、み
んなの見ている前で用を足すくらいお茶の子さいさいです。後者の例の方がはる
かに耐え難いと言う方がいらっしゃるかもしれませんが、これには個人差があり
ますので一概にはどっちがどうとか言えません。いずれにしても課長とは離れた
席にしてもらうべきでした。
エコノミー席は横幅が狭いため、課長が息を吐くごとに、口臭が私の鼻をモロ
に直撃します。1分ほど呼吸をせずに我慢したのですが、顔面が真っ青になって
きたのが自分でもわかり、さらに吐き気を催してきたので、まん中に空いている
5人掛けの席に逃げるようにして避難しました。そして呼吸が正常に戻った後、
「こっちの方がスペースがあっていいや。」と理由の後付けを行いました。機内
には喫煙席があるのだから、課長のような人のためにどうして口臭席がないのか
不思議でなりません。何年か前にタバコを吸わない人のために喫煙席と禁煙席を
分けたように、座席は一般席と口臭席に分けるべきです。一般に、旅客機は一番
前がファーストクラス、次がビジネスクラス、最後にエコノミークラスという配
置になっていて、どのクラスも前が禁煙席で、その後ろに喫煙席があります。も
し口臭席を設けるのだったら、それはエコノミーの喫煙席の後ろにあるトイレの
さらに後ろになるでしょう。うちの課長は口臭席でもずば抜けた存在なので、口
臭席最後尾の席にシートベルトではなく鎖で体を縛られ、口に猿ぐつわをはめら
れ、さらに口臭席に座っている他の口臭の強い乗客から「息を吐くときは前を向
くな!」と脅されているはずです。スチュワーデスは当然のことながらガスマス
クを顔につけて口臭席にやってきます。一般席ではオレンジジュースやビールな
どの飲物を配っていたスチュワーデスも、口臭席ではリステリンを配ります。
話は横におもいっきりそれましたが、とにかく私はまん中の5人掛けの席を一
人で占めることができました。席はエコノミークラスで狭いのですが、肘掛けを
上にもち上げることができ、体を伸ばして寝ることができるのです。スチュワー
デスはたったの一人しかいなかったのですが、その方は一応金髪の女性でした。
一応と申したのは、その方の年齢は40をはるかに過ぎている人だったからです。
残りの客室係はすべてスチュワード(男性)で、全日空のピチピチスチュワーデ
スがしてくれるような濃厚なサービスを期待していた私は、温泉に行った晩にス
トリップ劇場に立ち寄ったのだけれども、出演者の平均年齢が40を越えていた
というあのやるせなさのため、とっとと5人掛けの席の上に寝ることにしました。
アナウンスでは、日本語を話す乗務員がいると言っていたのですが、どう聞いて
も中国語にしか聞こえない日本語らしき言語を話す中国系アメリカ人スチュワー
ドが一名いるだけで、日本語はほとんど通じないと言ってもいい状態でした。そ
んなわけだから、その中国系アメリカ人スチュワードに「美人の若い金髪のスチ
ュワーデスを出せ!」と私が日本語で要求しても、オレンジジュースを持ってき
てしまう有様でした。このようにお客様への応対は、てんでなっていなかったの
ですが、手足を伸ばして寝ることができたので、許してやることにしました。
やがて眠くなり、うとうとしだすと、飛行機が急に揺れ出しました。そうなる
とすぐに「シートベルトを締めてください」というアナウンスが聞こえてきまし
た。私は非常に眠かったので無視しました。すると、日本語らしき言語を話すス
チュワードがすっ飛んで来て「お客さーん。いけませーん。シートベルトしろよ
ー。(おそらくこんなようなことを言ったのだろう)」と叫びながら私の首、腹、
ふともも、足首にシートベルトを巻き付たのです。たぶん、日本の航空会社であ
れば空いている席に勝手に移動することすら許されないし、ましてや5人掛けの
席を一人占めすることなどもってのほかでしょうが、さすがは自由な国「アメリ
カ」の名前を持つアメリカン航空。首に巻いてくれたシートベルトは窒息一歩手
前の締め具合いで、スチュワードに殺意がなくて助かりました。
やがて、「左にサンフランシスコが見えてきました。」という機長のアナウン
スがありました。左の窓際の席に座っていた口臭課長は窓枠にデカい顔をはめ込
むかのごとく顔を窓に近づけたため、まん中の席で横になっていた私は窓を通し
て何も見ることができませんでした。口臭課長に顔を近づけられた窓はたまった
ものではありません。私は入社以来、課長のすぐそばにいるときは「呼吸」の
「呼」だけ行い、「吸」は課長の口からに半径3メートル以上離れたところで行
ってきました。そんなわけだから、口臭課長の口が窓に触れた瞬間、窓に亀裂が
入り、機内と上空1万メートルの気圧差により窓が吹き飛び、機内に取り付けら
れた酸素マスクが下りてくるのではないかと不安になりました。飛行機が成田を
離陸する寸前、酸素マスクの付け方に関するビデオの説明があったのですが、
「こんなもん使う機会なんてあるわけねーだろ!」とバカにして、よく聞いてい
なかったことをそのころになって非常に後悔し始めました。そしてもし、下がっ
てきた酸素マスクを課長がつけてしまった場合、酸素送り出しポンプの機能が課
長の口臭によってマヒし、どうしたことか各乗客の酸素マスクに課長の口臭が送
り込まれてしまい、全員が失神してしまいかねません。乗客、スチュワーデス、
スチュワードは気を失っても構いませんが、コックピット内で飛行機を操縦して
いる機長が酸素マスクを付けてしまったら大変です。私は、居ても立ってもいら
れなくなり、あの自称、ではなくアナウンス称「日本語も話せる乗務員」である
中国系アメリカ人のスチュワードを呼び、「機長に酸素マスクを付けないよう警
告してくれ。」と頼みました。「日本語も話せる乗務員」は私の頼みに対して、
今度は「イエッサー」と歯切れのいい返事をして、コックピットのある前方方向
へと走って行きました。「お!今度こそ日本語をわかってくれたか。」と私は非
常に嬉しくなりました。しかし、そんな喜びも束の間、彼はコックピットへは行
かず、エコノミークラスとビジネスクラスの間にある棚から何かを取り出し、す
ぐに私の所へ戻ってきてしまいました。「また、おまえは俺の言ったことがわか
らなかったな。」と私が不満を漏らすと、彼はアメリカン航空のネーム入りトラ
ンプを私に渡し、「キャプテン(機長)は今、飛行機を操縦していて、お客さん
とポーカーできないよー。僕が代わりに相手になるよー。(たぶんこう言ったの
だろう)」と私に挑戦状をたたきつけてきました。
5回連続して負けて私が50ドルもすってしまったところで、機長の「着陸準
備」というアナウンスが聞こえ、いよいよ私はアメリカに来てしまったのです。
○コメント
アメリカでの出来事を書こうと思ったのですが、アメリカに着くまでの話があま
りに長くなってしまったため、「アメリカ出張での出来事2」というタイトルで
後日に続編を書こうかと思います。ご了承下さい。
これで終わりです。掲示板(BBS)最高傑作集29をお楽しみに。