AWC ショートショート「ハッピー・バースディ」  ほりこし


        
#2201/3137 空中分解2
★タイトル (NEA     )  92/ 9/29   4:14  ( 56)
ショートショート「ハッピー・バースディ」  ほりこし
★内容
           「ハッピー・バースディ」

 今年も花束は届いた。
 薔薇の高価そうな花束で、それにはメッセージカードが添えてある。
 「お誕生日おめでとうございます。いつまでもお元気で Tより」
 花束が誕生日に届くようになったのは男が会社を定年退職したその翌年からで、
今年で3回目になる。
 最初は「会社の後輩が送ってくれたのだろう」と考えて、後輩に聞いてみたの
だが、誰も心当たりのある人はいなかった。
 妻のいたずらだろうと思い、妻に訪ねてみた。
 「おい、この花束お前が送ってんじゃないのか?」
 「なに言ってんですか、わたしだったら手渡しますよ。名前をかくして感謝さ
れないなんて、そんな事しませんよ」
 「そうか……違うか、じゃ、誰だろう?」
 「昔、泣かせた女の人でもいるんじゃないの? その人がまだ想ってたりして
……毎年、花束を送る。ロマンチックねぇ」
 「バカ、そんなのがいるか!」
 男はそう言って否定したが、心当たりがない訳でではなかった。
 名前を「てい」と言って、若い頃はみんな彼女を「てい子ちゃん」と呼んでい
た。頭文字も合っている。
 男は「彼女に違いない」と思うようになった。
 そうすると、会ってみたいという気持ちが起き、その気持ちはふくれあがるば
かりだった。
 「会いに行こう」男はそう決めた。
 彼女は九州の鹿児島、種子島に嫁いでいるはずだった。
 男は種子島に飛んだ。
 男は彼女の嫁ぎ先に着いた。
 そこには彼女は居なかった。代わりに夫の母だと言う老婆が迎えた。
 「すると、“おていさん”は?」
 「癌には勝てなくてねぇ、5年前に亡くなったんだわ」
 「そうだったんですか……知らなかった……」
 男は落胆して東京に戻った。
 (誰だろう……俺に思いを寄せてくれている人は……)
 しかし、誰か知らないけれど、自分に思いを寄せてくれる人がいる……そのこ
とを思うと心が幸福になった。
 「誰でもいい、いつまで続くか知らないが、このままにしておこう」
 男はそう決めた。
 月日がしばらくたった。
 男がいつもの朝のように新聞を見てた。
 すると、それを覗き込んで妻が言った。
 「あなた、これじゃないの?」
 「なに?」
 「この広告よ。見えないの?」
 「広告はあるけど、別に変わったのはないぞ」
 「あなたには、見えないのね」
 「見えない?」
 「わたしが読んでやりますよ」
 そう言うと、妻は男から新聞を取り上げ読み始めた。
 「寂しい老後のために花束はいかがですか
  女の人の名前で毎年誕生日に花束を送ります。
  そして、その頼んだ記憶も消して差し上げます。
  もちろん、この広告も見えなくなるような処置もいたします。
  たった50クレジットで、あなたはなつかしい思い出にひたれることうけあ
  いです。
  △△記憶研究所 TEL ○○○○ ×××× 」





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