AWC エッフェル塔が見える時間(とき) 2 武雷暗緑


        
#2174/3137 空中分解2
★タイトル (AZA     )  92/ 9/21   7:52  (151)
エッフェル塔が見える時間(とき) 2 武雷暗緑
★内容
 こうして呼ばれ、やって来たのは、ユニコーン専従のジョニー・カーター刑
事であった。彼には、届いたユニコーンカードのことを伝えてあった。
「こちらが、アメリカからこの国まで、ユニコーンを捕らえに来たジョニー・
カーター刑事です。ジョン、こちらは、『あやかしの鎖』の持ち主、マドモア
ゼル・ビビアンヌさんだよ」
 金沢が、ビビアンヌとカーターを互いに紹介する。と、刑事が女主人に言っ
た。
「どうも、初めまして。カーターです」
「ビビアンヌです。よろしくお願いしますわ」
「お任せを。早速、そのネックレスを見せていただきたいのですが」
「はい、今すぐ取って来ますから、くつろいでいて下さいな」
 そう言うと、ビビアンヌは立ち上がり、二階へ上がって行った。召使らしき
あの男に言いつけぬところを見ると、財産だけは自分の手で扱っているのだろ
うか。
 取りに行っている間、カーター刑事が、私達に言った。
「おい、いくら何でも、四十過ぎの女に、マドモアゼル(お嬢さん)はないだ
ろう。例え、結婚していないにしてもだ」
「あの女性は、それくらいの冗談は分かるさ。かなりのしたたかさを持ってい
るようだが、女らしい点もある」
「したたかさというのは、女らしさの一つじゃないかね」
「おっと、忘れてた。アレは、立聞きするのも得意なんだよ」
 金沢が冗談めかして言うと、そのとき、ドアがノックされた。
「構いませんです」
 と、私が変な発音のフランス語で答えると、ビビアンヌでなく、あの老召使
が入って来た。
「奥様が、すぐには見つかりそうもないからお相手を、とのことで」
「そりゃどうも。ところで、ビビアンヌさんは結婚していないんでしょう?
奥様って呼ぶのは、変じゃないかな」
「おかしいかもしれませんが、奥様がそう呼ぶようにと」
「ふうん。ああ、あなたの名前、伺ってなかった」
 金沢が、何気ない調子で聞くと、相手は背筋を伸ばして答えた。
「ベルグソン。この家の執事であります。召使ではありません」
 どうやら、この男も、立聞きが得意なようだ。
「すまなかったね、ベルグソン。この家には、ビビアンヌさんとあなただけな
のかな?」
「いえ、コックのシグルドという男もいます」
「それじゃあ、その人にも、後で挨拶するとしよう」
 金沢が、腕を組みながら言ったとき、ビビアンヌが戻って来た。
「見つかりましたわ」
 今度はノックをして入って来た彼女は、ゆっくりと我々の前に来ると、手に
した物を、テーブルの上に置いた。
「これが、『あやかしの鎖』です」
 それは、長さは普通のネックレスと相違なかったが、一番下のところ、つま
り、首にかけたときに胸元に来る部分に、金色の台座にはめ込まれた石があっ
た。
「鎖の部分は純銀です。着いている石は猫目石で、その周りの台は、純金製なんですの」「ほほう。ちょっと手にしてよろしいですかな」
 カーター刑事が言うと、ビビアンヌはうなずいた。
 刑事が手にしたそれを、私と金沢の二人がのぞき込む格好となる。
「まず、本物に間違いありませんね。無論、鑑定するに越したことはないが」
 金沢がつぶやいた。
「さて、警備をどうするかですが……」
 ネックレスを戻したカーターが切り出すと、ビビアンヌが口を挟んだ。
「私、そのようなことは何も分かりませんので、お任せします。ですが、この
屋敷の案内なら、何でもお聞きになって」
「どうも」
 カーターは、軽く頭を下げた。それを見やりつつ、金沢が口を開く。
「それでは、私の案ですが……。玄関に四人、門に一人、一階の窓八箇所に各
二人で計十六人。二階の窓三箇所に各一人の計三人、二階のベランダに二人の
宝物部屋の入口に二人、庭に二人ということで、総計三十人ですか」
「どうして、窓の数を知っていらっしゃるの?」
 ビビアンヌが、少し驚いた表情で問うた。
「なに、ここに訪れる前に、塀越しに数えておいただけですよ。ついでに言う
と、宝物部屋には窓がないでしょう。さっき、あなたが捜している足音で、部
屋の位置が分かりましたよ」
「大した観察力ですわ」
「それより、俺じゃなくて私は、金沢の案に賛成ですな。ビビアンヌさんは?」
 カーター刑事が、少し鼻白むようにしながら、そう聞いてきた。
「はい、別に構いません」
「それでは、早速、手配しましょう」
「ちょ、ちょっと、カーター刑事。まだ、予告日が知らされていないんですよ」
 私がこう言うと、カーターは頭に手をやり、
「いやあ、そうでしたな。先走りし過ぎたようです」
 と言った。顔が少しばかり、赤くなっている。
「じゃ、カーター刑事。そのときになれば、頼みます」
「ああ、金沢。任せといてくれ。ところで、ビビアンヌさん。ここの下の土、
軟らかい質ですか?」
「いえ、岩石層が連なった、頑丈な地質だと聞いていますが。それが何か?」
「いやいや。地下から来る可能性はあるかどうか、聞いてみただけです。これ
で、強行突破しか、ユニコーンはできなくなった訳です」
「そう簡単にいくかな」
「何を言うんだ、金沢。他に、どんな手があると言うんだ?」
「いや、別に。ともかく、カーター刑事は、当日の警備に全力を尽くして下さ
いよ。僕は、色々とここの人に聞きたいことがあるので」
「うむ。それでは、私は、ここらでおいとましますか。予告が来たら、すぐに
連絡して下さい」
 刑事はビビアンヌと金沢の両方に言うようにして、そして帰って行った。
「さてと。ビビアンヌさん、あなたは出かけるとき、どうしています?」
「どうしてますと言われても、必要とあれば、執事のベルグソンに車を運転し
てもらい、出かけていますわ」
「ここ一、二週間で、出かけたことは? ついでに、どなたか訪ねて来たこと
はありましたか?」
「いえ……。出かけていませんし、一人も来ていません」
 考えるようにして答えるビビアンヌ。
「そうですか。では、執事と料理人のどちらかが外出したようなことは、いか
がです?」
「ベルグソンはありませんが、コックのシグルドの方は、毎日、食料を買いに
行きます。何でも、自分の目で選びたいのだとか」
「どうもありがとう。そのシグルドさんに会いたいんですが、調理場はどちら
ですかね?」
 ビビアンヌは、調理場への道順を、詳しく教えてくれた。
 私と金沢は、そこへ行ってみた。本来は、執事が案内するものだろうが、今、
ベルグソンは掃除等で忙しいそうだ。
 異常なくらいきれいにしてある調理場にたどり着いてみると、中では、背筋
をシャンと伸ばした、三十才そこそこの男が、コンロに向かっていた。
「あの……」
 と声をかけようとすると、その男は、
「何だい」
 と、押し殺したような声を発し、振り向いた。
 途端に、私達はぎょっとさせられた。何故なら、その男の顔は、ほとんどの
っぺらぼうに近かったからである。帽子まで被っている。だが、よく見ると、
白いプラスチック製の薄板に、目と鼻の部分に合わせた穴が開いている面を被
っていただけだった。
 私達を見、その男、シグルドは、
「誰だい」
 と言った。金沢も、さすがに驚いた様子ながら、話しかけた。
「あ、あの、探偵の金沢と、助手のロックです。事件の調査で来ました」
「ああ、さっき、ベルグソンから聞いたよ。何の用だい」
「その前に、ちょっと聞いても構わないかな?」
「何だい、早くしてくれ」
 仮面で分からないが、不機嫌そうな表情をしたに違いないシグルド。
「その面を、どうしてしているんだね?」
「これは、何かの毛や汗、つば等が料理に入ってしまわないようにするためだ。
また、常に一定の状態にしておくことで、自分の鼻の感覚が狂わないですむん
だ」
「はあ、なるほど……。それでですね、先ほど、こちらの女主人から伺ったん
だが、君は毎日、買い出しに行くそうだね」
「ああ」
「何時頃、行くんだね?」
「この仕事が終わったらだ。夕食の準備だ」
「ふうん」
 それからしばらく、私達は、シグルドの仕事ぶりを眺めていた。約五分後、
シグルドは仕事を終え、出かける用意をし始めた。
「ちょっと面を外してくれないかな」
 金沢が言うと、シグルドは黙って面を外した。そして言った。
「どうだ、男前だろう」
 自信を持って言い切る通り、確かに男前ではあるが、いつも面を被っている
せいか、目の辺りが白っぽく、逆パンダのように見えるのが滑稽だった。口髭
をはやしており、髪の方はかなり短く、また白いものが交じっている。だが、
もうひとつ、年齢が掴めない男だ。
「うん、いい男だ。その目の周りがなけりゃね」
「これは仕方がないさ。サングラスをしていれば、分かりゃしない」
 そう言って、シグルドはサングラスをかけると、玄関に向かった。どうやら、
調理場に勝手口のような物はないようだ。
「変わった男だな。フランス人と言うよりも、ドイツ人に近い感じだ。あの目
の周りにしても、何とも思ってないのかねえ?」
「他人のことをとやかく言っても、始まらないさ、ロック。さあて、我々も、
予告があるまで、退散としよう」
 そうして、ビビアンヌに挨拶し、私達もこの屋敷を去った。

−続く




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