AWC 超人仮面の最期  WHO IS THE WRITER ? 3 赤川一郎&狂本


        
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★タイトル (AZA     )  92/ 9/21   7:46  (192)
超人仮面の最期  WHO IS THE WRITER ? 3 赤川一郎&狂本
★内容
「それからぁ、こんな物も、預かっているワケ」
 吹口は、けだるそうにこう言いながら、胸元から紙切れを取り出した。見る
とそれには、
<吉野刑事、連載が終わらぬ内に、決着をつけようではないか。一週間後の午
後三時、事件の関係者を集めてもらおう。場所は当日に知らせる。超人仮面よ
り>
 とあった。これまたワープロである。
 吉野は他の捜査員や赤川修との相談の結果、これに応じる姿勢を決めた。
 そして、一週間後、吉野刑事のもとへ、場所を示すハガキが舞い込んだ。と
言っても、消印がなく、差出人の住所も書いていなかったから、超人仮面が変
装して「配達」したのだろう。
 注目の場所だが、何と、赤川修の死んだ弟・一郎の家であった。それは海に
面した崖に近い、別荘のような家である。このことを赤川修に伝えると、今で
も修が管理しており、かつて事件があった当時のままの状態だと言ってきた。
 こうして、吉野刑事は、赤川修、佐木命救人、呂久分喜子、吹口増夜らと共
に、赤川一郎の家へと向かった。修が鍵を使って玄関のドアを開けようとした
ところ、すでに開いていた。
「鍵を持っているのは、あなたの他には?」
「いないはずです。こいつは、超人仮面の仕業に違いありません。奴なら、こ
れくらい、ちょろいもんなんでしょう」
 吉野の質問に、顔を引き締めるようにして答えた修だった。
 入ってみると、応接間に大きな円テーブルがあり、その周りに椅子が六脚あ
った。さらに、テーブルの上には原稿らしい紙の束が置いてある。
「座れということでしょうね」
 と言いながら、赤川修は腰掛けた。それから彼は、吉野の許可を得、原稿に
手を伸ばす。その内容は、前日の続きをごたごたと書き、集まる場所が分かっ
たところで切れていた。
 さて、全員が好きな椅子に座り、少し沈黙があった。
「……超人仮面こと狂本氏は、まだのようですわね」
 不意に、呂久が口を開く。これを受けるのは、赤川修。
「残った椅子のことですか。ま、どうせ姿は現さないでしょう。だが、どこで
聞いているか分からないから、取り合えずは、推理合戦といきませんか」
「それなら、わし、いやいや、私に最初に言わせて下さい」
 待ってましたとばかり、佐木が言った。それを見て、仕方なさそうに、しか
しわざと鼻を鳴らしたのは、吉野刑事。
 それに気付いたかどうか、編集長は喋り始めた。
「私は、まず、この事件の動機は何かを考えました。一見すると、超人仮面な
る怪人の、警察や探偵への挑戦が動機のように思える。だが、それだけのこと
で、全くの無関係な人間を、二人も殺すものですかな? いや、まず、いない
でしょう。とすると、犯人は目田早成氏かウチの二宅クンのどちらか、もしく
は両方に対して殺す動機がある人物と考えられる。目田氏と二宅クンとに共通
する要素は見あたらないので、どちらか一方を殺したいがために、もう一方も
カモフラージュのために殺したと考えるのが適当でしょう。では、どちらが『
本命』か? 私は、目田氏の方と判断しました。そして、今度の事件の関係者
の中で、目田氏を殺す動機のあるのは、呂久さん、あなただけです」
 と言い、佐木は呂久を指さした。
 呂久は落ち着いたもので、
「私にはアリバイがありますわ」
 とだけ言った。編集長と作家が冗談でやり合っているような雰囲気がある。
 佐木は続けた。
「赤川修シリーズとでも言いますか、超人仮面と関係がある、あるいはありそ
うな二つの小説を見てみますと、超人仮面は二人いるように書かれています。
だから、アリバイなんて、何の意味も持たない。私は、呂久分喜子さんが、一
連の事件の犯人だと判断します」
 佐木が言い切ってから間を置かず、呂久は笑いながら話し出した。
「ねえ、刑事さん。私の推理も口にしていいかしら。私にも、作家としての意
地があるのよね」
「……いいでしょう」
 場の雰囲気が、どんどんおかしな方向に行くなと感じつつ、吉野は認めた。
この内の誰かに化けているかもしれない超人仮面が、ボロを出すのを待つ意味
もあった。
「どうもっ。さて、先ほど、犯人とされました私としては、逆に佐木編集長を
犯人とします」
「何を!」
 芝居がかった感じで、佐木が叫んだ。呂久の対応も、型にはまっている。
「黙っていて下さい。私だって、あなたのくだらない推理とやらを、聞いてあ
げていたんですから。
 で、佐木さんは、さっき、二人の内のどちらかが本命だっておっしゃり、目
田さんを本命としたけれど、その逆も成り立つんじゃなくて? つまり、二宅
さんが本命だってことも、有り得るわ。そして、彼を殺す動機があるのは、佐
木さんだけじゃないかしら。あっと、口を出さないで。アリバイでしょう?
あのとき、佐木さんは、こちらの刑事さんと電話で話していたんですってね。
これも、佐木さんの推理みたいに、超人仮面は二人一組だから、アリバイは無
意味だってあしらってもいいんですけど、私は超人仮面は一人だと思っている
から、アリバイ破りをしてあげるわ。刑事さん、あのとき、電話は刑事さんか
らかけたんでしたわね?」
「そうです。佐木さんから聞いた電話番号にかけましたな」
「ちょっと、番号を教えて下さる? ……まあ、佐木さん。これ、編集部への
電話番号とは違っているんじゃありません?」
「うっ」
 佐木は、びくっとして、うめいた。
「どういうことですか、佐木さん?」
「私が説明しますわ、刑事さん。佐木さんは、初めから刑事さんをアリバイ作
りに利用するため、偽の電話番号を教えたんでしょう。きっと、この電話番号
の通じるところは、第二の事件の現場であるX公園の近くなんでしょうね」
「ち、違う。編集部にかけてこられたら、ややこしくなると思って、違う場所
にしたんだ。万が一、狂本自身から電話があったことを考えてだ」
 佐木の言うことも、一理あるように、吉野には思えた。
 それに構わず、呂久が続けた。
「ま、いいわ。調べれば分かることですし、佐木さんには、雑誌の売り上げを
伸ばすっていう動機もあるわ」
「呂久さん、私にも喋らせてもらえませんか。探偵の意地があるんで」
 今まで黙って聞いていた赤川修が、笑いながら発言した。
「ええ、いいわよ。作家の私が、創造力の芽をつみとるようなことはしないわ」
「どうも。さて、佐木さん、呂久さんの二人の推理を聞かせてもらった訳です
が、どうも真剣味がない。あらかじめ、決められたことを喋っているみたいだ。
あなた方の態度こそ、雑誌の売り上げを伸ばすための芝居だと思ったんですが、
どうですかね?
 それはともかく、皆さんは肝心なことを忘れている。狂本、つまり超人仮面
が、いかにして正確な台詞を知り得たかということです。盗聴器が見つかるま
では、ここにいる全員に可能性がありましたが、犯人は盗聴器が見つかった後
も、台詞を書いている。この原稿を見ればね。そのような状況の場面は、私と
吉野刑事の二人だけの場面、佐木さんと吉野刑事の二人だけの場面、佐木さん
と吹口さんと吉野刑事の三人の場面、これだけです。この三つの場面全てに登
場しているのは、吉野刑事だけだ。つまり、吉野刑事が犯人ではないかという
疑いが出てくる」
「これはまた、何と言うか……。動機は? 証拠は?」
 あっけに取られた吉野は、赤川の作戦かと考え、極普通に反論した。
「動機は、ただ、私に挑戦してくるためですよ。証拠は、さっき私が言った論
理で充分だと思いますがね」
「だが、私にはアリバイがある。第二の事件のとき、私は警察にいて、佐木さ
んに電話をしていた」
「それこそ、佐木さんが言ったように、犯人は二人かもしれないから、無意味
です。もし、あなた一人が犯人だとしても、殺人現場近くから、編集部へ電話
したと考えれば、辻褄はあう。警察の仲間の方は、うまく言いくるめてね」
「いかにも、探偵的だ……。それなら、私は刑事の意地にかけて、仮にあなた
を犯人だと指摘してみますか」
「やってみて下さい」
「君は、盗聴器が発見された後の台詞の場面全てに、私が登場しているから、
私を犯人とした。しかし、あの編集部での会話は、室内に十人近くの編集者が
いた。その中に、超人仮面が変装して紛れ込んでいなかったと、断言できるか
な? もしいたならば、会話は聞けるな。そして、私と赤川修君の二人だけの
場面だ。私の第二の事件のアリバイは、警察に戻れば何人でも証人がいる。こ
れは絶対だ。だから私は、犯人ではない。また、あの、私と修君二人きりの場
面は、確かに私達二人以外、誰もいなかった。と言うことは、どちらかが犯人
だ。私は犯人でないと証明されたな。よって、赤川修、君が犯人だよ」
「証拠は何です?」
 赤川修は、口元に笑みを浮かべ、聞き返した。
「だから、仮にって言ったろ。真犯人は別にいるんだ。警察としては、吹口増
夜、あなたが犯人だと考えている!」
「はぃ? どうして私が……」
 今まで、推理合戦のかやの外という感じだっただけに、吹口はぼんやりとし
ている。
「今から説明しますので、静かに。私がまず最初に考えたのは、超人仮面は何
のために、わざわざ吹口さんに原稿を持って行くよう頼んだか、ですな。何故、
変装の名人たる超人仮面ともあろう者が、そんな不確実な手段を選んだのか。
金を渡しても、吹口さんが行くとは限らんのです。超人仮面は、今の推理合戦
を目の当たりにしたいがために、吹口増夜という架空の女性に化け、わざわざ
事件の関係者となった」
「原稿の台詞はどうなんのよ? 私がいたのは、三人の場面よ」
「それも説明できる。編集部で、私と佐木さんの二人だけの場面は、入口の側
で聞き耳を立てていれば、聞こえたはずだ。私と赤川さんの二人きりのときは、
あの、壊れたと思われた盗聴器が、実はまだ完全には壊れていなくて、だから
こそ、残る二つの場面、つまりあなたが不在だった場面でも、あなたは台詞を
聞けた。そしてこれは決定的な証拠で、あなたの筆跡が狂本死郎の原稿の、肉
筆部分と一致しました。僅か三文字から、あなた、いや超人仮面、おまえの犯
罪は暴露されたんだな」
「どこから私の筆跡を?」
 声を変えずに、態度でおろおろしてみせる吹口。
「あなたの勤めている店に当たってみますと、好運にも、あなたが三宅徹志な
る人の、ボトルキープのための札を書いていた。しかし、用心深いもんだな、
ちゃんと、ホステスとして働いておくなんて」
「……クククククッ! バレたら仕方がない。本当は赤川修と対決したかった
のだが、まあいい。私が超人仮面であり、狂本死郎でもあるのだ」
 吹口は、男の声になってこう叫ぶと、窓ガラスを破って、外に飛び出た。
「待てっ!」
 追う吉野刑事に赤川修。推理で先を越され、必死になったのか、赤川修は素
早く超人仮面の足にしがみついた。
「は、離せ」
「離すものか! 年貢の収めどきだ、超人仮面!」
 二人はもつれ合って、家屋から続く道に沿って、海に面した崖の頂に至った。
「赤川! 危険だ、戻れ!」
 と、吉野刑事が叫んだが、二人は離れない。いよいよ海に落ちそうになった
瞬間、吉野刑事は、
「仕方ない……」
 とつぶやき、銃を手にした。そして、超人仮面の肩口に狙いを定める……。
 そして、撃つ!
「ぐわっ!」
 吉野の射撃の腕は、かなりのものだったが、常に動く的を相手にしては、そ
れも空しかった。弾は肩口ではなく、超人仮面の左胸を貫いたのだ。無論、超
人仮面は、矢のように叫ぶと、海に転落して行った……。
 引き上げられた超人仮面の遺体は、吹口増夜の変装も剥がれ、素顔が見えた。
それは、死んだはずの赤川一郎であった。
「こ、これは……。一体、どういうことで……」
 吉野のうめきに、赤川修は、何とか応じた。
「わ、分かりません……。弟が生きていたなんて……。それに、弟がどうして
こんなことをしたのかも……。それよりも、『交通信号殺人事件』で犯人とさ
れた紅林さんでしたか、彼は死刑になっている!」
「どうしようもありません……。残念ながら……。最善は尽くしますが、死刑
としてしまったことは、もうどうにも……」
「……私の推理が間違っていたせいで……。もしかすると、弟は、紅林を殺す
ことの他に、警察や私に過ちを犯させることが、目的だったのかもしれない…
…」

−探偵赤川と超人仮面の華麗なる対決.終−


「やっと完成か。慣れないことはするもんじゃない。これからは一人きりだが、
一郎、おまえの敵はとってやるぜ」
 疲れた目をもみながら、その人物はつぶやいた。

−超人仮面の最期.終−




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