AWC 盗作童話>我が復讐、カチカチ山に誓う(1)   NINO


        
#1731/1850 CFM「空中分解」
★タイトル (HYE     )  89/ 8/ 3   1:28  (162)
盗作童話>我が復讐、カチカチ山に誓う(1)   NINO
★内容

 我が復讐、カチカチ山に誓う
                                                               NINO

 タヌキがいた。若いタヌキだ。しかし、只のタヌキではなかった。
 彼の先祖は、兎に騙され、火傷を負い、あまつさえ泥の舟に乗せられ、ケチョンケチ
ョンにされたタヌキだった。
 彼は先祖の霊を拝むたび、
「今に見ていろ。必ず仕返ししてやる」
 と誓い、日々を暮していた。
 そして、彼は銭と知識を得るため独り、都会に出ることにした。

 コンビニ、東京ディズニー、西部動物園……。彼はクソミソに働き、夜学に通った。
卒業の日、校長に「君は見上げたタヌキだ。よく頑張った。これからは森の動物達のた
め、我が校の優秀なエンジニアーとして活躍を期待する」と言われ、涙を流した。校長
は彼がタヌキだったことを知っていたのだ。知っていて入学させてくれ、学ばせてくれ
ていたのだった。
 しかし、初心を忘れていない彼は、都会で「ウサギにギャフンと言わせる計画」を立
てた。そして、必要な道具は、東急ハンズで買いあさるか、もし無ければ作れば良かっ
た。彼は綿密に計画を立て、周到に準備をし、大荷物に気付かれないよう夜行列車で帰
った。

 森に帰ったタヌキは、暴れに暴れた。これは自分の意志に反する、辛いことであった
が、ウサギを誘き出すにはこれしかなかった。そう確信していた。
 アロハシャツに角度のついたサングラス、エナメルの白い靴……現在の流行を知って
いるだけに彼は自分の格好を、とてもカナピーと思ったが、森の風習は古い。こうでも
しないと、森の住人には理解不能になってしまう。
「山ふたつ越せばのりぴーのお店があるってのに」
 都会でのりぴーファンになっていた彼はひとりごちた。
 しかし一方で、彼はウサギを誘き出すために、
「よーよー、そこのリスちゃん。いいけつしてんじゃねぇかよ」
 とか、
「苔食ってる雌鹿さんよ。おれといいことしないかぁ? ほれほれ」
 などと、変態行為にまで及んだ。
 彼の母は泣いていたが、彼は訳を話さなかった。ウサギに恥をかかせるまで、母には
言えないと思った。

 ようやく「カチカチ山ウサギ」家の代々の伝統である「正義の心」に火が着いた。ウ
サギはタヌキが昼寝をしているところに近づき、
「そろそろ夏も終わりね」
「それがどうしたい」
 しみじみ季節を感じ、田舎はやっぱりいいなぁと思いつつも、タヌキはそう答えた。
「おれさまになんのようだい」
 今時、どこの誰が「おれさま」なんて使うんだー! タヌキは麦藁帽で顔を隠した。
「だからー。薪を集めなきゃでしょ」
 その言葉遣い、その声。タヌキはとっさに帽子を取り、起き上がった。彼は思わず声
が出そうになった。まじまじとウサギの顔を見回し、瞬間、都会での暮らしを思い出し
ていた。ちっぽけなアパート暮らしだった彼。その真向かいの、ワンルーム・マンショ
ンに住み、青学に通うバイリンのお嬢様。
 そして、目の前でしゃがんでいるウサギが発した声は、まさにその「憧れの君」だっ
たのだ。
 しかし……タヌキは考える。ウサギ家に「人に化ける呪文の書」があっただろうか。
彼は更に考える。化けることができるのは、伝統的にタヌキ家とキツネ家。それは一枚
のコインの表と裏、光と影なのだ。やはり、「化け術」を使うウサギなどあり得ない。
こいつは声色を使っているだけだ。
「薪集めなんて面白くもねぇ」
「薪集めは口実よぉ。うるさい両親を騙すためのぉ。ねぇ。今夜、二人でカチカチ山で
デートしない?」
 彼は思わずデレッとしていた。しかし、彼は自分のその顔に気付かないまま、
「けっ、ねんねはごめんだぜ」
 意外に動揺していた彼の声は、すこし震えていた。
「そんなこといわないの……」
 タヌキは太股をスリスリされて、舞い上がってしまった。
「よし。決めた。今晩、山の麓、一本杉の公園で待ち合わせだぁ!……遅れんなよ」

 まんまとわなにはまったタヌキは……いや、本当は彼の作戦なのだが……ウキウキし
ていた。
「バニーちゃんと真夜中のデート……ちがう、カチカチ山の復讐その一が今夜、晴れて
実行に移されるのだ。私は勝つ!」
 タヌキは、まだ感触の残っている太股をパンパンと叩き、気合いを入れた。
「……そうだ。気合い。男は気合いだぁ」
 そう声にだして、タヌキはある種のドリンク剤を飲んだ。言っていることと、全く違
う意味のために……

 おぼろに月は赤く、綺麗だった。時間より早く公園に着いていたタヌキは、月を見て
思った。
「ごらん、今夜は月が綺麗だ」
「ほんとう。綺麗だわ」
「しかし君の美しさには、月も恥ずかしくて逃げ出してしまうかもしれない」
 彼は無意識の内に一人二役を演じた。
 木陰で秘かにそれを見ていたウサギは、「伝統的に馬鹿な奴」と思っていた。

 タヌキはすっかりデートだと思っていたために、彼女が薪を集めてばかりいるので、
腹が立っていた。ぶつぶつ文句タレていた。
「薪集めるって、退屈? ねぇ。どうなの?」
「楽しいさ。そりゃ楽しい。君といればなんだって楽しいさ」
 腹がたつやら、くやしいやらで、タヌキはガンガン拾った。ドリンク剤のせいか、頭
に血が昇っていたのかもしれない。

「そろそろ山下りよっか?」
 ウサギがそう言うころには、タヌキはヘバっていた。クタクタだった。その分、タヌ
キは冷静にウサギへの復讐を考えることができた。
「薪って重たーい。ねぇ。私のも、もってって」
 このタヌキ女……いやウサギ女め。甘ったれんじゃねぇ。
「いいよ……よいしょっ……おれって案外力持ち」
 なによこのニヤけたアホ面……馬鹿ダヌキ。
 タヌキは薪の重さでスッタカタッタと下りていった。ウサギは遅れを取らないよう早
足で歩きながら、隠し持った火打ち石で薪に火をつけようと試みた。
「カチカチカチ」
 静まった夜の森に意外に大きく、音が響きわたった。びっくりしてウサギは手で口を
ふさいだ。
「そのカチカチカチ……ってぇのはなんだい」
「あたし知らない」
「戸締まり用心、火の用心、ってか?」
「そ、そうね。そうよ、きっと。ほら、秋・冬は防火週間とかあってさ……」
「ほんとぉー?」
 さっと振り返ったタヌキに気取られぬよう、ウサギは火打ち石を隠す。
「ほんとよ。信じてないの?」
「いや、信じてる」
「ならいいじゃない。ほら、麓はまだまだよ」
 後ろを歩いているウサギにはわからなかったが、彼はニヤリと笑った。彼の計画がう
まくいっているのだった。
 そして、「カチカチ」という火打ち石の音と、ウサギがごまかそうとして言う「火の
用心」の声が、交互に響きわたった。
 次第に薪は燃えだし、夜道を明るく照らした。
「なんだ、この明り。火ぃつけた?」
 ビクッとして、ウサギは言った。
「つけてないわよ。火なんてつけてない」
「つけただろ。そうでなきゃ明るくなるわけない」
「つけてないー。つけてないわよ」
「何でそんなに慌ててるんだ。こっちは夜道が暗くて困ってたんだ。月明りじゃ暗いも
のな」
「そ、そうね」
 言いつつも、ウサギは「この鈍感野郎ぉー」と思った。
「しかし、このボウボウという音はいただけないな。あんまり火が強いと、森を焦がし
てしまうよ」
 再びビクリとしたウサギは、「このタコ、気付いとんのとちゃうか」と思った。しか
し、今までの言動を照らし合わせてみて、やはり気付いていない、と判断した。
 やがて、タヌキの背に燃え立つ炎は、馬鹿でも頓馬でも気付くほどに大きくなった。
「熱い。あつい。死にそうだ。燃える。体が燃えるようだ」
「もう悪さしないと誓うわね?」
 決まり文句だ。それは代々ウサギ家に伝わる「タヌキ懲らしめマニュアル」に載って
いる、伝家の宝刀だった。
「痛い。熱い。燃える。燃える」
 そう叫ぶタヌキは、ちっとも熱くないNASA特製「防火毛皮」にくるまっていた。
そして、夜学の演劇部に所属していた彼は、その演技力をフルに生かしていた。
「誓いなさい」
 ウサギはそう言ってから、麓に隠してある消化器を意識した。
「燃える。体が燃える」
「はやく降参しなさい。はやく」
 既に体が燃えだしていた。タヌキは巧みに動きまわりながら、柔らかそうな土を探し
た。漫画「サスケ」で読んだ、「火遁の術」を使おうというのである。
「きゃー。やだー、た、タヌキさんが燃えちゃう!」
 ウサギは隠してあった消火器を使った。シュウシュウと音を立て、次第に火は消えて
いった。だが、そこにはタヌキの骨すら残っていなかった。

 翌朝、ウサギは禿鷹の警察官のもとに自首しにいった。
「私は、タヌキさんを焼き殺してしまいました」
「ほう。それは大変なことをしましたな」
「真剣に聞いてください。それは、夕べの夜遅く。カチカチ山の麓でした……」
「ちょっと待ちなさい」
 禿鷹は顎で「「正確にはくちばしで、だが「「後ろを見るように促した。
 ウサギにはそれが信じられなかった。本気で焼けていると思っていた。
「ばーか。お前のやり口は何年も昔からわかってんだよ」
 タヌキがそう言うと、ウサギのはらわたは、地獄の業火のように燃え立った。
「ファック・ユー」
 青学、バイリン、ウサギ・ギャルは中指を立て、思わずそう罵った。
 タヌキはその一言で、彼女が本当に「憧れの君」であったと悟り、ちょっぴり後悔し
た。そしてその下品な言葉に、ちょっぴり幻滅した。


 つづく




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