AWC 『闇の迷宮』 −14−             Fon.


        
#1652/1850 CFM「空中分解」
★タイトル (DGJ     )  89/ 6/22   6: 6  (100)
『闇の迷宮』 −14−             Fon.
★内容
                             by 尉崎 翻
 書斎。
 部屋の大きさとしてはたいしたものではない。
 十歩も歩けば反対側の壁にたどりついてしまう。
 その四方の壁全体を覆いつくすように本がビッシリと埋まっており、部屋の中央
には細かな彫刻を施してある机と椅子が置いてあった。
 いかにも書斎といった感じの部屋である。
 レナは、まずグルッと四方の壁を見渡してからところどころの本を棚より抜き出
してパラパラッとページに目を通し始めた。
 本の表紙には断片的なタイトル「「「例えば<薬>とか<魔><生><地>など
に番号がふってあるだけであり、それだけで内容を推理することはちょっと無理で
ある。それぞれの中で最も大きな番号がふってある本のほとんどは書きかけ途中の
ものであり、この書斎の本はここの魔術師が実験などの結果を記したものである事
が理解できた。
 リクトも数冊を手にとって中を開いたのだが専門用語や略語が多く概要をつかむ
のがせいいっぱいというのが実際である。だが細かなデータや図式表現などで非常
に丁寧に書いてあるのが目についた。
「レナ、こんな所で本を読んでいるよりも他の部屋を探した方が「「「」
 パタンと本を閉じて振りかえりリクトは言葉を詰まらせた。
 言葉に反応して振り向いたレナの双眼からはは瞳消え、全体が緑色に光っていた
のである。
 さながら光苔のような鈍い光であった。
 絶句しているリクトに構わずレナはグルリと部屋全体を見渡し目を閉じた。
 リクトがフーッと溜息をもらす。
 レナがゆっくりと目を開き「「「すでに目から緑色の光は消えていた「「「棚の
一つに近付いて本を数冊取り出した。
「レナ。魔法を使う時は事前に言ってくれないか?心臓に悪い」
 髪をかきあげてレナに近付く。
「たいしたものよ」
 レナが、いま自分の読んでいた数冊の本をリクトの前に積み重ねた。
「魔法を使って、最も人が手にした本を探したのだけど「「「」
 リクトが一冊を手にとる表紙には<不死−07>と書いてあった。
「ここの魔術師、不老不死にかなり入れ込んでるわ。そしてかなりの実績を上げて
 るようよ。自分の肉体で」
                  *
 残念ながら鞭は出てこなかった。
 ダーシィと呼ばれた女が、かついでいた娘を慣れた手つきで他の娘と同じに天井
から逆さ吊りにする。それを確認するとマントの「「「たしかケスクと呼ばれてい
た人物が部屋の中央の金属桶に近付いた。そしてマントに手をかけて脱ぎ落とす。
「「「!?
 ダグは自分の眼を疑った。
「「「おんなぁ!?
 マントの下から現われたのは、そのしわがれた声からはとても想像できぬような
美貌溢れる女だったのだ。腰まではあると思われる光輝くような金髪に同色の瞳。
マントの下に羽織っていた薄い生地のローブから見透かすことのできる透き通るよ
うな肌。男ならば不能かホモでない限り生唾物の美女である。
 年はそう若くはない30に届くか届かないか。
 眼の前でいつのまにか入れ替わったのかとも思える声とのギャップ。
 ダグは岩にかじりつきジーッとケスクに視線をロックした。
 次にケスクは薄地のローブをも脱ぎ捨てた。
 熟しきった官能あふれる肌がさらしだされる。
「「「ちっくしょう...
 ダグは現在の状況をつくづく呪った。
 ケスクはローブを脱ぎ捨てると足元にある金属桶に身体を横たわらさせた。
 身体を伸ばすと背中の所に傾斜がきて楽な姿勢になるように設計されてるらしい。
「「「...レナに似てるな
 フッとそんな感じが頭をかすめる。
 顔や身体が似ているというのではない。その人物が独特に漂わせる雰囲気という
もの。それが魔術師であるレナと通ずる点があるように感じられたのだ。
「ダーシィ始めろ」
 しわがれた声がその喉から発せられた。やはりマントの主はこのケスクという美
女であったのだ。
 ダーシィがケスクの命令に対して深々と一礼する。
 どこか儀式めいたものが感じられた。
 ダーシィは、まずケスクが入っている金属桶に手を置き力を込めて横へ押し始め
た。そしてズルズルと移動した金属桶が到達した地点は、逆さ吊りされた中でも最
も長く吊されていただろうと思われた娘の真下である。それからダーシィは部屋の
壁にスタスタと歩きそこに置いてあった一振りの剣を手にした。
「「「かなりの業物だなあの剣
 遠目から見ただけであるから詳しくは判らないが剣身をみれば二束三文の剣では
ないことくらいは確認できる。
 吊り下げられていた娘はピクリとも動いていない。顔色はすでに死人そのもので
ある。かろうじて息をしているということが判る程度である。ダーシィはその娘の
首筋にピタリと剣の刃をつけた。アッと言う暇もなく剣が横に動きスパッと首の皮
が切り開かれる、湧き出るように切り口からドクドクとドス黒い血が吹きだした。
「「「やけに黒い...洞窟が暗いせいか?
 ダーシィの手際の良さにボーッとみていたダグだが、眼の前の光景の異状さに気
付いた。娘(だったと言った方が的確な表現かもしれない)の首から吹き出す血が
やけに黒いのだ。はじめこそ洞窟が暗いせいだと思っていたのだが眼をこらせばド
ス黒いなんてものではなく墨汁のように漆黒でありネットリとした感じなのだ。
 吹き出したあとのその黒い血は下にいるケスクの身体にふりかかるケスクはそれ
を眼を閉じながら身体全体で浴びていた。
 やがて首から血が吹き出さなくなるとダーシィは再び金属桶に手を置いて隣の娘
の下へと移動させ同じように娘の首を剣で切り開く。前方から切り開かれた首は頭
の重さでガクンと開き皮膚を裂きながら後方へ倒れていく。パッカリと開いた切り
口からは先程の娘よりはやや赤みがかっているものの、たしかに黒い血が吹き出し
ておりケスクの全身を黒く染め続けていた。
                  *
「本の最後の方には具体的にくわしく書いてあるわ」
 レナは最も大きな番号のついた<不死>の本を手にとりページをめくる。
「かいつまむとこうね。
 『不老のために最も効果的な方法は清らかな乙女の血液を全身に浴びるのが一番
  である。数人の乙女を数日前から一日ずつずらして逆さにつるす。この際、通
  常の人間は数時間逆さに吊すと死んでしまうため(某・人物談)後に示す魔法
  をかけておくこと。そして最も長く吊した乙女の首をかき切り全身でその血を
  受ける。一人が終わったら長く吊した順に全員の血を浴びてゆき最後に吊した
  ばかりの(2時間以下)乙女の血を浴びる』
 ...たしかに昔から清らかな乙女の血を浴びれば若返るとはいわれてるけど」
 レナは本をパタンと閉じた。
                        (RNS.#1)<つづく>




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