AWC  キヨシの町     作:Saito


        
#1636/1850 CFM「空中分解」
★タイトル (CSJ     )  89/ 6/10  21:31  ( 73)
 キヨシの町     作:Saito
★内容
**************** 注意 *******************
* この物語は全てフィクションであり、実在する個人、団体、事件とは全く関係 *
* がありません。                             *
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 かーん。 かーん。 かーん。 かーん。 かーん。 かーん。 かーん。

 遠くで工事の音がする。この鮮やかな夕焼けの町をキヨシは歩いていた。
 キヨシの町は、「ふとどん教」を町全体で崇高する、いわば「宗教都市」だった。

  神奈川県の片田舎にあるぼくの町「没豚町」は小さいながらもこの所、町全体に活
 気があふれてた。まだラッシュ前の普段なら人通りの少ない時間滞なのに人々はまる
 でうじ虫のようにうじゃうじゃとたむろしていた。
  と、いうのも来月は5年に1度の「ふとどん教祭」だからだ。大人達はみんなで毎
 日毎日教祖様に高いお金を出して「めでたい、めでたい。」と騒いでいた。
  ぼくは生まれた時からずっとずっと12年間この町に住んでいた。だから、この町
 の人達がどんなに信心深いか知っていた。そして、どんなにおかしいかを....。
 3年前、子供達にとってもやさしくてよくお菓子とかをくれた、ハラダさんという人
 がいた。ハラダさんはお菓子の他にも一緒に遊んだりしてくれたから、撲や撲の友達の タカオや、マサシ・ケンちゃん・ヒロ・ミツオも、仲の悪いオサムやアキラもみんな
 ハラダさんが大好きだった。だけども、ハラダさんは、
 「ふとどん教の教祖は何も知らない人々から高いお金をまきあげてる!」
とか、
 「ふとどん教のくそ坊主は、脱税するだけのために坊主になった。」
 とかいう事を町の人達に言いふらしたら、ある朝、人通りの少ない裏路地でぼこぼこ
 に殴られて意識不明で見つかった。ある人が病院に運んで行ってあげたら、今度はそ
 の人の家が火事になった。結局、ハラダさんを殴った犯人は見つからなかったけど犯
 人が誰なのかは、みんな知っている。知ってるけど誰も言わない。言えないんだ。
  でも、こんな事はよくある事だ。よくあるのに犯人は見つからない。事件が噂に
 すらならない。
  また、こんな事をお父さんの弟のジロウおじさんから聞いた事がある。
 「僕のお父さん、清ちゃんのおじいさんはね、すごく『ふとどん教』の神
  様を崇高、つまり崇めていたんだ。だけども、おじいちゃんは今の明治
  3年にできた『ふとどん教』が腐りきっているから新しい『ふとどん教』
  を創ろうとしたんだ。そしたらおじいさんはね、『没豚川』で、溺れて死
  んでいたんだ。その時はおじいさんといってもまだ40歳、それにおじい
  さんは、若い頃水軍の兵隊さんだったから泳ぐのは得意だったんだ。
  誰に殺されたかって?それはな...」
 その時、お父さんが凄くおっかない顔で
 「次郎! そんな話をするな!」
 って、叫んだんだ。お父さんのあのおっかない顔は今でもはっきりと覚えている。
  なぜこの町の人達「「「ぼくの両親も含めて「「「は、「ふとどん教」にそんな
 にまでこだわるんだろう。
  何かこの町の人達って何か変だ。何かが違う。何かおかしい。何かが狂ってる。そ
 うゆうのを考える事もしょっちゅうある。ぼくでなくても思うはずだ。
  だから、ぼくは早く大人になってこの町から出たい。
  この狂った町、変な町、奇妙な町、おかしい町から出たい。

 かーん。 かーん。 かーん。 かーん。 かーん。 かーん。 かーん。
 工事の音がまだ続いている。人々は相変わらずうじゃうじゃうじ虫の様にたくさんた
 むろってる。その中でキヨシは帰宅していた。とぼとぼと。
 そして、1ヶ月後、「ふぶとん教祭」が行なわれた。キヨシの学校は、出し物として
 生徒の書いた作文を展示した。どんな事でも自由に書いていい 、とのことで..
               「「「「「「「「「「「「「「

  どうしてなんだ。どうしてみんなでぼくの事をいじめるんだ。
 何を書いてもいい、と言ったからハラダさんの事、おじいさんのこと、この町の事、
 ...そして、ぼくがこの町から早く出たい事、を書いたのに.....。
  どうして、どうしてなんだ。何でぼくの事を『みんな』でいじめるんだ。
  近頃は、誰かにつけられている気がする。
  お父さんとお母さんに助けてもらおうとしても、助けるどころかお父さんもお母さ
 んもぼくが来ると、話をピタリとやめる。それで、妙によそよそしい。
  何で? どうして? どうしてなんだ!
  タカオ! ヒロシ! マサシ! ケンイチ! ミツオ! オサム! アキラ!
  何でそんな目でぼくを見るんだ!
  何で『みんな』でそんな目で見るんだ!
  どうして......。


                「「「 完 「「「

       present by SAITO (CSJ85143)




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