#1599/1850 CFM「空中分解」
★タイトル (FQF ) 89/ 6/ 3 8:31 ( 55)
思い出にラヘ゛ンタ゛ーのリホ゛ンかけて 三才野
★内容
思い出にラベンダーのリボンをかけて 三才野菜
線があたしを包む。どんどん早くなる動悸をなんとかなだめつつ、
精一杯の笑顔を作って平気な振りをし、声を出す。
「始めまして。短い間ですが皆さんと一緒に勉強したいと思います。よろしく。」
一歩前に出て愛想をふりまいて、また下がる。
…はぁ。たったこれだけの事に何だってこんなに緊張するんだろう。
気付くと指の先が冷たくじっとりと汗をかいていて、改めて自分の緊張を自覚する
。大丈夫、なんとかなるって。
あたし、某大学教育学部四回生の今西美喜。今日から母校の付属中学での教育実習
なのだ。あたしの担当は英語。同じ時期に教育実習に来ているのは六人で、うち英語
はあたしともう一人。
このもう一人が問題なんだけど。最初顔を見たときはげっ、てなったわよ。まさか
まさかこんな状態で再会しようとは夢にも思わなかった。それどころかどんな状態で
あれ二度と顔を会わさずにすむものならばそうしたいと願ってやまないわよ。
名前は高田正治。まさはる、と読む。ふん、星座から誕生日から血液型まできっち
り覚えてるわよ。ふんふんふん、だ。
なによっ、中学の時は英語なんかまるっきしできなかったじゃないのっ!なんで英
語の教生なんかになってんのよっ。
…思い出したくない過去がどどっと押し寄せてくる。妙な甘酸っぱさと奇妙な気恥
ずかしさと、圧倒的な苦い思いを伴って。
中学二、三年とずっとあたしはこいつが…その…好き、だった。中坊の一途さで。
あんなに純粋な気持ちはもう二度と抱けない、誰でも一つは持ってるそんな気持ち
だった。でもそれは心の奥底に綺麗にリボンかけてしまっておくべきもので…。
そうよ、再会なんかするものじゃないのよ。
ちぇっ。
結局うまくいかなかった恋なんて、忘れてしまうにこしたことはないのに。
その思い出が今、現実となって何故かあたしの隣で育って立っていたりするのだ。
なんだか先行きに暗いものを感じてしまうわ。
「…じゃ、一度読みますから聴いていて下さいね。」
教科書片手にゆっくり教室を廻りながら一度本文を読み上げる。ああ、あたし発音
悪いのよねぇ。こんな発音で本当に大丈夫なのかしら。あとで何か言われそうな気が
する。「そこ、おしゃべりしてないでちゃんと聴いて。」
ちゃんと聴いてったって無理なのは判ってんだけどね。
教室の後ろには本来の英語の先生がいて見張ってるし。
しっかしこのおっさんも得体の知れない所があるなあ。何処を直せとかここが悪い
とかさっぱり言ってくんないから、やりにくいったら。
元来何の計画も立ててなかった身としては、ああしろこうしろ言ってくれた方がや
りやすいんだけど。反省会でも「まぁ、あんなもんかな。」とか言いながら不満があ
るのは見え見えだし。
と、後ろのドアがそっと開いて(つっても生徒は完全に気付いてたけど)誰か入っ
て来た。何か伝言かな、と思っていたらそのまま居座るらしい。
校長とかだとまずいので、なるべく気付かれないように教科書の影からそっと覗く
。 と。げげ、あいつ。高田正治。
ちょっとぉ。やめてよお!