#1583/1850 CFM「空中分解」
★タイトル (UMC ) 89/ 5/31 23: 8 ( 61)
皆の写真 (夢の島)
★内容
一 一枚の古ぼけた大きな葬式の写真だ。
ある遺族達の素晴らしい写真だ。
ものすごく心を打つ、真実の写真だ。
だけど本当に悲しい辛い写真だ。
とてもやりきれない恨みの写真だ。
やり場のない憤りの写真だ。
写真は生き生きと、私達の心に訴える。
写真は泣いている。 皆のために泣いている。
二 父の遺影を胸に、幼い女の子が激しく泣いている。
二人の妹は母を挾んで、顔も隠さず泣いている。
真中で母親が崩れか って、ハンカチで涙を拭っている。
おばあさんが孫達を見ながら、手放しで泣いている。
おじいさんは下目づかいに、家族を見て涙を堪えている。
看護婦さんも後ろで、一緒に泣いている。
他の男達は涙を溜めて、じっと遺影を見詰めている。
写真は泣いている。 皆のために泣いている。
私の心も泣いている。
三五年前の第五福竜丸、船長の家族の写真だ。
三 みんな身も溶けそうに、涙で顔が光っている。
みんなの涙顔の奥に、恨みが吹き出している。
子供の顔は、悲しみと怨めしさで満ちている。
祖母にも、祖父の顔にも、憤りが満ちている。
母は中心を失い、愛を失って顔を覆うばかり。
みんな怒りに震え、涙にせかれ、心の底から恨んでいる。
写真は原爆を恨んでいる。 皆のために恨んでいる。
四 幼い子供は原爆という言葉が、父を奪った悲しさを泣く。
原爆が何か、何を本当に恨めばいいかを知らずに泣く。
けれどその顔には、心の底から純粋な恨みが溢れている。
母の顔は、嘆き、悲しみ、そのものだ。
母は言った。こんな辛さは、もう私一人でたくさん、と。
母のつとめは、何よりも平和を育てることだと。
父の船長は、人を殺すこんな兵器は、絶対許せない、と。
この世から無くさなければならない。と叫んで死んだ。
皆の顔も世を噴り、その空しさを感じつ 恨んでいる。
対象の大きさに、強さに、どうしようもない力に向かって。
写真はもっと多くの悲劇を訴えている。皆のために訴えている。
五 大きな 世の流れに、それも飲み込まれてしまったようだ。
誰も忘れはしないが、もう思い出そうともしない。
相変わらず大国の思惑は変わらず、原爆の実験も続いている。
恐ろしい、ショッキングな、馬鹿げたニュ−スが続々と押し流す。
けれど悲観してはならない。平和は育てなければ育たない。
写真から訴えかけられた人が、枯れないよう一滴を注ぐのだ。
自分の出来ることを、どんな小さなことでもやればよい。
やれば何かが起こる。希望に繋がる何かが生き続けていく。
写真は決して無くならない。
皆のために無くせない。
完
ID:62826 野水 淳