#1156/1850 CFM「空中分解」
★タイトル (LAG ) 88/ 9/19 21:25 (100)
『Z−NETは秋の空』(13)旅烏
★内容
「所長んとこにお嫁に行くくらいなら、アミダでお婿さん決めますっ!
どうせ私はもうすぐ24歳の、嫁にも行けない売れ残りですわよっ!!」
冬野所長はアセった...飛んでくる灰皿やボールペンを避けながら...
「いや、あの..悪かった..タマちゃんほど可愛い娘なら、引く手あまただろうけど
万一の保険のつもりで言っただけなんだ..悪気はないからカンベンしてくれっ!」
玉井和子は投げつけようとした花瓶を「そんな、引く手あまただなんて..」と
戸惑った様子で机に置いた...いつの世でも女性を手なづけるのは、ほめるに限る
ようだ。
冬野所長はポケットからくしゃくしゃのハンカチを取り出して冷汗を拭きながら...
「今日の夜7時頃に来客があるからちょっと残ってて欲しいんだけど」
「残業ですかぁ...今月分のお給料は全額貰えるんでしょうね?
まだ予算の半分くらいしか入金が有りませんよ?」
と玉井和子は不服そうな顔。
「任せといて貰おうじゃないか、今月はキッチリ支払うぞ」
自信たっぷりに胸を叩いている冬野所長を疑わしそうに見ていた...
それから冬野所長は、珍しく真剣な表情で職業別電話番号帳を見ながらメモを取って
いたが、急に立ち上がると「1時間ほど出かけてくるから」と言い残して出て行った。
残されたタマちゃんは、厚い帳簿を開いて数字を記入しながら「赤いインクが、すぐ
なくなっちゃうわ..所長にも困ったものねぇ..」と赤字続きをコボしながら不思議
な笑顔を見せている...
その日の夜7時を過ぎると、杉浦巡査と妹の美紀、浅野雪子、浦野警部、一時的に釈放
された飯野代議士と北野芳英など、この事件の関係者が冬野探偵事務所に集まった。
「ふん、忙しいのにこんなところに呼び出しやがって、おい杉浦巡査っ!犯人がわから
なかったらお前は謹慎処分だからな..」
無理やり杉浦巡査に引っ張り出された浦野警部は不機嫌である..まぁ、折角逮捕した
飯野代議士と北野芳英が証拠不十分で、仮釈放された事も原因ではある。
玉井和子もお茶を入れながら洗い場で...
「本当に、所長ったらどこにいっちゃったんだろ?
手当も出さずに残業させるなんて酷すぎるわよね...」
夜7時を10分過ぎているが、冬野所長はまだ帰らない...
気まずい雰囲気の中で玉井和子がお盆にのせたお茶を丁度配り終わった時、ドアが勢い
良く開いて冬野所長がトボけた顔を覗かせた。
「やぁ、皆さんお揃いで」
「探偵屋、この茶番はなんだ!
いい加減な事を言やがったら留置場にブチ込んでやるぞっ!」
額に青筋を立てているのは浦野警部だ...
「これはまた、浦野警部じゃないすか?汚いところへようこそ」
冬野所長はニヤニヤしながら自分の椅子に座った。
「所長、皆さんお待ちかねですよ..どこほっつき歩いてたんですか?」
「あの..タマちゃん、ほっつき歩くはないだろう...調査してたんだから...
熱いお茶でも入れたらどうかね?
どうもすみません、本当にうちの事務員は気が利かなくて...
紅茶とケーキくらい用意すりゃいいのに」
というのは外交辞令で、金庫の中をひっかきまわしてもそんなお金が出て来る筈は
無かった。
冬野所長の机の上にドンと乱暴にお茶を置いた玉井和子は恐い目でにらんだ...
「所長!私は安い月給でこんな時間まで残業してるんですよっ!」
冬野所長は玉井和子の剣幕に狼狽した。
「タ、タマちゃん月給の話はまた後で相談しようじゃないか..
お客さんも居る事だし..ね」
プンプン怒っている玉井和子を宥めると、咳払いをしてから冬野所長は本題に入った。
それは探偵仲間にZEEK(ゼロ戦)と呼ばれる敏腕探偵の姿で、いつものグータラな
冬野所長ではない。
「この事件は、密室殺人という特異な状況で起こったもので、殺人の方法も不明という
謎の多い事件ですが、殺害方法は警察で判明したのですか?」
「それが分からんから苦労しとるんだ」と浦野警部の渋い顔...
「犯人の目星はついたんで?」
「そこの二人のうちどっちかがホシだろうが、決め手が無いんでここにこうして
居られる訳だ...でなけりゃどっちかが留置場で泣いてるさ」
傍らの飯野代議士と北野芳英のほうをアゴでしゃくった..
「き、貴様..まだ俺を犯人扱いするのかっ!許さんぞ!」
飯野代議士が真っ赤になって叫んだ。
「まあまあ、それなら私がこれから謎を解いていきますから、警部は手錠でも用意し
といて下さい」