AWC 夏休み>【ナウシカのように】(前編) コスモパンダ


        
#1111/1850 CFM「空中分解」
★タイトル (XMF     )  88/ 8/12   8:50  ( 79)
夏休み>【ナウシカのように】(前編) コスモパンダ
★内容
【ナウシカのように】(前編)     コスモパンダ
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☆                                    ☆
☆         1985年8月12日 午後6時58分         ☆
☆             この時を忘れぬために、            ☆
☆          我が妹と519名の御霊のために、          ☆
☆        今なお傷ついたまま残された者達のために、        ☆
☆                                    ☆
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 男は無口だった。当然である。男には、話し相手がいない。
 その夜、久々の嵐だった。
 くたびれた鎧戸の止め金が外れ、バタンバタンという音をたてている。ミシミシと
いう不気味な呻き、ギーギーという鳴き声が、壁や屋根、床からも聞こえる。
 小屋の度真ん中の床に、大きなイモムシのような寝袋が転がっている。中には、ぼ
さぼさの髪の毛、顔中を髭に覆われた蛮族のような男が入っていた。
 電灯はとうの昔に消えていた。電線が切れたのだろう。
 小屋の中は真っ暗だった。
 しかし、男は気にしなかった。することも特にない。せいぜい恨みの手紙を掻き綴
るぐらいしか仕事はないのだ。
 こんな夜は何もしないで、寝袋の中でうずくまっているに限る。
 真っ暗な中で只独りいると、いろんなことが走馬燈のように通り過ぎていく。
                ★ ★ ★
 ギーギーと音を立てて廻る風車、真っ暗な谷間に迫る巨大飛行機。
 飛行機の夥しい数の窓からは、無数の光が溢れていた。まるで、町が落ちてくるよ
うな、そんな光景だった。
 随分と昔に見たアニメ映画の一シーンだ。
 1000年後の世界を描いた作品だった。風の谷の少女の、冒険と波瀾に満ちた青
春のエピソードを綴った作品だった。
 感動的な作品だった。あの鮮烈なイメージは今でもはっきりと覚えている。
 男はいい歳をして、そんな古いアニメのことを思い出している自分が、可笑しかっ
た。寝袋の中でニヤリと笑ったが、また笑いが込み上げてくる。
                ★ ★ ★
 もう、何回、この山に登っただろう。百回? いや二百回かもしれない。
 回数など、既にどうでもよくなっていた。
 あの夏の日、男はすぐにでも、山に登りたかった。
 しかし、年老いた両親を残し、自分一人だけで行動することはできなかった。
 その年、何度か登ろうとしたが、台風に襲われたり、天候不順でどうにも登山でき
ずに、麓で泣く泣く帰った思い出がある。
 不思議に悪天候にたたられ、結局、初登山に成功したのは、あの時から一年以上も
経った時だった。
 それからである。男が山に登り出したのは。
 執念に近いものに突き動かされて、男は何度も何度も頂上を目指した。
 リュックに、彼女が好きだった歌手のカセットテープや、本、その他を詰め。両手
で抱えなければならない程の花束を、リュックの口に差し込んで、登山した。
 登頂すると、男は一目散で彼女の終焉の地へと向かう。
 途中、数多くの墓石、地蔵、そとうばを見る。
 だが、それらは長年の間に、木は朽ち、石は削られ、倒れているものが多い。
 終焉の地−−−そこは恐ろしく立木の多い斜面で、草が斜面の蕾や崩れた跡を隠し
ていた。うっかりすると、足を滑らせて、明日の朝刊を賑やかにすることになる。
 真っ直ぐに立っていられない斜面に、男は線香を立てた。
 プーンと、線香の香りが当たりに広がる。
 線香の両脇に花束。ユリと霞み草が多い。
 そして、線香の前にはカセットテープと本を置く。
 準備が整うと、男はその前にひざまずき、ただ泣くだけだった。
 雲を突くような大男が、鬼瓦のような顔を涙でぐしゃぐしゃにしている様は、なん
とも滑稽でもあり、その姿は鬼気迫るものがあった。
 最初の内は、マスコミも面白がって彼を追い回した。が、やがて、寡黙な男の性格
にうんざりしたのか、一人二人と、男の前からマスコミの連中は消えていった。
                ★ ★ ★
 男は年に何回か登った。
 特に8月12日の夕方には必ず頂上にいた。
 夜7時前になると、大勢の人々が頂上に押し掛けていた。
 すすり泣きが聞こえる中、いろんな連中が鎮魂歌がわりの下手な歌を歌った。
 男も何度か、その下手な歌の仲間になっていた。
 その時間になると、人々は小さなペンライトを灯す。
 520本のペンライト、その一つ一つが御霊の命、声、心。
 虚空を見上げ、山裾を縫うようによたよたと飛ぶ、羽のもげた機械鳥の姿を見よう
とした。
 むろん、そんなものが見える筈もない。
 しかし、男には、見えるような気がしてならないのだ。
 あのアニメの映画のように、無数の光輝く窓を持つ巨大な機械鳥が、山頂に立つ自
分の方に向かって来るように見えたのだ。
 来る年も来る年も、夏の8月12日の夕方には、男は山頂にいた。
 年を経るごとに、「その時」に山頂にいる人の数は減っていった。
 しかし、男の目には次第にはっきりと機械鳥が見えるようになっていた。

−−−−−−−−−−−(TO BE CONCLUDED)−−−−−−−−−−
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