#492/1850 CFM「空中分解」
★タイトル (XKG ) 87/11/14 1:52 ( 71)
ホラー>「魂は永久に」 クエスト
★内容
私は風呂に入って、つくづくと自分の体を眺めた。
皺だらけ。あちこちにシミもある。
はっきり言ってくたびれている。
私はぽつねんと一人ごちた。
「そろそろ捨てようか...」
翌日、私は前から目ぼしをつけていた若者を探しに街に出た。
いたいた。
相変わらずひょろひょろと、俯きかげんに歩いている。
まったく若くて何でもできるというのに仕方のない男だ。
私は後をつけて、彼が何ともこぎたないアパートに入っていくのを見届けた。
これでよし。
その夜、私は秘伝の魔薬を飲んで、眠りについた。
案の定、夢の中で私は自分の体から抜けだして、窓から夜の空へと彷徨い始めた。
もちろん、行き先はあの若者のアパートである。
若者は実にむさ苦しい散らかり放題、無気力丸だしの部屋でだらしなく眠りほうけて
いた。
私はすっと若者の心に忍びこんだ。
「ううーん。うわっ。なんだ、あんたは誰だ」
私は有無を言わさず彼の心をねじ伏せる。
「やっ、やめてくれ。助けてくれーーーーー」
悪夢。そう、正しく悪夢だ。
もうすぐ彼は死ぬのだから...
「うわーーーーーーー!」
ひと仕事が終わった。
彼の心は肉体から叩き出されて夜空をワープして、もとの私の身体、ぽんこつになった
老人の身体に吸い込まれていった。
もうじき、あの魔薬が老いぼれた肉体を永遠に安らがせることだろう。
チチチ...
朝だ。
薄よごれた窓から朝日がさしこんでいる。
私は心地よい目覚め、久々の健康な目覚めを覚えた。
「うーーーん」
伸びをする。
「やはり若い身体はいいもんだ」
私は顔を洗い、新聞を取りに行った。
「岡野氏急逝」の記事が目に入る。
「日本でも有数の実業家、岡野 真氏は昨夜半、心筋拘束のため急逝しました。享年8
7才....」
昨日までの私は死んだ。
気の毒な若者の魂と共に...
私は朝御飯を済ませるとすぐ、部屋を片づけ始めた。
「さあ、またいっちょう稼ぐことにするか。そしてまた快適な生活を手に入れて、好き
なことをして暮らすのだ」
「あんなひ弱な魂にこの素晴らしい肉体を無駄に使わせておくのはもったいない」
私はすぐにのし上がるだろう。
そして、この若い肉体がまた古くなってきた時には、また誰か無気力な若者に乗りうつ
って...
あなたの友達で、急に賢くなったり、しっかりしてきた人はいませんか。
もし、そういう友達がいたら、きっとそれは私達、永遠に魂を地上につなきとめる秘密
を知っている一族の誰かが掏り変わっているのです。
そして、もしあなたが私達に狙われるのがいやだったら、元気に溌剌と生きることで
す。
だって、あなた達は何でもできるし、何にでもなれるのですから。
簡単なことなのですよ。
数千年もこうして生きてきた私達から見れば。
それでは、もうこれ以上私達の秘密を書くのはよしましょう。
これはただのホラーなのです。
決して信じたりしてはいけません。
FIN