#470/1850 CFM「空中分解」
★タイトル (HRJ ) 87/11/ 9 16:21 ( 55)
「fresh voice」 ウィングマン
★内容
どうもこんばんは。
例によって、僕、美森禎夫です。
えっと…あれからいくみさんとは、写真がきっかけで、学校で話をするくらい
まで発展したんだけど、残念ながらクラス替え。しかも5つか6つくらい教室が
離れてしまって…最悪、なのだ。
しかし、学年が変って、移り気な僕はまた、ある女の子に目をつけた。名前は
美波(みわ)さん。もちろん顔とかしぐさとかはかわいいんだけど、美波さんの
特徴は、その「声」なんだよね。
ギャーギャーピーピー騒ぐ、そのへんの女の子たちの声とちがって、キンキラ
声じゃないのにツ〜ンと通った声で、ソプラノすぎないでほどよいトーンで、そ
れでいて、やわらかな声でもの静かに話す。非常に魅力的。
例によって僕は、「電話しよう!」と思い、帰り道、公衆電話から何か話をし
ようとTELしたんだけど…。
プルルルルッ。
「もしもし。」
「も、もしもし…」うっ、声を聞いたとたん、何かが来た。あがっちゃった…
。
「…み、美森ですけど」
「…ああ、同じクラスの。何か用?」
「ああ、あの、…でっでっ、電話番号を教えてもらおうと…」
「…今、電話してるんじゃ…ない?」
「…あ、ああ、そうか。ちがった…住所だっ。そうだ、住所、住所。」
「聞いてどうするの?」
「…う、うん、年賀状出すのにさ、困るじゃない。」
「…名簿ないの?」
「…なくしたんだ。」
「…年賀状…ねえ。(まだ5月なのに…。)まあ、じゃ言うわよ。」
「うん。…〇×△町の…うん。15の……13。いやっ、どうもありがと。」
「うん…じゃ、バイバイ……」
…はああっ。疲れたあ。結局、住所聞いただけか…。ま、しょうがない。手紙
を出すことにしよ。
まあ、交換日記とはちょいと趣がちがうけど、このようにして、彼女との手紙
のやりとりが続いた。大体、1ヶ月に1〜2通のペース。いや、もっと多かった
かな?
こんなこともあって、学校では誰よりも先に微笑んでくれたけど、な〜んとな
く寂しいんだよね。あまり声をかけてくれなくて。でも、近くに来てしゃべる声
を聞くだけで、うっとり。気が休まるなぁ。いつまでも一緒にいたい…。
こう思ったとたんに、おおよそつきまとう事柄ではあるけれど…。
美波さんは転校することになった。
いろいろ事情はあるのだが、もしかしたら戻ってこれるかもしれないと言う。
しかし、僕の今迄の片思いの相手って、まず転校して帰って来たためしがない。
みんなそろって裏切ってんだ。皆んなそろっていじめているんだ…そう思ってた
。
今も、同じ心境。もうあの声が聞こえないと思うと…。また人工金属音の中で
過すなんていやだ。騒音の中の一輪の花が枯れてゆくような、種が飛んでいって
しまうような…そんな気分、です。
「あははっ、その電話、そうだったわよね。」
この僕の手紙を彼女は、遠方の電話の向こうから、いつもの声でそう言った…。
<終>