AWC 「わ・か・れ・が・・・」             COLOR


        
#455/1850 CFM「空中分解」
★タイトル (BMD     )  87/11/ 2  22:51  (108)
「わ・か・れ・が・・・」             COLOR
★内容

「フレッシュボイス」にしつこく書いた通り、この作品で20本目のUPになります。
それを記念?し、反省しつつもこれを書きたいと思います。

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 「ん、うるさいなぁ・・・」
 僕は布団から手を出して時計を止める。
目覚ましなんかセットした覚えなんかないのに・・・
とブツブツ誰も聞いていない文句を言いながら。
 「・・・」
どうやら泣き寝入りしたらしい。中学3年にもなって泣き寝入りはみっともないかな?
 でも泣けない人よりどれだけましだろう。それに僕には泣く理由があるのだから。


 僕が中学2年になったとき、彼女は出席簿順のために僕の隣の席に座った。
そのときには「可愛い娘だな」と思っただけだった。そう彼女は「綺麗」「素敵」「美
人」などという言葉よりも「可愛い」という言葉がピッタリあう、そんな娘だった。
 でも僕は彼女と話す事は少なかった。ほとんど話さなかったといってもいいだろう。
教科書の見せ合いの時なども「スッ」と黙って机の間に置く、そんな感じだった。

 僕は嫌われているのか・・・
そんな気持ちで過ごした毎日、彼女の一喜一憂にどぎまぎして過ごした2学期。
 そうして季節はいつのまにか春を迎えていた。幸い僕の学校は2年から3年はクラス
変えがない。彼女ともう1年いられる。それで僕は満足だった。そう僕はそれで満足だ
ったのに・・・

 そう、いつしか僕の耳には彼女が遠い街に転校してしまう、そんな噂が入るようにな
ってきたのだ。そして噂は次第に形になって現われてきた。「本当なの?」そう聞けな
い筈はないのに何故かそれが聞けない。
 僕は何を怖れているのか?何を否定しているのか?

考えたくもない。
         考えたくもない。
                 考えたくもない。
                         考えたくもない。

 そう、考えたくもない事なのに、つい考えてしまう。そしてやっと気付いた。僕は彼
女の事が好きなんだ、という単純で複雑な想いを。

 初恋という言葉がどんな意味を持つのかはわからない。本当の初恋を知っている人に
比べたら、僕のは初恋とは言わないのかもしれない。でも僕にとってはそんなのは関係
ない。誰が何と言おうと僕が彼女を好きなのは確かな・・・はずだから。

 そして彼女の口から遂に『転校』という言葉が出てしまったのだ。


 いつの間に寝てしまったのだろう。勇気のない憶病者の自分が情けなくて僕は泣いて
しまった。彼女が遠くまで行ってしまうのが悲しくて僕は嘆いていた。
全てがまっ白になったんだ。全てが嘘になってしまったんだ。全てが・・・

 勇気のない僕は彼女に言わなければ後悔するとわかっているのに、それが出来ない。
「好きです」という言葉がどうしても言えなかった。もし「嫌い」という言葉が彼女の
口から出て来たら僕はどうなってしまうのだろう。それを考えるのがとても怖かった。
やはり僕は憶病者らしい。

 それは突然だった。彼女は教壇に連れられ別れの挨拶を始めた。一言一言耳に残して
いたい言葉、しかし僕の耳にはなんの言葉も入っては来なかった。

 授業が始まる。無意味な先生の単語が流れてくる。耳には何一つ残らない。ただ涙が
出そうになって・・・僕はそれを懸命にこらえていた。彼女は何も感じてないのか黒板
に書いてある事をノートにとっている。

 もうだめだ、このままではどうにかなってしまう。もう耐えられない。限界に来てい
るんだ。僕は遂に彼女に告白する決心をした。
 どう告白したらいいのか? 本人に直接言える位なら最初からやっている。言えない
からこそこんなに悩んでいるんだ。
 そして僕はノートの切れ端に精一杯の心を積めて書き込み、彼女の机に「スッ」と置
いた。『後悔』とだけ書かれた紙を・・・

 その一言に僕の途方もない決心と限りない勇気が込められているのを彼女は知ってい
るだろうか? 彼女の顔をまともに見れなくなってしまったので彼女の反応はわからな
い。結局、僕はその日ずっとうつむいたままでいた。そして返事を貰う事が出来ないま
ま彼女は遠くの街へ行ってしまった。

 そして味気ない日々が続いた。そんなある日、家のポストに差出人不明の封筒が入っ
ていた。宛名は僕になっている。見覚えのある字・・・彼女だ! 彼女に違いない!
 僕は踏み外しそうになりながら階段を駆けあがる。
 心臓が激しく叩いている。
 僕は焦りながらそして慎重に封を開けた。
 中には手紙が入っている。そして震える手で手紙を取り出すとゆっくりゆっくりと読
み始めた。


「私は『後悔』という言葉が好きではありません。後悔という言葉は全て
 が終わった時に使う言葉だからです。まだ何も終わっていないうちに後
 悔をする事はないでしょ?だってまだ何も始まっていないのに。夏休み
 にそちらへ行きます。そこからのスタートを私は待っています。   」

「・・・・・」
僕には言葉が出なかった。

 そして無意味な日々は終りを告げ再びた。毎日が再び意味を持ち始めたのだ。意味を
持つということは同時に喜怒哀楽も生まれてくるという事だ。
 だから落ち込むときもあった。でも僕は落ち込んでなんかいられない。元気な姿で君
を迎えたいから。そう考えれば・・・

 それでも寂しいときには・・・僕は線路を見つめる。
 僕と君を遠ざけてしまった線路だけれど、この線路は君のいる街に続いている。そう
思うだけで僕の気持ちはとてもあたたかくなるのさ。

 また君がこの線路を通って僕に近付く日が来ると信じているから。

     < お・り・り >

                        1987/11/2 COLOR
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 最近、この手の物を書いていなかったので、心配です。
 皆様の御感想を心よりお待ちしております。




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