AWC 無題(1) アンゴラ


        
#269/1850 CFM「空中分解」
★タイトル (QDA     )  87/ 8/24  14:51  ( 71)
無題(1)                             アンゴラ
★内容
 「「その日は朝から雨で、僕は宿屋にもう1日泊まることを余儀なくされた。
大粒の雨が、黄金色(きんいろ)の小麦に激しくぶつかる。その光景を見ながら、
僕は剣の手入れをしていた。
「。「お客さん。」
 ふと後ろから声をかけられ、僕はドキッとして振り向いた。背後に、温和な
顔つきの、小柄で腰が曲がった老人・・・すなわち、宿屋の主人が立っていた。
「なんだ、親父さんか。なんか用でも?」
 主人は、にこやかに笑って答えた。
「お客さん、今日中にここの国境を越える予定だったのでしょう?」
「ああ。」
  僕は、質問の意図がわからずに曖昧に答えた。
「実はですね、今、下の食堂のお客さんに国境を越えるって方が休んで
 いらっしゃるんですよ。そのお客さん、ちょうどいい”乗り物”に乗って
 ここにいらしたんです。それなら、この雨でも平気で国境を越えられると
 思うので、一緒に連れて行って頂いたらどうです?」
「ほ、本当かい!?」
 思わず、声のトーンが一オクターブくらい上がる。
「で、そ、その人はどういう人だい?話をつけたいんだ。」
 主人は、僕の興奮した声と対照的に、落ち着いた声で答えた。
「すぐわかりますよ。下にいるお客さんは、あの方だけですから。」

 僕は、何度もころびそうになりながら階段をかけおりた。
階段をおりると、すぐ食堂だ。ここの食堂は宿屋に見合ったこじんまりした
ものだが、質素で実用的だった。
 パチッ。暖炉の薪がはぜて、音が立てた。僕は、ランプの光が届かない暗い
食堂の隅に人影を認めた。
 おずおずと近付いて、声をかける。
「あの・・・」
「誰だ、おまえは!?」
 その人は、僕が声をかけた瞬間に振り向いて立ち上がり、腰にさしてある剣に
手をかけた。
「あ、あ、怪しいもんじゃないんだ。ぼ、ぼ、ぼ、ぼ、僕はただ・・・」
 そいつは、僕のおびえ方からして、敵でないと悟ったらしい。剣から手を
離した。
「オレになんか用か?」
 僕は、そいつの姿がやっとよく見えるようになった。宿屋の主人が、気を
利かせてランプをもってきてくれたのだ。
 「「なんていうのか、美少年だった。男の僕が見てもゾクゾクするような・・・。
長い金髪は腰の辺りで無造作に束ねられていた。瞳はエメラルドグリーンで、
刺すような鋭い目で僕を見る。背は割と低く、僕の首の辺りまで。全体的に
ほっそりしてて、まさに美少年!!僕は彼を見ながら、「酔って理性を
なくしたらどうしよう?」と考え込んでしまった。
「なにか用か、と聞いているんだ!!」
 声は透き通ったボーイソプラノ。。「おっと、そんなことを考えている暇は
ない。この短気な少年が怒って機嫌を損ねる前に、話をつけねば!!
「宿屋の主人にきいたんだ。君が、丁度いい”乗り物”に乗ってき・・・」
 ぴた。剣が、僕の頬に張り付く。
「オレのウィンクルのことを”乗り物”だと!?あいつは、立派なペガサスだ!」
 ドォォン。僕の心の中で、衝撃音が響く。「ペガサス」という言葉が、
僕の頭の中ではねまわっている。
「君は・・・ぺ、ペガサス・ライダーなのかい!?」
 ペガサス・ライダー。ペガサスに乗れるのは、ほんの一握りの勇者だけ。
大体、ペガサス自体、見かけることが少ないのだ。。「それにしても、この
少年はペガサスに乗れるほどの器量をもっているのだろうか?
「そうだ。」
 彼は、ブスッとしたまま答えた。
「ご、ごめん・・・」
 僕は、彼の機嫌を損ねるとまずいので、あわてて謝った。この少年は、短気で
気分屋らしい。
「僕の言い方がわるかったよ。謝るから、僕と国境を越えさせてくれないか?
 今日中に国境を越えたいんだ。」
 彼は、一瞬あっけにとられて僕をみた。が、それも束の間で、フッと笑って
僕に言った。
「おまえって・・・本当に変わったヤツだな。」
「エ?」
 僕は、彼に聞き返した。変わったヤツ?僕が?
「オレみたいのと同行したいなんて。命知らずというか・・・。気に入ったぜ。
 ついてきなよ、オレのウィンクルを見せてやる。」
 彼は、僕についてくるように促すと、土砂降りの中に飛び込んでいった。
 それにしても、不安だ。この少年、そんなに恐ろしい子なのだろうか?
                                             (つづく)




前のメッセージ 次のメッセージ 
「CFM「空中分解」」一覧 アンゴラの作品
修正・削除する         


オプション検索 利用者登録 アドレス・ハンドル変更
TOP PAGE