AWC リレーB>第5回  分岐点におちる怪し気な影


        
#230/1850 CFM「空中分解」
★タイトル (XAD     )  87/ 7/23   9:46  ( 97)
リレーB>第5回  分岐点におちる怪し気な影
★内容
 日本を発って早、1ヶ月。そう、あの山小屋を出て1週間が過ぎたのだ。1週間もたったのだから、さぞかし遠くへ、と思われたであろう。僕もそのつもりだったのだが、麓の村まで降りて来た所で足止めを喰ってしまったのだ。なんでも村の掟とやらで、よそ者がやって来たら、月が笠をかぶるまで誰一人として村を出てはいけないらしい。
 それよりも気の毒なのが、僕に郵便物を届に来た郵便屋さんだ。幹部候補組としてエリート入庁した彼は初任者研修での郵便配達でここに来てしまったそうだ。公務員の規律は厳しいらしい。「無断欠勤3日目か・・・昇級停止だ・・ブツブツ・・・」と泣いていた彼も、5日目には「エヘヘ・・・五日・・・懲戒免職・・ふひゃひゃ・・・・」と、どうやら一枚ばかり、天才に近付いたようだった。町へ帰ったカラモナさんに、村の掟を聞いて来れば良かったと、ひたすら後悔していたのが哀れだった。
 (カラモナさんは占いの後、僕の持ち金が少ない事を知り、サッサとババさんと山を降 りてしまったのだ。おかげで迷い迷ってこの村に来てしまった、と言うわけ。ババさん も、なにも僕の所持金まで占わなくてもいいじゃないか! )

 郵便は日本の家からだった。もし何かあれば知らせて貰えるようにと、家に連絡しておいて良かった。この村にいる事は、たぶんカラモナさんが郵便局に教えたのだろう。あの人も、薄情なのか人情家なのか判らぬ人だ。手紙の中には、家に来た僕宛ての手紙が入っていた。わざわざ日本から転送されて来た理由はすぐ判った。差し出し人が啓子だったのだ。日付はジャンボを見送った五日後−−。 送出地はなんとこの村だった!
 手紙の前半分は僕への謝罪文ばかりだった。が問題は後半にあった。僕の涙でグチュグチュになった手紙には、思わぬ手掛かりが書かれていたのだ。

【・・・この村で私は信じられない出来事にあったの。この村の ″偉大なる王者″と言う人に、この世のすべての場所に通じてる″鬼門の門″が有ると教えられたの。こんな事夢のないあなたには信じられないでしょうね。でも、心に念じて飛び込めば、思った所に行けるんですって。明日、″ババ・チビル″って人が来て門を開けてくれるの。本当の話か、ただの穴か判らないけど私はこれに掛けます。あの人を心に念じて飛び込みます。死んじゃうかもしんないけど、これを境にあなたのことは、忘れ・・・・・・  】

 これから後は読めなかった。感情の昂ぶりで、と言えばカッコイイが、実は涙に加えて鼻水とヨダレでインクがグジョグジョになってしまったのだ。これは、つまり、そんなにまで悲しかったのであって、僕がダラシナイ男だとは思わないでほしい。
 そんなことは、どうでもいい。もし、「カラモナ」=「偉大なる王者」だとすれば、ババ・チビルは、あのババさんか。すると、二人は既に啓子を知っていた事になる。でも、なぜ素直に教えてくれなかった? それともあの二人とは別人なのか? 「鬼門の門」も不思議だ。門らしい門はこの村には無い。手紙には穴とも書いて有ったなぁ。しかし門(穴?)がここの村に有れば、啓子の足取りが途絶えた説明は出来る。ここからどこか遠い所へワープした・・・・・・・・・てかっ?!。
 浜松名物うなぎパイを食べながら、いろいろ考えた。昔の僕ではこんなバカげた話にはついて行けなかった。が、彼女に別れを告げられた日から僕は変わったのだ。
−−−「・・・あなたはいい人ょ。でも、あなた、彼みたいにバカなこと出来る? 夢がある? 空想話で私を楽しませられる? あなた、真面目すぎて、私は意気が詰まりそうなのょ! 学生時代のあなたは、こうじゃなかったわっ!・・・・・」−−−−−

 学生の頃は彼も僕もよくふざけ合ったものだった。しかし卒業してから彼は自由な絵描き。そして僕はがんじがらめの会社人間。彼女に言われた時、僕は日立もちつき機に頭をつっこんでしまったようなショックを感じた。それからの僕は、つとめて昔を取り戻そうとしている。学生風の姿でいるのもそのためだ。今の僕なら彼女も、、いや、。 駄目と判っていても、棄て切れないかすかな期待が、僕をここまで連れて来たのだ。


 いろいろな事を考えながら、いつしか眠っていたようだ。目が覚めたら八日目の太陽が輝いていた。しかし、昨日までの青空と違う。時折、雲が陽をさえぎる。このぶんだと、今夜あたり月が笠をかぶるかもしれない。そう思った僕は、明朝出発すべく、荷造りを始めた。
「もう出発でっか?」
 さすがエリートと!思わせる流暢なカタコト英語で話しかけてきたのは、例の郵便配達だった。いや郵政官僚予備軍から一転、失業者となったのだから、郵便配達と呼んではいけなかったか。 この、現失業者となった元郵便配達と話したのは、村の長老が話す″村の掟″を通訳してもらった時以来である。彼は、泣くのがアホらしくなったのか、それとももう腹が決まったのかしら、やけにニタニタと話しかけてきた。
 「おたくの事は、よぅカラモナから聞いとりまっ。せやのに、ここの掟のことは何一つ言いよらへんねんからなぁ。あのあほんだらは。よけーなことバッカシししゃべりよるくせに。せやから今度、みつけたらシバキまわしたろ、おもてまんねん。いや、ほんま」
 なかなか紳士的な会話をするエリート青年である。
「この上の山小屋に行かれたそうでんな。変な機械がぎょーさんおましたやろ。ワシも前にイッペン行きましてん。適当にスイッチを動かしとったら、突然、部屋のまんなかに煙りがモコモコッて出てきてビックリしたわ。あれ、きっとね、あそこに円状に並んどったビデオプロジェクターから投影するスモークスクリーンやと思いまっせ。」
 「ちょっと待って下さい。機械って何の事ですか? 私が行った時は、普通の羽目板の壁だけでしたが。」
 「はぁ、ほんならゃ、あの後でカモフラージュしよったんや。いやね、ひと月ほど前かな、行った時。壁いちめんにスイッチパネルが有って、天井はいろいろな配管でビッシリでね。プロジェクターも丸ぅびっしりと並んで、かなり広い部屋やったなぁ。」
 僕が居た部屋は四畳半ぐらいの狭い所だった。あの羽目板の裏にそんな仕掛けが隠れていたのか。そういえば山小屋を出てしばらくたってから気付いたのだが、こめかみに何箇所か太い針でも刺されたような跡が残っていた。こんな私の話しを聞いた彼は、
 「そうでっか。なんや、けったいな話しやな。テレパシィやと思ぅてんのは、脳ミソに電極でも差し込まれたんとちゃいまっか? この村を出られたらもいっぺん、あの小屋、見てみましょーや。ぶっちゃけた話しね、ワシ失業してまいましてん。官舎は追い出されるし、故郷へはクビになったなんてバレたら、二度と帰れしません。どうでっか。ワシ、おたくの追跡旅行、手伝いまっせ。どうせ行くとこもないし。そうしよ。そうましょ。ねぇ。 コホン! えー、わたくし、ジャン・モランボンと申します。以後よろしく。 でこの後は、西へ? それとも穴を探してワープですか? うふふ。楽しみですね」

 「普通に話せるんやったら初めからそうシャベらんかいや。アホタレが。」と言いたかったが、どうも私がしゃべると「普通に話す事が出来るあなたですから、私の前では一般的な英語を話さなければなりません。そうでしょう。あなた。」 と聞こえてるらしい。学校英語はこんなときツライ。
 「それから、ジャンさんは、勝手についてくる気になってるけど、まだ僕は良いとは言ってませんよ。ちょっと考えさせて下さい」 とりあえず、こう言い放った。
 ひとりより2人のほうが心強いが、正体がよく判らない。でも貯金はありそうだな。
食料や装備はどうする気だろ? たかられたらマズイな。
 残りのうなぎパイを数えながら考えたすえ、心がきまった。

 「ジャンさん!あなたと・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・#つづく#





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