#217/1850 CFM「空中分解」
★タイトル (CHC ) 87/ 7/13 0:48 ( 83)
「ポニーテール」 ECE
★内容
ポ ニ ー テ − ル
「くそ−、なんだこのウイングカ−は、プログラムを少しいじっただけでこん
なになるなんて。」
−−2011年 冬 東京 商業A−2区 PM11:23−−
今日、俺は知り合いの出版社に原稿を届けにこの商業A区へ来た。原稿といっても
タウン紙に載せる為の原稿である。まだ俺は学生なのだが、最近はこっちの方が楽し
くて、ろくに大学へ行っていない。あの秋のゼミナール発表会以来..
時間が余ったので出版社のあるこの商業A−2区で、暇つぶしに喫茶店でウイング
カーの制御プログラムを組みかえていたのだが、いざ走りだそうとしたらプログラム
にエラーが発生してしまったのだ。
このウイングカーは大手の自動車メーカーが発表し、大ヒットした乗り物だ。車体
からエンジンに至るまで、最新式。それになんといっても排気ガスの心配がなく、お
まけに自分で搭載コンピュータの組み替えが出来るという画期的な未来カーなのだ。
しかしまだ改良の余地があるようだ。
「まったく、どのセクションにエラ−が発生したのかぐらい表示してくれたっていい
じゃないかよー。」
もう外は暗くなっていた。
「第一、今日は駆動プログラムをいじってないのになー。」
コン、コン‥‥
ウインド−を叩く音がして女の顔が見えた。
パワーウインド−を少し開けた。
女はウインド−に身分証明書を見せ、白い息をはずませながら言った。
「すみませんけど、東部住宅街まで乗せて頂けませんか。」
「済まない、きみのような美人を乗せてあげたいのだけど、こいつがうまく動かなく
て俺も困っているんだ。」
「故障なの?」
「いや、プログラム変更のミスさ。」
「おねがい、ともかく乗せてくれない?寒いわ。」
一瞬迷ったが、身分証明も確かなのでドアのロックを開けてやった。
「わあっ、ありがとう助かったわ。ちょっとした用事でここまで来たら帰れなくなっ
てしまって、どうしようかと思っていたの。」
「ここは商業区だからバスやタクシ−はめったに来ないんだよ。」
「でも助かったわ、同じ大学の人に会えて。」
「同じ大学だって?」
俺はあわてて女の顔を見た。
「きみ、T大学の2年生でしょ、高橋君。」
女はほほ笑みながらいった。
「どうして俺の名前を?」
「私も同じT大学の3年よ。さっき身分証明を見せたでしょ、それにあんな大掛かり
なゼミ発表会をやって厳重注意されたのはあなたぐらいよ。」
確かに俺は秋のゼミ発表会のあと、大学側から厳重注意を受けた。オンラインシス
テムの研究発表の実例として、その場で大学のシステムコンピュータにアクセスして
教授の経歴を会場の大型スクリーンで見せたからだ。俺も悪いかもしれないが、すぐ
ばれる様なパスワードを設定する大学側も悪いと思う。
「でも俺の厳重注意処分については、大学側と俺以外知らないはずだが。」
「その話しをする前にエアコンをつけてくれない?バッテリー系統は駆動システムと
関係ないから大丈夫なはずでしょ。」
「ああわかった、確かに寒いな。」
エアコンのスイッチを押すと、暖房ランプが赤く点滅し温風が吹き出した。
「それでね‥‥」
女はフロントガラスの方を見ながらまた話しはじめた。
「大学側の人間とあなた以外から、あのゼミナール発表かいの経過について調べるチ
ャンスがあったの。」
「それは気が付かなかった。いったいどうやって調べたんだい?」
女は薄笑いを浮かべながら俺の方を向いて言った。
「コンピュータよ。」
「コンピュータ?」
「そうよ、あなたがしたのと同じように、大学のシステムコンピュータにアクセスし
て記録をしらべたの。でもあなたのプライベートな事までは調べてないわよ。」
「参ったな、俺以外に大学のシステムコンピュータに侵入した奴がいたなんて。」
「先輩に向かって`奴´はないでしょ。」
「失礼しました、先輩。」
本当に残念だった。あのコンピュータに侵入したのは俺だけだと思っていたのに‥。
「わかったら、そろそろ行きましょう。遅くなったわ。」
「先輩がどう俺のことを知っているかしらないが、このウイング−が動かなければど
うしようもないですよ。」
「任せて、こうみえても私はプログラム演習にも出てるし、電算機教室にも出ている
わ、ちょっと入力画面を見せて。」
女は搭載コンピュータのモニターを覗き込みながら言った。
「これじゃだめよ、設定がドライビングBモ−ドになっているもの、駆動プログラム
にエラ−がでたでしょう?」
「‥‥‥‥」
先輩に言われた通りにプログラムを改良し、エンジンをスタートさせるとウイング
カーはすべるように走りだした。
「ちゃんと講議にでなさいよ。」
先輩はそのあと東部住宅B区で降りた。
ポニイテ−ルが印象的だった。
ただ残念だったのは名前を聞くのを忘れた事だった。