AWC 【野良理教授のバラード 第三話[野良理教授の恋心]前編】


        
#186/1850 CFM「空中分解」
★タイトル (ZTD     )  87/ 4/19  12:48  ( 63)
【野良理教授のバラード 第三話[野良理教授の恋心]前編】
★内容

 野良理教授が恋をした。
そりゃあ誰だって恋ぐらいする権利はある。現に教授だって結婚をした訳である
し、その結果として彼の息子夫婦が教授と一つ屋根の下で暮らしているし、結果
の結果として、教授が目の中に入れても痛くないと思っている、孫の秀太郎だっ
て現に存在しているのである。
今は既に他界してしまった教授の奥さん、即ち婆あさんと野良理氏は、恋愛結婚
であった。その当時(=今から四十年程前になるが)としては「恋愛結婚」と言
ったら、それはもうそれだけで大事件の可能性を示していた。実際、野良理家は
代々の格式が高い家系であったし、婆さん(当時は勿論若かったが・・)は、名
もない家筋であって、この様な結婚が当時の世相に於て、容易に認められなかっ
たと云うことを考慮すると、この二人の結び付きがいかにドラマチックなもので
あったか、興味深いところであろう。
正にそれはあのロミオとジュリエットの物語に始まって、今日、主婦をテレビの
前に釘付けにしている昼メロのストーリーとして、あまた使われているもののど
れよりも劇的な物語なのであったのであるが・・・・。
しかしそれは、今回の話とは全く関係がない。もしどうしても興味がおありなら
それは又別の機会に話をしよう。(どなたか筆者の為にそのストーリーを考えて
いただけるのなら、有難いのだが)

 今回の話に云う野良理教授の「恋心」とは、四十年近く連れ添った婆あさまと
は一切関係がない。実はこれは教授の現在の心境を表している言葉であった。
こう云うと読者はすぐに「ああ、老人同士の、ほのぼのとしたロマンスか」と、
早合点してしまうであろうが、ところがさにあらず、教授の相手と言うのは、同
じ町内に住んでいる、なんと当年二十才という美貌の女性であた。彼女の名前は
「浩子」さんとでもしておこう。(実は、筆者は谷山浩子のファンである。この
場合、特に関係はないが・・)

 教授と浩子さんとは、どう言った経緯でもって知り合ったのであろうか、と云
うとそれは、新宿のディスコであったと云えば、読者は驚かれるだろうか。しか
しこれは本当の話である。
 教授が若い女性と恋に堕ちた!。このニュースを聞いたときの彼の家族の驚き
と言ったら、それはもう大変なものであった。
 「あなた、お義父様が若い女性と恋愛中ですって。どうしましょう」
 「どうするって。どうにも仕様がないじゃないか。お父さんには恋をする権利
 がない、と言う訳にもいかないだろう・・」
 「そりゃあそうだけど・・。でも、ご近所のこともあるし。私、恥かしくって
 買物にも行けやしない」
 「うん、まさか結婚しようなどと言い出しはしないだろうなあ」
 「相手の浩子さんって方どんな人かしら。悪い女じゃないでしょうね」
 「知ってる人から聞いたんだが、真面目で優しい人らしいよ。ディスコでお父
 さんと知り合ったんらしい。まあ普通の女子大生ってとこらしいな」
 「女子大生ってとこが気になるわね」
 「考えすぎだよ・・」
 「でもどうして義父さん、なんでまたディスコなんかに行ったのかしら」
 「何でも若者達とのスキンシップを図る為に<ワシもデスコとやらに行かなけ
 れば。これも教育者としての義務じゃ>なんて言って出かけたらしい。まあ、
 年寄りの冷や水というやつさ」
 「それにしても相手の浩子さん、どう考えているのかしら」
 「いや、彼女は別に恋愛なんて考えているんじゃないらしい。何でも彼女はボ
 ランティアをやってるそうで、まあ、老人の話相手になってやってるていどな
 んだろうな」
 「まあそうなの。それじゃあ彼女はお義父様の横恋慕の被害者という訳ね」

そうなのである。浩子嬢はディスコで踊っていた時に野良理教授が現れたので、
彼の歳不相応な冒険心を諌めようと声をかけたのであった。それ以来、住所が同
じ町であったと云うこともあって、野良理教授は彼女のボランティア精神をくす
ぐりつづけているのであった。
そうとは気付かない野良理教授は、自分と彼女は相思相愛の関係にあるとばかり
に、一人で勝手に思い込んでいるのである。

        野良理教授のバラード 第三話:野良理教授の恋心(つづく)





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