AWC 「透き徹ったガラスの向こう...」 File #6


        
#112/1850 CFM「空中分解」
★タイトル (KUC     )  87/ 2/ 8  14:57  ( 95)
「透き徹ったガラスの向こう...」 File #6
★内容

『会いたい!』
 『会いたい!』
  『会いたい!』
   『会いたい!』
    『会いたい!』
     『会いたい!』

 三ケ月後、フェラス、地球間の通話の回復する日。待ちきれずビジュアルテレ
フォンコンソールに手を、回復時間まで3、2、1。
 一瞬、早く向こうからかかった。
 ディスプレイパネルに映るミムの姿。
「三ケ月前、なぜ、電話しなかったんだ。三ケ月間、通話不能になることは知っ
ていたはずだ。いったい、どうしたんだ?」
「それがねぇ。隔離されちゃったのよ。それより、なんで宇宙服を着てるの?」
「貴女こそ宇宙服を着てるじゃないか。まだ、隔離されているのか? 病気は重
いのか? まさか、死ぬんじゃないだろうな」
「ええ、死ぬわ。きっと死ぬわ」
「大変だ! なんとか治療できないのか」
「死ぬわよ。うふふっ、百年後には確実に死んでるはずよ」
「ばか! 悪い冗談だ。だけど、本当に病気はもういいのか」
「ええ、すっかり治ったわ。ごめんなさい」
 それから、ミムは隔離されたいきさつを、話し始めた。
 ミムは、真夜中の公園を散歩していた。なぜかといえば、セラがよくそうして
いたからだ。ちょうど、ミムが夕陽を好むのと同じで、セラの趣味みたいなもの
だった。
 誰もいない真夜中の公園。確かに変な趣味だ。この時代には、真夜中の公園で
逢い引きする者などひとりもいないのだから。
 ところが、そんな、誰もいないばずの公園で、ミムは、ひとりの若い女性に出
会ったのだ。彼女は、まるでセラのようにベンチに腰掛けていた。
「あなた、誰? どうして、こんな時間に、こんな所に?」
「コホッ、ごめんなさい。私はレア。私に近づいちゃだめ。ハァー、ハァー」
「なぜ?」
「私は病気なの。うつるわ。コホッ、だから近づいちゃだめよ」
 そう言ってレアは気絶してしまった。
 夜の闇が冷たく、ふたりを笑う。


 急いで、メディカルセンターへ連絡するミム。
「レア、レア。気づいた」
「ここは、どこ?」
「メディカルセンターよ」
「そう。また、つれ戻されてしまつたのね」
「だめじゃない。脱け出したりして」
「どうせ、私は手遅れの患者。助からないのは、わかっているわ。せめて、死ぬ
前にもう一度、彼とよく行った公園を見ておきたかったの。夜なら誰もいないか
ら、人に病気をうつす心配はないと思って」
「そこに、私がのこのこと現われたというわけね。ところで、なぜ、彼は見舞に
もこないの? いくら隔離されているからといっても、私みたいにプラスチック
製の隔離服を着れば、会えないはずないのに」
「彼は死んだわ」
「えっ!」
「シュラ星難民の彼をかくまっていたんだけど、彼、病気だったの。フェラスで
は、とっくの昔に絶滅した原始的な病気だったので、手のほどこしようがなかっ
たの。それにフェラス人には、そんな原始的な病気に対する免疫も抵抗力もない
から」
「そう、そうだったの」
「ごめんなさいね。あなたにも病気をうつしちゃったかもしれないわ。潜伏期間
の二週間は、隔離されちゃうものね。迷惑だったでしょう。」
「そんなことないわ。夜の公園なんかを、ぶらぶらしていた私が悪いんですもの」
「そう言ってくれと嬉しいわ。本当は、あなたがいてくれると、とても嬉しいの。
ここはアンドロイドやロボットばかりで、人がいないんですもの」
「人ねぇー。フフッ、私が人間扱いされるなんて、始めてね」
「えぇー あなたもアンドロイドなの?」
「フフッ、違うわよ。だけど、私、落ちこぼれで、変わり者でしょう。信じられ
ない、それなら」
 そう言って、ミムはプラスチックの隔離服を、脱いでしまった。
「ほら。私に触って、脈があるでしょ。心臓の鼓動だって、ほら」
「あっ! そんなことしちゃ」
「平気、平気。どうせ、もう感染しちゃってるかもしれないわ。これで、あなた
の看病できるわ。それにここはメディカルセンターなんだし、手遅れになる心配
ないもの」
「フェラスの病気ならね。でもぉー」
「あっ、いっけない。どうしよう。といっても、後の祭か。」
「たいへんよ。フェラス人には抗体も免疫もないし、副作用をまったくなくすた
めにフェラスでは、完全選択性抗生物質しか製造してないから、この病原菌に対
する抗生物質はないのよ」
「どうしょぉー、どうしたらいいの」
「治療法、ないこともないわ。だけど、危険だわ。生体変換を変換せずに行い、
その際、生体分離によって、菌体を分離するの。だけど、私みたいに手遅れだと
病巣が広がっているし、体力が衰えているから無理なの」
「なあんだ。治療法あるんじゃない。よかった。あっ、ごめんなさい。あなたに
はないんだったわね」
「いいのよ。もともと、私がうつした病気だし、仲間ができて嬉しいわ」
 その日、レアはとても元気に見えた。
 しかし、それは、燃えつきようとするロウソクの炎が、最後にひときわ強く輝
くような生命の炎の最期の輝きにすぎなかった。
 翌日、レアはこの世を去った。

「とゆーわけで、隔離されちゃったとゆーわけ。それからね、私、あなたに恋し
ちゃったみたい。どうしても、あなたのいる地球へ行きたくて治療の生体変換の
時、ちょっと、メディコムのプログラムをいじくって、地球の環境に適応するよ
うに生体変換しちゃったのよ。これで、私、地球で暮らせるわ」

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