#345/1160 ●連載
★タイトル (pot ) 04/09/29 22:21 (312)
alive(16) 佐藤水美
★内容
16
やっと、瞬に会える。
どんな顔をして会い、何の話をすればいいのか(「具合はどう?」程度しか思いつ
かない)わからないけれど、今は黙って瞬を抱きしめてやりたい。
冴子とふたりで角を曲がったとき、クリーム色のドアが内側に開いた。現れたの
は、苦り切った顔をした伯父だ。
「あっ、お父さん!」
冴子が声をかけると、伯父の表情がほっとしたように緩んだ。ドアを静かに閉め、
こちらに歩み寄ってくる。愛娘を見る父親の目は、限りなく優しい。
「冴子か。いったいどこに行ってたんだ? お母さんが探して……」
伯父の視線が僕の上で止まる。和やかな表情が、次第にこわばっていく。
そうか、伯父も伯母と同じように思っているんだ。
ひどい失望感が僕を襲う。
「瞬、また吐いたんですって? 恭一が言ってたけど」
「ああ……でも今は落ち着いてるよ」
伯父はそう言って、僕から目を逸らした。
「よかった。それなら、幹彦くんが瞬に会ってもいいわよね」
冴子の台詞は、驚くほどストレートだった。思ったことを遠慮なく言える従姉が、
少しうらやましい。
「ちょっと待ちなさい、冴子。家族以外の面会には、先生の許可が必要なんだよ」
「じゃあお父さんは、幹彦くんは家族じゃないって言うの? 血が繋がってること
も4年間一緒に暮らしてきたことも無視して、赤の他人だって言うのね?」
「そんなことは言ってないぞ」
「言ってるじゃないの、言ってるのと同じに聞こえる。今日は何が何でも、幹彦く
んを瞬に会わせるからね」
「冴子、いい加減にしないか。とにかく面会には許可が要るんだ、それに……」
伯父が僕の顔にちらりと目をやる。
「本人が会いたがっていない」
声を落として言う。冴子や恭一がどう言おうと、瞬の気持ちがわからない以上、
その台詞には僕を痛打できるだけの力があった。
「違うわ、瞬は会いたいのよ。だけど会いたいって言えないの」
「どうしてお前にそんなことがわかるんだ?」
伯父は両腕を組み、少々気色ばんだ様子で訊いた。
「瞬は弟だもの。さあ行くわよ、幹彦くん」
冴子は強引な理由をつけると、僕の手首をつかんだ。
「駄目だ、冴子」
「お父さんは瞬を助けたくないの?」
「助けたいに決まってるじゃないか! だから先生の指示通りに……」
「先生の言うとおりにしたって、瞬は良くなってない。ちょっとしたことで吐いた
り泣き出したりして、悪くなる一方よ!」
「冴子の気持ちはわかるが、無理矢理会わせてどうする気だ? 幹彦に会ったから
といって、瞬の病気が良くなるとは限らんぞ。もし悪くなったら、お前は責任が取
れるのか?」
「悪くなんかならないわ、絶対に」
冴子は断固とした口調で言い返し、僕の手首をつかんだまま伯父の脇をすり抜け
ようとする。
「あ、あの……」
僕は冴子について行くわけにもいかず、おろおろとふたりの顔を交互に見た。
「全く強情な子だ」
伯父がため息を吐いて、首を軽く横に振る。
「だが、連れてきてしまったものは仕方がない。少しだけだぞ」
大きな手が、僕の肩をポンと叩く。
「お父さん、ありがとう!」
伯父は愛娘の言葉に薄い笑みを浮かべ、僕たちに背を向けた。ズボンのポケット
からライターとタバコの小箱を取り出したところをみると、喫煙コーナーに行くつ
もりなのかもしれない。僕はその後ろ姿に黙って頭を下げた。
「よかったね、幹彦くん」
「冴子さん、ありが……」
ふいに声が詰まる。従姉の顔が滲んで見えて、僕は下を向いた。
冴子がドアをノックすると、中から伯母の「どうぞ」という声が返ってきた。胸
の鼓動がまた速くなる。僕はごくりと唾を飲み込んだ。
「お母さんは私に任せて。大丈夫、きっとうまくいくわ」
冴子は小声でささやき、金属製のレバーを押してドアを開けた。病室特有の臭気
が微かに鼻をかすめる。
入って右側には、トイレと小さな洗面台がついていた。正面つまりベッドのある
ほうは、天井から下りた薄い水色のカーテンに遮られている。そのため、相手の姿
はお互いにわからないのだ。
「入るわよ」
冴子は事も無げに言い、カーテンを人ひとりが通れる程度に開けた。従姉の肩越
しに見えるのは、モスグリーンのソファーに茶色いミニテーブル、白いブラインド
の下りた窓だ。
「冴子なの?」
伯母の声が聞こえた。僕は思わずカーテンの後ろに我が身を隠す。
「あなたどこへ……」
「家に帰ってただけよ」
冴子はそう言ったかと思うと、カーテンを一気に開けた。
「あっ!」
伯母と僕、声を上げたのはほとんど同時だったと思う。ふたりとも、心の準備が
できていなかったのだから当然だ。
伯母の顔には驚愕の表情が貼りついていた。挨拶ぐらいはしなければならないの
に、喉が詰まって言葉が出ない。僕は慌てておじぎをするしかなかった。
「……どうしたの?」
細くて弱々しい声。
瞬!
弾かれたように上体を起こす。
ベッドに横たわっていた少年が、片肘をついて上半身を起こそうとしていた。伸
び放題の髪、異様に白い肌、ぶかぶかのパジャマの中で泳いでいる痩せこけた身体、
点滴を繋いでいる細い腕。見た目こそ変わってしまったけれど、彼は確かに瞬だ。
「瞬、幹彦くんが来てくれたわよ」
冴子がはっきりとした口調で、すかさず僕の来訪を告げる。
「さ、冴子っ!」
伯母は我に返ったようにハッとして、うわずった声を出した。眉根にしわを寄せ、
怒りに紅潮した顔をこちらに向ける。
「これはどういうことなのっ!?」
「ええと、その……」
僕は早くも伯母の気迫に圧倒されていた。頭の中で、様々な言葉が浮かんでは消
えていく。相手を刺激しないような台詞なんて、見つかるはずはなかった。
「お見舞いに来ただけよ」
冴子が悪びれた様子もなく、あっさりと言い放つ。従姉に対する認識が、今日を
境に180度変わってしまいそうだ。
「ごまかさないできちんと説明しなさい! 幹彦くん、あなたから冴子に……」
「違うわよ! 私のほうから頼んで来てもらったの。何でもかんでも幹彦くんのせ
いにするのはやめて」
「私はそんなことしてませんよ。瞬の身体に障るから、ふたりとも出て行ってちょ
うだい!」
「ええ、そうするわ。ただし、出て行くのはお母さんと私よ」
「何ですって!」
「お母さんも疲れてるでしょ? 瞬は幹彦くんに任せて、下の喫茶店で休憩しまし
ょうよ。それに、どうしても聞いて欲しい話があるの」
冴子はそう言うが早いか、伯母の腕をがっちりとつかんだ。
「幹彦くん、後はお願いね」
ドアが耳障りな音を立てて閉まる。言い争うふたりの甲高い声が、次第に遠ざか
っていく。病室内に再び静けさが戻った。
瞬はすでにベッドの上で身体を起こしていた。うつむいて背中を丸めた姿は、し
ょんぼりとして見える。伸びた前髪が顔にかかっているため、表情はわからない。
僕は僕で、最初の立ち位置から動けずにいた。薄い身体を抱きしめたいけれど、
もし拒絶されたら平静でいられる自信がない。手のひらがじっとりと汗ばんでくる。
乾いた唇をなめてみても、気持ちは落ち着かなかった。
「瞬……」
声をかけた途端、細い肩がビクリと動く。ささいな動作にもかかわらず、僕の心
はひどく傷ついた。愛おしいという感情が、たちまちマイナスの方向に傾いていく。
嫌いになったって、はっきり言えよ!
胸の中で、やけくそになったもうひとりの僕が叫ぶ。でも現実の僕は、唇を噛む
だけで何も言えない。
瞬は我が身を守ろうとするかのようにいっそう背中を丸め、骨張った手で自分の
肩を抱いた。点滴のチューブが引っ張られる。
「うっ……うう……」
ふいに、呻き声のようなものが聞こえた。瞬が肩を震わせるたびに、透明な滴が
次々とこぼれ落ちる。掛け布団に広がるふたつの染みが、僕を無言で責めているよ
うに思えてならなかった。
「どうして泣くんだよ」
ぶっきらぼうに言う。そのせいか、瞬の嗚咽が大きくなる。
会いたくないって言ったのは、瞬のほうじゃないか。苦しんでるのは自分だけだ
と思っているみたいだけど、僕だって辛いのを我慢してた。伯母さんに責められて
も、ひとりで耐えてたんだ……。
恨み言の数々で、頭の中がいっぱいになる。とてもじゃないが、冴子が期待して
いるような話し合いはできそうにない。
僕はため息を吐いた。ミニテーブルの上にあったティッシュの箱を取って、泣い
ている瞬に近づく。
「拭けよ」
そう言って箱を差し出したが、瞬は受け取ろうとしなかった。涙の染みは、いつ
の間にかくっついてしまっている。
「しょうがないな」
僕はティッシュを数枚抜いて、箱をベッドの片隅に置いた。柔らかい紙の塊を握
らせようと、点滴に繋がれていない左手を取る。瞬は全く抵抗せず、手をこちらに
引き寄せるのは簡単だった。
何て冷たいんだろう!
外はうだるような暑さだというのに、瞬の手は氷水に漬けた後のように冷え切っ
ていた。貧血がひどいのかもしれない。
「ほら、ティッシュ……」
胸の奥が痛むのを感じながら、手のひらを上に向ける。それと同時に、腕の内側
があらわになって――。
「何、これ……!」
生白い皮膚に浮かぶ、青紫色の痣。それもひとつやふたつではなく、無数と言っ
てもいいくらいだ。あることが思い浮かび、僕は手を返してその甲を見直した。予
想にたがわず、黄色っぽい痕が残っている。持っていたティッシュが音もなく落ち
た。
「こんなにいっぱい……やったんだ……」
僕はベッドの縁に腰を下ろし、瞬の手と腕をなでた。
上条くんは血管が細いわね、看護婦泣かせだわ。
僕も点滴の針を刺すとき、よくそう言われたものだ。さんざん痛い思いをしてや
っと針を入れても、すぐに詰まってしまい、翌日には別のところに刺さねばならな
くなる。あのときの僕の腕も、こんなふうに痣だらけだった。
「痛かっただろ……」
鼻の奥がツンとする。僕の目尻から熱いものがこぼれた、その刹那。
「!」
瞬がしゃくり上げながら、僕にしがみついてきた。涙と鼻水にまみれた青白い顔
を、くしゃくしゃに歪めたその表情を、僕は決して忘れないだろう。
様々な感情が一気にこみ上げてくる。溢れる涙を拭おうともせず、僕は従弟の痩
せた身体を力いっぱい抱きしめた。
「……幹彦」
瞬が僕の名を呼んでくれる。その声を、どれほど待ち望んだことか。うざいとか
会いたくないとか、いろいろ言われたけれど、そんなことはどうでもいい。
「どこにも……行く……な……」
「……行かないよ」
鼻をすすって答え、瞬の頭を優しくなでた。胸の奥が、また痛くなる。
「……そばに、いて……」
瞬は僕の胸元に顔を埋め、回した腕に病人とは思えない力をこめた。細い肩が、
痙攣でも起こしたように小刻みな上下動を繰り返す。
「やっぱ……駄目だ、俺……」
くぐもった声が何を言おうとしているのか、すぐにはわからなかった。僕は瞬の
背中をさすりながら、次の言葉を待った。
「幹彦……いないと……、駄目だ……」
「瞬……」
「もう……頑張れ……ない……。苦しいよ……」
息づかいを荒くして呻くように言い、首を力なく横に振った。僕を取り巻いてい
た濃い霧が、その台詞で急速に晴れていく。
瞬は強くなろうとしたんだ。来年僕がいなくなっても暮らして行けるように、自
ら関係を絶って。推測に過ぎないけれど、たぶん当たっているはずだ。
「……ごめん……ごめんな、瞬……」
声を震わせ、やっとの思いで言う。さっきとは違う涙が溢れ、僕の胸を激しく掻
きむしる。年下の従弟の気持ちを少しも思いやれなかった自分自身に、ひどく腹が
立った。
心の弱った瞬を最終的に追い込んだのは、あのとき植えつけられた強い不安感に
違いない。タイムマシンで時間をさかのぼり、過去を変えることができたなら。
瞬のやっかいな病気の原因を作ったのは僕だった。悔しいけど、伯母の言うとお
りだ。そして皮肉にも、この泥沼から従弟を救い出せるのは、僕しかいない。
でも、どうやって?
家を出るのはやめにした。せめてそう言えたら、どんなによかったか。
「どこか、遠くに行こうか……」
現実から逃げ出したいという願望が、思わず口をついて出てしまう。
誰も来ない、ふたりだけの静かな場所に行けたら。
点滴のチューブを引きちぎり、ブラインドを上げる。窓をいっぱいに開け、瞬を
抱えて空中に一歩を踏み出す……。
「……幹彦」
瞬の声にハッとする。
「一緒……だよね?」
「……ああ」
「よかった……。俺、ついて行くから……」
瞬はほっとしたように言い、ゆっくりと顔を上げた。濡れて赤くなった目が、こ
ちらをじっと見つめている。
「……置いてくなよ」
やつれ果てた顔に、弱々しい笑みが浮かぶ。瞬はおそらく察しているのだ、僕が
今考えていることを。
微かに震える両手で、瞬のこけた頬をそっと包む。
幹彦、お前はあのときと同じ過ちを繰り返すのか?
耳の奥で、誰かの声が聞こえた。押し黙って唇を噛み、目を伏せる。
「どうしたの……?」
「……できない。そんなこと、絶対できないっ!」
僕はそう叫ぶが早いか、瞬の身体を再び強く抱きしめた。愛しい者の鼓動が、服
を通して胸に伝わってくる。
「もう……自分を、責めないで……」
耳元で瞬がささやく。それを聞いた途端、僕はたまらなくなって小さな子供のよ
うに声を上げてしまった。涙で濡れたメガネが、鼻筋にそってずり落ちる。
「幹彦、悪くないよ……。俺が……弱虫だから……」
それは違う。年上のくせに、弱虫なのは僕のほうだ。
君にはいつも慰められてばかりいたじゃないか。
僕はうっとうしいメガネを片手で外し、ベッドの上に放った。手の甲で目元をこ
すり、詰まり気味の鼻をすする。
愛してるよ、瞬。
そう口に出して伝えたいのに、声が出ない。
「今まで、ごめん……。幹彦……愛してる」
先に言われてしまうなんて。ああ、やっぱり僕は……。
金属製のゴミ箱は、瞬と僕が使ったティッシュでたちまちいっぱいになった。僕
はベッドの縁に座ったまま、残り少ない紙でメガネをていねいに拭っていく。
「メガネ外した顔、久しぶりに見た」
瞬が物珍しそうに言う。ソフトフォーカスの中の恋人は、はかなげな笑みを浮か
べてこちらを見ていた。
「間が抜けて見えるだろ?」
「そうかな? 俺は好きだけど」
さらりと出た言葉に、僕は自分の頬が熱くなるのを感じた。半ば死んでいた心が、
息を吹き返してくるようにさえ思える。
「さてと、こんなもんかな」
平静を装い、手の中でメガネを観察する。
「コンタクトはする気ないの?」
「目の中にレンズを入れるのが嫌なんだよ。何となく気持ち悪くてさ。それに、手
入れしなきゃいけないのが面倒くさい」
そう答えてメガネをかけようとしたとき、瞬がいきなり僕の手首をつかんだ。
「待って。今日はこのままでいてよ」
「このままでって……見えないから駄目だよ。瞬の顔だって、目を細くしないとぼ
やけるんだから」
「じゃあ、近づけばいいんだ」
瞬はそう言うなり、つかんだ手首を自分のほうへ引き寄せた。不意をつかれてぐ
らりと動いた僕を受け止めるように、唇を重ねてくる。乾いて荒れた感触が痛々し
い。
「……んっ」
瞬の舌が、待ちかねたように僕の前歯をなめる。
おいで。
歯列を割って侵入してきた瞬を強く吸う。柔らかくてざらりとした感触が、過去
の快楽を呼び覚ます。股間が次第に熱くなっていく。
「ん……んんっ……」
僕は片手で瞬の後頭部を押さえ、舌は言うに及ばず、歯列、頬の内側、口蓋など
口の中のあらゆる場所をなめ回した。股間に集まった熱が、今や全身に波及しよう
としている。頭の中がぼうっとして、もう何も考えられない。
汗がじっとりと浮かんでくる。早く生まれたままの姿になって、瞬を抱きたい。
「幹……んっ……苦し……」
瞬が突然、僕の腕から逃れようとするかのように身をよじった。
「駄目」
あっさりと拒否し、再び唇を吸う。びくびくと動く舌の感触が、たまらなくいい。
「んんっ……、マジ……苦しい」
瞬が僕から顔を背け、薄い胸に手を当てて荒い息を繰り返す。壊れそうな肩が大
きく動くのを見て、僕はやっと相手の苦痛に気づいた。
「ごめん! 瞬、大丈夫か!?」
「……うん」
返事はするものの、瞬の顔は蒼白だった。
「横になろうね」
僕は慌ててメガネをかけると、従弟の身体を抱えてベッドの上にそっと寝かせた。
「ほんと、ごめんな。ちょっと興奮しすぎた」
反省の弁に、瞬が薄く笑う。どんな言いわけをしようと、病人への気づかいを忘
れた僕が悪い。
「ええっと、ナースコールはどこだ?」
「……大丈夫だよ」
「でも、看護婦さんを呼んだほうが……」
「ときどきね……こうなるんだ……」
瞬は力なく言い、僕の手を取って自分の胸に当てると、ふうっと息を吐いた。
「少し、休むよ……」
「わかった。もし吐きそうになったら、すぐに言うんだぞ」
「うん……でも、もう吐きたくないよ」
僕を見つめる目が、うっすらと潤んだ。
「瞬の病気、僕が必ず治してやるからな」
どんなことをしてでも、瞬を救いたい。僕は誓いを立てるように、空いているほ
うの手で従弟の頭をなでた。
「……ありがとう」
瞬は小さな声で答えると、静かに目を閉じた。
ブラインドの隙間から漏れる光が、いつの間にか赤く変わっている。冴子が病室
に戻ってきたのは、瞬が眠りに落ちてから間もなくのことだったと思う。
僕は早速、伯母の様子を従姉に訊いた。それによると、末っ子から強引に引き離
された伯母は、何と恭一に説得されて(!)しぶしぶ家に戻ったという。やむを得
なかったとはいえ、僕にとっては気が重くなるような話だ。
伯母に会いたくないからというわけではないが、僕はしばらくの間、病室に泊ま
り込んで瞬の看病をしたいと申し出た。それは冴子を通じて伯父や主治医へと伝え
られ、運良く承諾を得ることができた。
従姉は陽が完全に落ちた後も、家と病院の間を往復して僕の着替えや勉強道具を
運んだり、夕食を買ってきてくれたりした。彼女には本当に感謝している。
しかし、いつまでも再会に酔いしれていられるほど、現実は甘くなかった。
to be continued