#239/1160 ●連載
★タイトル (yiu ) 04/04/10 08:02 ( 37)
戦国演義(2) 早川龍胤
★内容
空が青かった。竹千代はその大きな瞳で空を見た。下っ端が云うには、まだ巣窟には遠
いらしい。あれから山寺は一つも見当たらない。夜通しで巣窟に向かうという方針に決
まった。夜。まだ背負っている陶磁器が音をたてていた。
すると、前方から凄まじい馬の翔ける足音が聞えてきた。
「それがしは、本多村の平八郎忠勝。お主らを討ち取りに参った。」
主導者のような大男が大声を挙げた。槍を持っている。槍はかなり鍛えられているよう
で、刃の部分が美麗だった。その槍を振るや否や、頭の首は宙を舞い先頭の賊は平八郎
忠勝と名乗った男他三人の大男に首が刎ねられた。先頭で起こった事を悟った賊達は武
器、具足を捨てて一目散に逃げた。
「待てぃ。」
平八郎他三名は馬の腹を蹴り追撃を開始した。
「お主、賊ではあるまい。それがしは本多村の平八郎忠勝。賊に村を襲われ、復讐を決
めた。」
平八郎。
「有難うございます。私も、村を襲われ荷駄を賊に遣らされていたところです。」
竹千代。
「ほう。同志でありましたか。それがしらは此れより流浪の旅をする。ここで別れであ
りましょう。」
「このご恩何でお返ししたらよろしいか。そうだ、この剣を差し上げます。」
「剣をくれると申すのか。有り難い。実は先程より装飾が美しいのでかなりの名刀だと
見込んでおりました。」
「さっ、受け取りください。」
平八郎は竹千代から剣を受け取った。『バッ』と抜刀するとそれを朝日のかすかな光に
てらしてみた。
「おぉ。それは二度とない逸品ですな。有難たや。また一度貴郎とはお会いしたい。貴
郎、名は?」
「私は竹千代と申す。」
「竹千代であるか。その名、この剣と共に胸に刻んでおこう。ところで貴郎これからは
どうやって生きてゆくのだ?」
「はっ。木の皮でも雑草でも食べて生きてゆくつもりですが。」
「なんと悲惨な。尾張に織田信秀という情に厚いお方が居られる。そこで雑兵でもいい
から飯は食べれるであろう。尾張に向かってみるがよい。」
「有り難き心遣い、感服いたします。」
「では、また会おうではないか。」
「えぇ。必ず再会しましょう。」
竹千代は平八郎と別れた。竹千代は賊が置いていった具足だの、脇差だの、米だのを拾
い集めて尾張に向かって歩き出した。