#6582/9229 ◇フレッシュボイス過去ログ
★タイトル (AZA ) 11/03/25 20:34 ( 23)
本の感想>『消えた奇術師』 永山
★内容
・『消えた奇術師』(鮎川哲也 光文社文庫)17/5552
マジックの最中、演者の一人が死亡する。トランクから脱出するはずが、中
で殺されていたのだ。解決の糸口が見出せないまま、第二の犯行が。同じマジ
ック団の一員が、拳銃で撃たれて死ぬ。犯人は明らかに思えたが、容疑者の姿
は密閉空間から煙の如く消えた。犯人は本物の魔術使いなのか?(表題作)。
密室三部作――大学の医学部解剖室でばらばら死体が見付かる「赤い密室」、
雪上の足跡の謎を扱った「白い密室」、劇団員専用アパートで起きる「青い密
室」――を含む、星影龍三シリーズ六編からなる短編集。
書かれた時代は昔なのに、古さをさほど感じない。これは実は凄いことじゃ
ないかと。唯一、古さを感じさせる単語が頻繁に登場する「妖塔記」にしても、
昔語りの形式を取っているため、古さが薄まっている。
収録された六編の内、半数を既読でしたが、再読を含めて面白く読めた。現
実的な探偵の推理物を基本とした作者だけれど、超人派の探偵を主役とした作
品でも、これだけの作品を書けるというのは、ジャンルへの造詣や理解、愛情
それぞれの深さが表れている。密室三部作が頭一つか二つ分抜けていて、表題
作が一番平凡に映るのはご愛敬。
作者は「黒い密室」なるタイトルで密室物を書くつもりだったのが、「鮎川
は密室物が不得手だ」との評価を気にして、やめてしまったというエピソード
が解説に書かれている。非常にもったいないし、評者はミステリファンに対し
て罪作りなことをしたものです。
ではでは。