AWC 本の感想>『誰のための綾織』   永山


        
#3439/9229 ◇フレッシュボイス過去ログ
★タイトル (AZA     )  06/06/25  21:12  ( 46)
本の感想>『誰のための綾織』   永山
★内容
・『誰のための綾織』(飛鳥部勝則 原書房)14/6341
 編集者の稲毛は、飛鳥部から教え子の原稿を託された。それはある事件に巻
き込まれた女子高生が綴った全くの素人作品で、『蛭女』と題されていた。読
んでみると面白くなくはないが、出版は難しい。そのことを伝えると、飛鳥部
は新しく、初稿に手を入れた暫定稿を渡してきて、もう一度目を通して欲しい
という。
*『蛭女』の粗筋
 新潟を大地震が襲った夜、鹿取モネを含む女子高生三名と教師が、何者かに
よって拉致され、島に連れて来られた。そこでは、モネ達の自殺したクラスメ
ートの父親ら三人が、復讐の炎を燻らせていた。
 モネ達は、八つの日本間からなる平屋に軟禁されるが、程なくして教師が殺
される。他の人の部屋を通らずには行き着けない部屋にいた教師を、犯人はど
のようにして殺めたのか。
 頻発する余震に脅かされる中、解決が試みられるが……。

 ご存知の方も多いと思いますが、本書は物議を醸している作品です。
 作中作の記述の数箇所が、先行する漫画「はみだしっ子」(三原順 白泉社)
に類似していることがブログなどで指摘され、経過はどうあれ、現在、原書房
は本書を絶版にし、在庫回収も行っているが、本書の作者は納得しておらず、
ことはまだ収まらない模様。
 私は「はみだしっ子」をほんの少ししか読んだことがなく、詳しくは分から
ないのですが、類似箇所はほとんどが台詞であり、ストーリーとは無関係で、
省いたところで物語が成り立たなく訳ではなく、展開が変わる訳でもない……
らしいので、今回の感想は、ミステリの部分に絞って書きます。ちなみに図書
館から借りて読みました。絶版・回収本でも何故か図書館に置いてあるのね。
 で、だ。
 新しい“意外な犯人”を作ることに挑戦した意欲は買えますが、このやり方
では無理が生じたと言わざるを得ません。種明かしの段になって、引用が行わ
れるのですが、該当箇所を読み返して検討する以前に、不自然さに気付くと思
う。あるいは、それはないだろうっていう感じの不満が出る。まったくの失敗
とは言い切れないだけに、惜しい気もしますが。
 もう一つのトリック、日本間の密室は、最初に出て来る馬鹿っぽい解決の方
が好き(笑)。ただまあ、この密室にも不自然さはあります。「他の人の部屋
を通らないと行き着けない部屋」が密室状態になる訳ですが、そもそも、「他
人の部屋を通らなければ行き着けない部屋」を生じさせる&使う必要があった
のか。ちゃんと考えて各人が部屋を選べば、「他人の部屋を通らないと行き着
けない部屋」が生じることはなかったのに。
 あと、事件の深刻さに比べて、解決のくだりが軽いというか、浮いている印
象も受けました。拉致した方もされた方も、いまいち緊張感に欠けているし。
 もう一点、ネタバレに近いのですが、たとえば正午の時点で十一時五十分を
指す時計を「十分進んだ時計」と呼ぶのはおかしいと思う。逆じゃないか?
 という訳で、冒頭に記した問題を含め、「見栄えはよくないし、いい評判は
聞かないが、食べてみるとおいしいじゃないか。でも小骨が喉に引っかかって、
後味が悪い」ってな作品でした。

 ではでは。





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