#3307/9229 ◇フレッシュボイス過去ログ
★タイトル (AZA ) 06/04/03 19:57 ( 32)
本の感想>『和時計の館の殺人』 永山
★内容
・『和時計の館の殺人』(芦辺拓 光文社カッパノベルス)13/5341
田舎にある古くからの名家・天知の屋敷で、当主の時平が危篤に陥った。急
報を受けて、夜の山道を車で急いでいた長男・鐘一は事故に遭い、死亡する。
それから二十七年。天知家は、昔ながらの時を刻む和時計に溢れる館になっ
ていた。当主の圭次郎の遺言書開封のため、春分の日に天知家を訪れた弁護士
の森江春策は、無事に役目を終えたものの、ちょっとしたハプニングで館に泊
まることになる。その夜、館の内外で相次いで人が殺された。いずれも天知家
にゆかりの者で、遺言書が原因のように思えるが、遺言の内容は至極真っ当で、
殺人につながるトラブルを引き起こしそうにない。
密室殺人、人間消失、顔に包帯を巻いた男、暗号にアリバイと、謎をふんだ
んに盛り込んだ古典的本格推理。
上にも記したように、謎は盛り沢山なのですが、読み終えての印象は今一歩
の感を拭えません。
まず、事件が起きるまでの道行きが退屈。和時計の説明にページを費やして
おり、そこの部分は興味深くもあるのですが、筋からは遊離している(謎解き
には必要だが、その時点ではなくても物語に支障はない)。
また、やたら秘密めかしたり、節を予告調で締めたりと、思わせぶりが多い
のも、ストレスがたまります。せめて、少しずつ明かしていくのならいいので
すが、最後にまとめてでは、それまでに背負うものが多すぎて、しんどい。
そして何よりも、事件のほとんどが偶然によって成り立っているのが、興ざ
めの源。私見ですが、怪異に見える現象を引き起こすために偶然を使うのは許
容範囲内としても、犯罪の不可能性(アリバイや密室等)の成立に偶然を多用
するのはよくない。多くても一つにとどめるべきではないかと。
特に、本作のアリバイトリックは秀逸ですが、もう少し描きようがあったと
思わずにいられません。専門知識が必要なのは、アンフェアな気がするし。
作品全体の雰囲気は悪くないものの、ややユーモアが勝りすぎて、バランス
を崩したかな。故意に古風な探偵小説を目指したのだとしたら、ワトソン役を
現場に登場させて欲しかったとも感じました。そうすればバランスが取れてい
たかもしれないだけに。
ではでは。