AWC 本の感想>『ルピナス探偵団の当惑』   永山


        
#2581/9229 ◇フレッシュボイス過去ログ
★タイトル (AZA     )  04/12/27  23:14  ( 37)
本の感想>『ルピナス探偵団の当惑』   永山
★内容
・『ルピナス探偵団の当惑』(津原泰水 原書房)17/5552
 エッセイストが自宅で殺される。現場の仕事机には、宅配ピザの空箱があっ
た。様々な要因から犯人は犯行後、残っていたピザを食べたと推測されるのだ
が、一体何のためにそんなことをしたのか(「冷えたピザはいかが」)。
 中庭に横たわる遺体。一面の雪に人の足跡は疎か、何の痕跡もない。しかも
中庭に通じる扉は、外側からロックされていた。自殺かとも思える状況だが、
死んだ作詞家は、ダイイングメッセージらしきものを残していた。何故か、鏡
文字で……(「ようこそ雪の館へ」)。
 進行中の舞台で、ベテラン女優が死ぬ。代役で急場を凌ぐ間に、死体が消え、
再び見つかったときには、その右腕が切断され、なくなっていた。危険を冒し
てまでこんなことをするメリットがあるのか(「大女優の右手」)。
 校則だけは厳しいルピナス学園の生徒、吾魚彩子らが謎を解いていく。

 味気ない粗筋紹介になってしまいましたが、本作はお薦めです。

 多分、この作者は頭の切れる人ではないかと。
 講談社の少女小説文庫用に書いた二編に、書き下ろし一編を加えた中編集と
いうことなのですが、それが俄には信じられないほど、文章が洗練されていま
す。キャラクターは明らかに少女小説&ライトノベルらしさたっぷりなのに、
難解な言い回しや省略が多い。切れすぎていて、一読しただけでは飲み込みに
くいというのが全体のぼんやりとした印象です。
 そのキャラクター。登場人物一覧で、あるキャラクターの説明に、「さして
取り柄のない美少女」って書いてるんですよ。普通、そんな発想(設定)はし
ないし、しても、登場人物一覧で説明しないだろーと思うのだが、それをぬけ
ぬけとやって、ちゃんと活かしている辺り、ただ者でない。
 筋立てにしても、確かにミステリなのだけれども、それでいてミステリに対
するアンチテーゼを垣間見せているようにも感じられます。もちろんそういう
試みをする作家は他にもたくさんいますが、本作の作家(あるいは作品そのも
の)が凄いのは、嫌味にならず、刺々しさもなく、面白い本格推理小説に仕上
げているところ。幻想・ホラー畑の人だと思っていたら、大変しっかりしたミ
ステリになっていたので驚きました。
 細かい点で疑問がなくはない(たとえば犯人がピザを食べたと断定する理由
に乏しい。持ち去ったのではだめなのか、とか)のですが、本筋には無関係で
すし、気にしない(笑)。
 読了して、こういう書き方もあるのだなと、新鮮に感じました。

 ではでは。





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