AWC かわらない想い 16   寺嶋公香


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★タイトル (AZA     )  99/ 7/31  22:42  (200)
かわらない想い 16   寺嶋公香
★内容
「頼井君……やっぱり、気づいていたんだ……」
 恥ずかしくなり、視線を落とす。
「ああ。これまでもときどき、あれ?と思うことあったけどね。運動会のフォ
ークダンス、あのときの公子ちゃんの様子で、確信が持てたよ」
「勘、鋭いね。さすが、色んな子と付き合ってるだけある」
「冗談でごまかさないで。心配して言ってるんだ。秋山のこと、あきらめるの
かい?」
「……あきらめざるを得ないんだ、私は」
「何で」
「……本当に、言わないでよ。お願いだから」
「言わない、絶対に」
 いつになく、頼井はまじめだった。本気で心配してくれている。
「転校するの」
「え……公子ちゃんが?」
 少なからずショックを受けたようだ。いつも見た目を気にしているはずの頼
井が、ぽかんと口を半開きにしている。
「うん。今年いっぱいでお別れ。離れ離れになったら、きっと忘れられるわ。
カナちゃんは少なくともあと一年半ぐらい、秋山君のそばにいるでしょうね。
それなら、カナちゃんを応援してあげたい。だから」
「−−待って。だからって、身を引くことないじゃないか。秋山に打ち明けた
らいい、公子ちゃんの気持ち」
 分からないという風に頭を振る頼井。
 公子は相手から視線を外し、言葉を選ぶ。
「私達三人−−私とカナちゃんとユカちゃんは、何でも話せる仲で……いつだ
ったか忘れたけど、カナちゃんが宣言したの、秋山君が好きだって。私、その
ときに言いそびれちゃって。そして、もう取り返せないぐらい、時間が過ぎち
ゃったから」
「納得できない」
 きっぱりと頼井。
「友達が大事なのは分かるけどね。フォークダンスのこともあるし、秋山のこ
と、今でも好きなのは好きなんだ?」
「……」
 言葉は出なかった。けれども、自然に身体が動く。こくりとうなずいた。
 次に顔を上げると、また涙が頬を伝っていた。
「転校が決まって、すっきりしたの。これでみんな、忘れられるって」
「嘘つくなよ」
 公子の前に回った頼井が、厳しい表情をしている。自然と立ち止まる。
「自分に嘘をつくな、公子ちゃん。何か……俺まで泣きそうだぜ」
 言って、頼井は鼻をすすった。
「……ごめん。女の子にこんな話させちまうなんて、最低だな、俺って。察し
てあげなきゃいけないのに。全然、勘、よくないぜ」
 頼井の笑い声は、空しい響きがあった。
「でもな、聞いたからには、言わせてほしい。俺だったら、自分の気持ちに正
直にしたいよな。友達のことで苦しいのは分かるけど、自分の気持ちを押し殺
す必要はない。そう思うよ」
「恐いんだもの、私」
 公子は顔をそむけ、震える声で答えた。もう正面から見られたくない気持ち
が起こり、歩き出す。
「自分の気持ちに正直にして、私だけが傷つくのならまだいい。けれど、私が
秋山君に気持ちを伝える行為自体、カナちゃんを傷つけることになるわ。それ
が恐いのよ。打ち明けた結果がどっちになっても、カナちゃんとの仲が元のま
まに保てるか自信ない」
「じゃあ、秋山が要ちゃんをふって、なおかつ、秋山の方から君に告白してき
たら、受けるのかい?」
「……分からない。考えもしなかったわ、そんなのって。カナちゃんが打ち明
ければ、きっとうまくいくと思ってるし」
「結局、自分が我慢すればいいと思ってるんだ」
「……」
 返すべき言葉がない。
「もう少しだけ、言わせてほしい。秋山は、まだ、公子ちゃんが気になってい
るよ。それは間違いない」
「……どうしてそう思うの? また、『見てたら分かる』?」
「それもあるけど。秋山の奴が女の子のことを名前で呼ぶの、公子ちゃんだけ
なんだ」
「……」
 はっとして、両手で口を押さえる公子。気持ちに何かが染み入る感覚。
「気づいてなかった? 他の女子には名字に『さん』付けだぜ、あいつ」
「……私、小学校がいっしょだったからね、きっと」
「まだそんなこと言うの」
 半ばあきれたかのように、息をはく頼井。
「君自身が一番感じているはずだよ。秋山の、君だけに向けられた優しさを」
「……」
「でも……多分、もう口出しできるような状況じゃなさそうだね。俺の口から、
要ちゃんにうまいこと伝えてみようか」
「だめっ」
 公子は再び、頼井をしっかり見据えた。
「カナちゃんは真剣よ」
「公子ちゃんもね」
「……意地悪を言わないで」
 胸が痛かった。
「ごめん。……いつ、他のみんなに打ち明けるんだろ、転校のことは?」
「ぎりぎりまで、言えそうにない。先生にも、言わないでってお願いしてるぐ
らいよ」
「秋山にもぎりぎりまで言えない?」
「多分ね。そう、秋山君だからこそ」
「分かった。誰にも言わないよ。−−こんなことしか言えない俺、許してくれ
よな」
「ん?」
「友達のことを思い、それでいて自分に正直であるのって、大変かもしれない
けど……『いい加減』に『がんばれ』」
「いい加減に……がんばる?」
 相反するような言葉を贈られ、戸惑いを覚える。
「ほどほどにがんばろうってことさ。いい加減ばっかじゃだめだし、がんばっ
てばかりじゃ疲れて壊れちまう。難しいことには、ほどほどがいいんだよ。俺
なんか、いつもこの精神で女の子と付き合ってる」
 最後はまた、いつもの頼井に戻っていた。
「ありがとう」
 ふふっと笑って、公子は礼を口にした。
 ちょうど、公子の家がすぐそこに見える場所まで到達していた。

 二人は、白の道着に面と胴防具を装着した格好。手には、指を動かすことが
できる、かなり小さめのグローブ。選手は赤と白の腰帯で区別される。
 そんきょの姿勢から、審判の合図で立ち上がり、礼。そして互いに身体の中
心線を見据え、対峙。間合いを計りながら、円を描くように回り始める。しば
らくしてから距離を詰め、軽く突きを出し合う。続いて蹴り。比較的低い位置
を通って、道着越しに相手のすね付近に当たる。ぱしっと乾いた音がした。
 次の瞬間、それまでの攻防はフェイントだったかのように、高い位置への蹴
りが飛び出す。互いに身を反らし、かわしていたが、ついに赤の前蹴りが白の
胴にヒット。一本先取だ。周りにいる観客−−生徒から歓声が起こる。
 勝負は二分三本勝負。すぐに続けられる。
 二本目は、赤が調子に乗ったように、前蹴りを多用。それを白は慎重にさば
いていく。
 その内、赤がハイキックを繰り出した。それを待っていたかのように、白は
蹴りを見切ると、相手の懐に飛び込む。そして担ぎ投げで横から落とした瞬間、
観客がどっと沸いた。拳法という言葉から来るイメージで、蹴り合い、突き合
いだけを頭に描いていたのであろう。日本拳法は突き、蹴り、投げ、そして関
節技が認められている。
 投げは不完全で一本にはならず。が、白の動きはスムースだった。倒れたま
まの相手の左上半身に着くと、素早く左腕を取った。そして、相手の肘関節を
逆方向に曲げる十字捕−−腕ひしぎ逆十字の形に、一気に持っていった。足を
ばたつかせ、蹴りを落とそうとする等して、わずかな間、抵抗をした赤だった
が、やがて参ったの意思表示。これで白が取り返し、一対一のタイスコア。寝
技の攻防に、体育館内は盛り上がる。
 三本目。今度は赤も警戒したか、蹴りは低め。隙をうかがい再び寝技に持ち
込みたい様子の白は、相手が仕掛けてこない限り、やりにくい。タックルを狙
って不用意に近づいても、蹴りの餌食だ。
 しばし、緊張の間。それを破ったのは、気合いの声。
「せいやっ」
 我慢しきれなくなったかのように、白−−秋山がややオーバーアクションで
左の突き。
 それを相手の赤−−頼井がキャッチ。手首を決める形で、ひねるように投げ
る。
 どさっと横転した秋山だが、その脇でしっかり頼井の右腕をかかえ込んでい
る。倒れた状態で、上になった相手から突き−−空撃−−の形をもらえば、そ
れでポイントを失う。そのため、頼井に腕を抜かせないようにしなければなら
ない。
 が、頼井は右腕を引き抜くと、秋山の胸辺りに、気合いと共に突きを入れる
ポーズを取った。
 審判の手が、まっすぐ挙げられた。
「きゃあっ」
「頼井先輩、格好いい!」
 声援が飛ぶ中、頼井と秋山は元の位置に戻り、そんきょの姿勢を取る。そし
て開始の際と同じく審判の合図で立ち上がり、礼。
 日本拳法部の学園祭でのデモンストレーション、演舞は終わった。
「お疲れさま」
 戻って来た二人に、公子達はそろって声をかけた。
「決まってたろ?」
 面を取った頼井が、特に悠香に対して自慢げに言った。
「あほらし。本気じゃなかったんでしょ?」
「それはそうだけど。くじ引きで決めたんであって、俺が強制したわけではな
い。なあ、秋山?」
「それはともかく、あの演出はなあ」
 グローブを外しながら、納得しかねる様子の秋山。
「一、二本目はいいけれど、三本目がね。いくら分かりやすいからって、あれ
じゃあ、合気道だよ」
「細かいことは気にしない、気にしない」
「普通に、乱取りでよかったと思うんだけど……」
 いいながら、自分の左手を見つめている秋山。
「手、大丈夫? ひょっとして」
 公子が尋ねた。要も心配そうにしている。拳法部の女子マネージャー二人は、
頼井の方につきっきりなのだ。
「あ? ん、平気だよ」
「だけど、凄い投げられ方だったわ」
 今にも身震いしかねない要。
「あれは、僕が自分から飛んでいるからね。受け身さえ取れば、何ともないよ。
実際に痛かったとしたら、僕より頼井の方だよ。二本目の十字捕、割と力を込
めて絞ったからね」
「でも」
「そんな不安な顔されても……。痛そうに見えた? それなら、僕の演技も捨
てたもんじゃないな」
 いくらか得意そうに、秋山は笑った。それを見て、公子はやっと安心できた。
「じゃ、着替えてくるから、待ってて」
 秋山は、まだ女子の声援に応えている頼井を半ば連れ去るようにして、控え
室に入っていった。それでも、まだ声援が続いている。
「相変わらず、頼井君、人気ある」
「どうして分かんないかねえ、あいつのふざけた性格が」
 公子の言葉を強く否定する悠香だった。
 やがて学生服に着替えて出てきた秋山達といっしょに、各展示を見て回り始
める。
「どこから行く?」
「新聞部は展示しないって言ってたもんね、石塚君」
「決まってないなら、理科部を覗いてみたいんだけど」
 秋山が言った。
「星のことを取り上げてるらしいから」
「なるほど。じゃあ、そこから」
 理科部展示は一階の理科室でやっていた。
 入り口から覗くと、前の黒板に星図が張り出されていたのが、まず目に入る。
模造紙に手書きの労作らしい。色はもちろん、星の明るさごとに丸の大きさが
変えてある。星座の絵柄が、少しコミック調なのはご愛敬。
 あとは、定番の北極星の見つけ方を始めとして、ギリシャ神話の解説が二つ、
太陽の動きの観測結果等があった。当たり前ではあるが、本物の科学館と比べ
るとやはり見劣りする。
「期待はずれだったんじゃない?」
 公子が聞くと、意外にも、秋山は首を横に振った。
「こういうことをやってくれるだけで、うれしくなるんだ。それにもう一つ、
楽しみがあってさ」
「え?」
 公子が聞き返したそのとき、タイミングよく、アナウンスが始まった。

――つづく




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