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★タイトル (AZA ) 99/ 7/31 22:41 (200)
かわらない想い 15 寺嶋公香
★内容
「料理、作るんでしょうが」
以前、公子のオムライスが思わぬ好評を得たため、そしてありつけなかった
石塚からの要望もあって、今日は女子三人が腕を奮ってみようということにな
ったのだ……成り行きで。
「三人で作るの?」
少し驚いたような顔を見せた秋山。
「そうだけど?」
悠香は、何を当然のことをと言いたげである。
「いや、頼井がまた賭けを持ちかけてきてたから……」
「賭けぇ?」
悠香が目尻をつり上げて、頼井をにらむ。
「なーんか変なこと、考えたわね?」
「そ、そうでもないけど」
語尾を濁す頼井に代わって、秋山が裏事情を話す。
「『三人の中で一番うまい料理を作るのが誰か、賭けないか』って……」
「そ、そんなストレートには言ってないぞ。料理コンテストみたいだなと」
「嘘つけ」
聞いていてばからしくなったか、いつもは相手にする悠香も、口をつぐんで
台所へと向いた。
「冗談じゃないわよねえ。こうなったら、一致協力して、おいしいと言わせる
料理、意地でも作らなきゃ」
静かに気合いの入る悠香。
「ユカったら、そんなに熱くならなくても」
公子はなだめにかかる。
(何を言われたって、私、レパートリーがないんだもの)
三角巾にエプロンを着け終わった要は、どうしていいか分からないという風
情。恐らく、秋山に食べてもらえるというだけで舞い上がっているのか、緊張
しているのか……。
「何を作るつもり?」
気になってたまらないのか、秋山が顔を出す。
「ハンバーグよ」
要が真っ先に返事した。
「ミンチは出来合いの物を色々とブレンドして」
「あー、そこら辺は聞いても分からないから、任せたっ!」
要がうれしそうに続けるのを、秋山は止めさせた。
後ろから、頼井が言い添える。
「そうそう。うまけりゃいいの」
「ったく、こっちの苦労も知らないで」
悠香はそのミンチの混ぜ合わせをやっている。
秋山が頼井を引っ込めさせて、話を続けた。
「楽しみだな。ただ、前みたいに手伝えることがあったら、手伝おうかなと思
って。待っているだけなのも退屈だし、気が引けるし」
お米を洗っていた公子は、つい、くすっと笑えた。
(案外、秋山君も気遣い症なのね)
などと考えてやっていると、指の間からお米の粒が流れていきそうになり、
あわてて指のすき間を閉じた。
「この水中めがね、誰のだ?」
突然、居間から石塚の声がした。
「こんな季節に水中めがね?」
訝しげにする要と悠香の横で、公子はすぐ思い当たった。
「秋山君、あなたね?」
「……そうだよ」
顔をそらし加減に、恥ずかしげにする秋山。
その表情を、公子はにこにこと覗き込んだ。
「ふふ、たまねぎ対策ね」
「前、泣けてきたのが腹立ってさ。……石塚の奴、勝手に人の物を見やがって」
「たまねぎ、ハンバーグにも使うから、やってみる?」
「折角だから、やろうよ」
要も誘いにかかる。
「それじゃあ、秋山君にはたまねぎ切ってもらおうかな」
決定事項のように告げたのは悠香。
「……ご期待に応え、やってみましょう」
腕まくりをする秋山。そして冗談っぽく叫んだ。
「おい、水中めがね、こっちにくれよ」
一部の悪戦苦闘の末、ハンバーグの完成を迎えた。
「……ちょっとだけ、こげたかな」
皿の上に並んだ物を見て、そう感想をもらしたのは、作った当人達。片面は
こんがりといい色に焼けているのだが、もう片面が少々黒い。
「こげ目って、がんになるって言うぞお」
自分も食べる身でありながら、皆をおどかす頼井。
「そんなに気になるなら、削ってあげようか」
あらかじめ用意していたらしい包丁を持ち出す悠香。その目は笑っているが、
結構、恐い図ではある。
「気にすることないだろ」
石塚が楽観的に述べた。初めてありつける彼としては、何でもいいのかもし
れない。
「早く食べないと冷める」
秋山は満足そうな表情。今回、彼はたまねぎをうまく切れただけで幸せに違
いない。
「いっただきまぁす」
声は六人そろってだが、食べ始めたのは男子三人のみ。作った方としては、
相手の感想が気になって仕方ないもの。
「公子……あんたの気持ちが分かったわ」
悠香が小声で言った。
「でしょ? 嫌なのよねえ」
二人の間で、要は目を閉じ、お祈りの格好までしている。
「うまい」
秋山が最初に言った。
悠香と公子はほっと一息。要は目を開け、さっきまでのおどおどぶりから一
変、手を叩いてきゃあきゃあ言っている。
「へえ、こういうの作れるんだ」
石塚は素直な反応。自分がかじったところから、中の肉をしげしげと見てい
るのが何ともおかしい。
「ん、まあ……見た目ほど凄くはないな。ハンバーグの味がする」
頼井は、憎まれ口を叩かずにはおられないらしい。
「ほほ。参ったか」
悠香が元気よく言って、自分も箸を着け始める。
「えへ、自信ついちゃった。次、また別のに挑戦しようかな」
「カナちゃん、一人でやれるようになったからの方がいいわよ」
「あ、ひっどーい、キミちゃん。私だってがんばったんだから」
「花形のハンバーグ、作ろうとしたよね」
終始、作業を見ていた秋山が、おかしそうに指摘した。
「あ、あれは、かわいいかなと思って。くずれちゃったけど」
「型抜きがあればできたかもね」
「どうせうちには、クッキーの型抜きなんて物はございませんよ」
「そういう意味で言ったんじゃあ」
悠香をなだめる公子。
やがて食事も終了。後片付けしてから、引き続いてゲームやらお喋りやらで
一時間ほど過ごした。
「だいぶ遅くなっちゃたな」
時間を確かめ、帰り支度に取りかかる。
「次は学園祭の打ち上げかな。日本拳法部か新聞部の打ち上げにかこつけてさ。
それか、同じように試験後」
「いいよね」
早くも次の際の相談に触れつつ、散会となった。
「じゃあ、今日はごちそうさん」
いつものように、頼井がいの一番に離れる。
「あ、公子ちゃん」
「え?」
別れた直後に呼び止められて、公子はあわてて振り返った。
「母さん、大事にしているから、安心してよ!」
「……もう」
冗談に付き合わされて、気分が疲れた。
(でも、ほんと、いいとこあるよね、頼井君。どうしてユカと口喧嘩するのか
分からないけど)
それからしばらく歩いて、今度は石塚が離れる。
「新聞に料理コーナー、作れるかな? 女子に得意料理を披露してもらうって
いう企画」
「あは、難しいと思うけど。続かなくてさ」
「そう言わずに、第一回に出てみない?」
そんなことを言い残して、石塚も帰っていった。
いよいよだ、と公子は思った。
(どうせ私、いなくなるんだから、今から二人がうまくいくよう、状況を作っ
てあげなきゃ)
ふっと息をついてから、公子は演技を始めた。まず、立ち止まる。
「あっ」
「どうしたの、キミちゃん?」
左隣を行く要が足を止め、聞いてきた。
「忘れ物しちゃったみたい」
「ほんと?」
一番車道寄りを歩いていた秋山も足を止めた。
「ああ、どじっちゃった。取りに戻るから、二人とも、先に行っててね」
「危ないよ」
気にかけてくれる秋山。
「いっしょに戻ろうか」
「い、いいわ。カナちゃんに悪いし」
「私、かまわないよ」
「いいって。じゃ」
振り切って、公子はこれまで来た道を引き返すべく、かけ出した。
(どうして……優しいの?)
少し、涙が出そうになった。
悠香の家の前まで戻らなくとも、途中、適当なところで時間をつぶそうと思
っていたが、知らない内に、ほとんど引き返してきてしまっていた。
「あは」
夜空を見上げる。ほとんど星は見えない、今日は曇り空。
でも、かすかな星の光でさえ、今の公子の目にはまぶしい気がする。
(痛いよ)
目尻ににじんだ涙を指先でぬぐい、視線の高さを元に戻す。
と、向こうから来る人影が見えた。
(……あれ……頼井君)
見間違いかと思って、目をこする。しかし、それはやはり頼井だった。
「どうしたの、公子ちゃん?」
「えっと……忘れ物して……取りに戻ったとこ」
演技を続けても大丈夫と確かめつつ、公子はゆっくり答えた。
「頼井君こそ、どうして出かけてたの?」
「−−君に言われた通り、母親を大事にした結果だよ。ほら」
軽く笑う頼井。手にはビニール袋。公子は首を傾げた。
「母さんから買い物を頼まれて、コンビニまで走ってきたところさ」
「だったら、早く渡してこなきゃ」
「今夜中に手に入ればいいんだ。それより、嘘だろ」
「え……」
「忘れ物。かばん閉じたまま、夜歩いているときに、忘れ物に気づくなんてね
え。それに、ユカのところに寄った様子もないし」
「……ばれちゃったか」
舌をちらっと出す公子。
「今から一人は気になるな。送るよ」
「そんな」
「いいから、ちょっと待ってて。こいつを母さんに渡してくる」
手にしたビニール製の買い物袋をかざしてから、頼井は自分の家にかけ込ん
でいった。そして一分もしない内にまた飛び出してきた。
「行こう。公子ちゃんの家、どこだか知らないけど」
二人は並んで歩き始めた。
「続きになるけど、どうして忘れ物したなんて、そんなお芝居をするんだ?」
「べ、別に理由なんて」
「理由がないってことはないでしょうが。理由もなしに、忘れ物をしたふりを
して、ここまで戻って来たら、変人だぜ」
「……誰にも言わないでね」
そう切り出したものの、どこまで話すかまだ決めかねている公子。
「言うなってんなら、言わないよ。頼井健也、口は軽いが約束は守る」
頼井のおどけた話しぶりに、少し、気が楽になった。
「−−あのね、カナちゃんは、秋山君が好きなの」
「うん、そうだろうね。あれだけあからさまだと、端から見ていて分かるよ」
「でも、もう一歩、進まないのよ。だから、二人きりにしてあげようと思って」
「待った」
頼井の口調が、にわかに真剣味を帯びた。公子はびくりとして、相手の顔を
見上げた。歩みが遅くなる。
「どうしてだよ? 公子ちゃんこそ、秋山が好きなんだろう?」
――つづく