AWC かわらない想い 14   寺嶋公香


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★タイトル (AZA     )  99/ 7/31  22:39  (200)
かわらない想い 14   寺嶋公香
★内容
「本当の勝負は二百メートルで着けようぜ」
「いいぜ。返り討ちだ」
 気取った調子で返した頼井。しかし……。
「いやあっ。勝ったらだめよ、頼井君」
 要の声にこけそうになってしまった。
「な、何で。要ちゃん、同じ紅組を応援してよ」
「あははは、他にどれだけ女子が声援してくれようと、ここにおられる女子は
おまえの味方じゃないんだな」
 秋山が愉快そうに笑った。
「ちぃくぅしょう〜」
 まんがめいた声で、悔しさを表す頼井。芝居っぽい。
「どうしてこんな奴がもてるのかねえ」
 悠香の一言で、場にどっと笑いが生まれた。

 二百メートル走の開始を目前にして、白組応援席に、悠香と要がやってきた。
「あっちにいたらやばいわ」
 悠香は手をうちわ代わりに、顔をあおいでいる。
「健也くーんとか頼井先輩とか、凄い。どうしてだか分からないけど」
「だからこっち来ちゃった。秋山君を応援したい子も、結構いるみたいなんだ
けどね」
 要の言葉に公子は素直にうなずけた。
「ふうん、秋山君もかなり人気あるもんね」
 と言った瞬間、後ろの方で歓声が起こった。
「秋山先輩、がんばってくださーい!」
 紅組白組の区別なしに、一年の女子が並んでいた。
「うわ、すご」
「ほらほら、カナ。あんたも負けてられないでしょうが」
 悠香に促されて、要も声を張り上げる。
「秋山君、負けちゃ嫌よ!」
 それが合図になったかのように、今度は紅組応援席からの、「頼井せんぱー
い」だの「健也くーん」だのの声援が一層大きくなった。まだ秋山と頼井の組
が走るのは先にも関わらず、である。
「何だか、一騎打ちみたいになってきたわね」
 公子が感じたままを言うと、悠香は、
「そうね。これで他の誰かが勝ったら面白いんだけど」
 などとひねくれたような物言いをする。
「ユカったらあ」
「ん、まあ、それはないわね。去年の記憶では、あの二人、かなり足が速いも
んね」
 いよいよ、秋山と頼井のいる組。彼らを含めた六名の男子がゆっくりと、あ
るいはさっと立ち上がり、定位置に向かう。足場をしっかりと定め、クラウチ
ングスタートの態勢に。その間も、歓声はほとんど途切れることがない。
 スターターが手を上げた。アナウンスが入る。
<位置について。よーい−−スタート!>
 始まった。
 スタートは四人がほぼ横一線。無論、秋山達も入っている。
 最初のコーナーで、頼井がトップに立った。ちょうど紅組応援席の前。歓声
が一際高くなる。
「秋山君! がんばれ!」
 公子は思わず立ち上がり、声援を送る。
(届け!)
 ストレートラインが続く。その中程がちょうどレースの中間点でもある。
 頼井が飛ばす。秋山が食らいつく。もはや、レースは二人の一騎打ちの様相
を呈してきた。
 百メートル地点まで頼井がトップだったが、そこを越えた辺りから、差が縮
まり始めた。ぐんぐん追い上げる秋山。
 そして第二コーナー、今度は白組応援席の正面で、競り合いの末、ついに秋
山が頼井を抜き去る。
 再びわき起こる大歓声。今度は頼井が必死になって追う。
 しかし、残す距離は少ない。抜かれた者がまた抜き返すには、無理があった
ようだ……。
 二百メートル走の次のプログラムは、一年男子の演技目だったので、応援に
回らなくてもいい。
 そこで、体力は回復したが精神的に参っている様子の男子二人を、公子達は
ねぎらった。
「惜しかったね」
 秋山が勝ててうれしいのだけれど、こういうとき、公子は負けた方に気を遣
う質である。
「ありがとう、公子ちゃん。しっかしなあ、負けるなんて考えもしなかっただ
けに……ショック」
 体育座りのまま、膝に額を載せる頼井。
「これが実力だぜ」
「何を言うか、百メートルまでは俺が勝っていた」
「だから、これは二百メートル走なの」
「ぐっ……」
 負けると、やはり強いことは言えないもの。そこへ、悠香が追い打ちをかけ
に出た。
「女子の声援に押し潰されたのかしらねえ」
 頼井に、女子はほとんど駆け寄ってこなかった。もっともそれは二着のせい
ではなく、悠香がいるせいかもしれないが。
「嫌になっちゃうねえ。ユカにしろ、要ちゃんにしろ、紅組のくせして、秋山
の応援だもんな。それに引きかえ、公子ちゃんの優しいこと。敵同士なのに、
どうもありがとう、なぐさめてくれて」
 うれし泣きの真似をする頼井。
「あの、別に私、白とか紅とか関係なく、二人とも友達だから、どちらにもが
んばってほしくて……」
「それでもいいんだよー。来年、同じ組になれたら、どんなに心強いことか」
 頼井の何気ない言葉に、公子はどきりとする。
(来年はないの、私……)
「さて、さっきの白組の勝利で五分に戻したはずだ」
 秋山は、遠くにあるスコアボードを眺め見た。
「あとは三年生の騎馬戦を残すのみ」
「もう、俺はどうでもいいぞ。おまえとの勝負に負けちまったんだから、三日
間、部活帰りのパンをおごってやらなきゃな」
「そ、そんな賭け、してたの……」
 あっけに取られた公子に対し、さも当然という顔で、男子二人はうなずいた。
 要も驚いて、両手で口を覆っている。比較的冷静なのは、やれやれとばかり
に首をすくめた悠香一人だった。
(パンの賭け……。私のあの必死の声援は何だったのよー、いったい!)
 情けなくなってきた公子であった。

 プログラムの最後の出し物は、フォークダンス。学年毎に輪が一つ作られ、
女子と男子がペアになって曲に合わせて踊り、曲のワンフレーズごとに相手を
変えていく。曲は一回だと短すぎるので、二回流すのが通例になっている。
 輪は、クラス単位で一組から順に並んで作られるので、公子は秋山とは非常
に近い位置にいられる……のだが、秋山はクラス委員ということで先頭に立ち、
当然、公子はそれよりも後ろ。このダンス、女子は動かず、男子が前へ前へと
ずれていくため、秋山と公子との距離は徐々に開いてしまう。二人がペアにな
るのは、ほぼ一周りしなければならないのだ。二回の演奏では、届きそうにな
い。
 音楽が流れ始めた。最初、一部の者を除いて、どこか気恥ずかしげに手に触
れ、ぎこちなく踊る。それも回数を重ねる内に、すぐに慣れてくる。
(ああ、遠くなっちゃう)
 秋山の方をときどき見やりながら、公子はダンスを続けた。たまに失敗して、
相手とぶつかりそうになってしまう。
「ちゃんと相手を見てくれなきゃ」
 次のペアの相手が、いきなりささやいてきた。もちろん、曲は続いている。
「あ、頼井君」
「どうぞよろしく」
 さすがに慣れているとすべきか、うまくリードする頼井。
「そんなに秋山のこと、気になる?」
「え−−」
(気づいている?)
 公子は顔が赤らむのを感じた。
「どうして……」
「見てたら分かる。安心しなよ、秋山まで回してやるよ。回してみせる」
 ペアが変わる瞬間に、頼井はそう言った。
(まさか? どう考えたって、回ってこないわよ。曲を二回流すだけじゃ、と
ても……)
 頼井の冷やかしだろうとは思っても、何かしら期待してしまう公子。
 秋山はと見ると、ちょうど要と踊っているところだった。
(カナちゃん、うれしそう……。いいな。秋山君はどう思ってるんだろ)
 秋山は誰と踊っていても、同じ笑顔をしているように、公子には見えた。
 それからしばらくして、二回目の曲が終わった。
「アンコール!」
 不意に叫んだのは、頼井とその周りの男子達。
 徐々に広がる波紋。やがてその声は束となり、大合唱になった。
 先生らが数人集まって、時計を確かめるような仕種。
 ざざっと、アナウンス前の雑音が入る。生徒達は静かになった。
<アンコールの声が多いので、特別に−−>
 アナウンスの続きをかき消すような、大歓声が起こった。
 公子もその場で、軽く飛び跳ねてしまう。
(頼井君たら、こういうことだったのね。これまでなかったアンコールを認め
させちゃうなんて、凄い)
 見ると、うまく頼井と視線があった。小さくピースサインをしてきたので、
公子も同じく小さなピースサインを返した。
 曲が始まった。
(あと八人で、秋山君とペア)
 どきどきする。秋山が近づいて来るに従い、まともに顔を上げていられなく
なる。
「公子ちゃん」
 来た。
「大丈夫?」
「う、うん、平気!」
 秋山に手を握られた途端、いつもと違って元気が出てきた公子。胸の鼓動も、
すーっと落ち着く。
(うれしい−−今年、こうして踊れなかったら、もう次はなかったもの。あな
たと踊れるの、これが最後かもしれない。だから、しっかりと記憶に刻んでお
くわ。秋山君も、少しでいいから覚えていてほしいな……)
 フレーズが終わり、手を離す瞬間、公子は全神経を自分の指先に集中させた
つもり。名残惜しくてたまらない。
(終わっちゃう……。素敵なリード、ありがとう。素敵な思い出、もらいまし
た)

 運動会がすむと、試験を挟んで、学園祭。そしてまた期末試験と、二学期は
何かとせわしない。
 中間試験を終え、例によって打ち上げである。場所、参加者とも前回と同様。
「勉強会をやった成果、出た?」
 その席で、公子は要に聞いてみた。
「分かんない……。ひょっとしたら、かえって悪くなったかも」
 声のトーンを落とし、ひそひそ話になる。
「何故? あれだけやったし、秋山君がいっしょだからはかどったと思うし」
「思い返してみたら、私って、秋山君の顔ばかり見てて、試験勉強は手につか
なかったみたい」
「何とも……」
 笑うに笑えない。
「何の話してるの?」
 石塚が訝しげにしている。
「あ、石塚君。だいぶご無沙汰してたようだけど……?」
 話の内容まで突っ込まれないようにと、公子は相手に聞き返した。
「新聞部の関係で、ちょっと。学校新聞のコンテストがあって、それにかかり
きりだった」
「へえ。結果は?」
「まだなんだ。一月の中頃に分かるんだったかな」
「一月……そう。楽しみね」
 一月という言葉に、必要以上に反応してしまう。
「もうすぐ学園祭だけど、新聞部って何をするんだっけ?」
 話題転換のため、去年の記憶をたぐった公子だが、しかと思い出せない。
「特に展示はしない。写真部と協力体制の下、部員が記者になって、学園祭そ
のものの取材をするんだ」
「ああ、何かやってたなあ、インタビューみたいなこと」
 割り込んできたのは頼井。どうやら、悠香から逃れてきたらしい。
「インタビューはいいんだけど、あれ、女の子と話しているときに仕掛けられ
ると困るんだよな。もうちょっとで落とせそうなのを、逃がしちまう」
「なるほど。邪魔しないよう注意しておこう」
 もはや冗談の応酬といった感じ。
「おーい、公子に要。何やってんの」
 お玉を持った悠香が、顔を覗かせた。

――つづく




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