AWC かわらない想い 12   寺嶋公香


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★タイトル (AZA     )  99/ 7/31  22:37  (200)
かわらない想い 12   寺嶋公香
★内容
 公子の感想の通り、ドーム状の屋根と壁との境目を、家並みに似せた影絵が
ぐるりと取り巻いている。
「そう、雰囲気を出すためにね。方角も記してあるだろ」
「ほんと」
 確認してみると、公子達のいる席は、ほぼ真南ということになっている。こ
れが実際の方角と合致しているかどうかは、はっきりしない。プラネタリウム
のための便宜上の方角かもしれないから。
「始まったら、私語厳禁になってるから、喋るのなら今の内」
 明かりが落とされていくホール内で、秋山の冗談めかした口調が聞こえる。
「そうだな。うんうん」
 妙に納得してる頼井。どうしてなのか、悠香と隣り合って座っている。
「何が、うんうん、よ」
「おーい、まじで静かにしてくれよ」
 やれやれといった調子で注意した秋山。
 比較的小さな音で、ブザーが鳴った。出入り口の扉は、いつの間にか閉じら
れていた。ざわめきが静まり、女性の声でアナウンスがかかる。
<ただいまより、プラネタリウムの上演を行います。本日のテーマは、秋の星
座と流星群となっております。上演時間は約一時間十分。上演中はなるべく私
語をお慎みください。外にお出になる際は、出入り口におります係の者にお申
し出ください。また、携帯電話もしくはポケットベルをお持ちのお客様は、電
源を切っていただくようお願い申し上げます。−−間もなく、開始いたします>
 一度は静かになった場内だが、子供連れが多いせいだろうか、また少しざわ
つく。赤ん坊らしい泣き声まで、聞こえるくらい。
(始められるのかしら)
 公子の不安を打ち消すように、それは始まった。
 どこかで聞いたことのある、懐かしいメロディが静かに流れ出し、まず、夕
方の景観が、ドームの天井内側に投じられた。西の空がオレンジ色に染まり、
その他の方角は段々と暗くなっていく。ぽつぽつ、星が現れ始めた。「あ!」
という声が、そこここでこぼれたが、それだけで収まる。
 西の空の色はオレンジから赤へと変わり、瞬く間に暗さを増していった。目
に見えて沈む太陽を意識するのは、どことなく不思議な感覚を誘う。
 すっかり夜となり、音楽が途絶えたところで、今度は男性のアナウンス。
<秋の夜空を彩る星々、その一番手達が顔をそろえました>
 優しげな声だ。ふと気づけば、北方向のやや奥まったところにスペースがあ
り、男の人が座って、マイクに向かっている。
<しかし、本当にすべての星が出そろったわけではありません。今、皆さんの
頭上に展開している星空は、いつも目にされている星空とさほど変わりはない
でしょう。街には、照明やネオンといった光があふれています。普段の生活に
は必要ですが、星を眺めるにはちょっと邪魔です。そこで、少しの間、消して
もらいましょう>
 一拍の間を置いて、夜空が変わる。これまで見えなかった星々が、一気に現
れた。これには誰もが声を上げてしまった。
<いかに街の光が明るすぎるか、お分かりいただけたましたか? でも、これ
でもまだ、少し寂しいですね。月があるからです。お月様も星には違いないの
ですが、明るすぎます。お願いして、休んでもらいましょう>
 東方の空にあった月が、ぱっと消える。と同時に、さらに小さな星々が姿を
見せた。再び、「わぁー」という歓声。
<これが本当の星空です>
 観客の歓声を気にする様子もなく、絶妙の間で男の人のアナウンスは続いた。
 星座の解説が始まる。ドーム天井に投影された白い矢印を指示棒代わりに使
っての説明だ。
 最初、星を一つ一つ指し示し、星座の形を説明し始めたが、すぐに「分かん
ないー」という子供の声が飛ぶ。
<おや。参りましたね>
 おどけたような口振り。
<そうだ、これを忘れていました>
 次の瞬間、空一杯に様々な絵模様が映し出され、また歓声。
<星座を分かりやすい絵にしたものです。これで見ていきましょう>
 解説ぶりに、感心してしまう公子。
(私語を慎めなんて、建て前だけ? 解説の人も、声がある方がやりやすそう)
 それから知っている星座を探そうとする。
(さそり座は季節が違うから……と言って、オリオン座は早すぎるし。あとは
カシオペア座とペガサス座ぐらい)
 改めて見ると、聞いたこともない、謎めいた名前の星座が数多い。とてもそ
の形に見えない物も少なくなかった。
 カシオペア座では、北極星の見付け方も説明された。そして、常に真北を示
す北極星も、何千年もの間には変わるという話も付け加えられた。
 代表的な星座の紹介が終わったところで、星座にまつわる神話に話題が移る。
<今回は、有名な勇者ペルセウスとアンドロメダ姫の物語をしましょう>
 天の一角に白く四角いスペースがとられた。そこにギリシャ神話を語る絵が、
スライド方式で写される。
 エチオピアの王妃カシオペアの娘、アンドロメダは美しかった。カシオペア
が娘の美しさを「海の妖精よりも美しい」と自慢したことが、海の妖精やさら
には海の神の怒りに触れた。
 海神はエチオピアの海でおばけくじらを暴れさせた。そしてくじらを鎮める
にはアンドロメダ姫を生け贄に差し出すよう、カシオペアに命じた。姫は海に
面した岩壁に鎖でつながれ、いましもくじらに襲われそうになった。
 そのとき、天馬ペガサスに乗った勇者ペルセウスが現れ、くじらの前に降り
立った。彼は南海の果てにある国で退治したメデューサという怪物の首を、く
じらに対して突き出した。メデューサは髪の毛一本一本が蛇になっており、そ
の恐ろしい顔をまともに見た者は誰であろうと石になってしまうという、恐ろ
しい怪物。そんな怪物の首を見せられては、さしものばけものくじらもひとた
まりもない。見る間に石と化し、ずぶずぶと海底に沈んでいった。
 ペルセウスはアンドロメダ姫を見初め、二人はのちのちまで幸せに暮らした
という……。
(冷静にたどると都合のいいところもあるけど……運命の人とは結ばれるって
ことかしら)
 ふと、隣の秋山のことがよぎる。けれど、そのもう一つ向こうの席に要のシ
ルエット姿を認め、公子は頭を振った。
 解説の内容はメインテーマである流星群に入っていた。流星群にはそれぞれ
活発な時期があり、先のペルセウス座の流星群がこの間終わったところで、次
にある代表的な流星群はオリオン座のそれだという。十月中旬から下旬にかけ
てのことというから、もう少し先だ。
<では、少し時間を進ませ、十月二十日の夜空で、オリオン座流星群を見てみ
ましょう>
 一時間に平均三十個ほど飛ぶという流星は、仮想現実とはいえなかなかきれ
いに映った。つい、願いごとを三回、唱えたくなる。
 やがて、白々と東の空が明るんできた。天に浮かぶ星座も、秋の星座から冬、
さらに春のものになりつつあったが、それもかすれていく。
<今日、皆さんがご覧になった星々を実際の空でも確認できれば、大変うれし
いことです>
 そんな言葉で上演はしめくくられた。
 ホールから出て、口々に感想を漏らす。
「面白くて、全然、眠くならなかった!」
 要は無事乗り切ったせいもあるのか、嬉々としている。
「でも、解説は秋山君にしてほしかったなあ」
「あそこまでは、とても無理だよ」
 苦笑いする秋山。
「頼井の方が知ってるんじゃないか? 何度も足を運んでんだろ」
「自慢じゃないが、星よりも女の子が気になる質でしてね」
「ほんと、自慢にならん」
 相変わらず頼井をくさす悠香。
「一つ、疑問に思ったんだけど」
 いい?という気持ちを込めて、秋山の顔を見る公子。秋山は、少しだけ首を
動かし、先をうながしてきた。
「ギリシャ神話で、ペルセウスがアンドロメダ姫を助けるのは、まったくの偶
然? おばけくじら退治のためにメデューサの首を穫ってきたんじゃないの?」
「本でも読んだことあるけど、たまたま通りがかっただけみたいだね」
「それなのに、いきなり結ばれるの?」
「それは……命の恩人ということで」
「俺、映画で観たことあるけどさ」
 頼井が割って入った。
「ちょっと古い映画、レンタルして観たんだ」
「デートの一環で?」
 悠香の茶々に、大まじめにうなずく頼井。またはたかれた。
「ててて……。で、『タイタンの戦い』っていうタイトルだった、確か。それ
がペルセウスの話そのものなんだけど、実際のギリシャ神話とはちょっと違っ
てた記憶があるな。さっき、公子ちゃんが言ったように、アンドロメダを助け
るためにペルセウスはメデューサ退治に出向いたはずだ」
「やっぱり。その方が、話としてはまとまりがつくわ」
 とは言ったものの、運命的な出会いの方が、ロマンチックかなとも思えてく
る。難しいところ。
「ねえ、ペルセウスがメデューサを退治する、詳しい話はないのかしら?」
 要が秋山に尋ねた。
 秋山は微笑んで、説明を始めた。
「あるよ。そこの部分は結構、諸説あって、ややこしいんだけど−−」

 運動会が近づいていた。
 普段の時間割を調整し、学年ごとの合同体育の時間を増やす。当然、公子達
も同じ時間にするようになるわけだ。
「二時間連続はきついけど、いっしょにいられて楽しい」
 休憩に入って、三人で集まる。
「秋山君が近くにいてくれたら、もっと楽しいんでしょうねえ、あんたは」
 悠香があきれている。それをあっさり認める要も要。
「そうだけどぉ……こういうときは呼びにくいものね」
 ちらっと、男子の方を見やる要。秋山はそちらで元気よく喋っている。
「ふむ。何とかしてやれないこともない」
 悠香が何か探るように言った。
「ユカ?」
 公子と要がそろって聞き返すと、悠香は気の進まない表情を深めている。
「……秋山君を呼ぶの、簡単だよ」
「どうやって?」
「頼井といっしょにいること多いでしょ、秋山君。だから、私が頼井のばかに
声をかけたら」
 なるほど−−公子と要はうなずき合った。
(それでユカったら、そんな複雑な表情してんのね。でも、頼井君て悪い人じ
ゃないよ。そう思う)
「まあ、そこまでしなくても。時間、中途半端だし」
「呼ばなくていいのなら、私も助かる。それより、カナ」
 と、悠香は真剣な顔つきになって、要に視線を投げかけた。
「はい?」
「あなた、どうするの? 秋山君との仲、だいぶよくなったみたいけど」
 唐突な切り出しように戸惑ったのは、要ばかりでないだろう。公子もどぎま
ぎしていた。
(こんなときに……)
「そ、そうかな」
 照れた様子の要。
「そうだよ。だけど、それ以上、まるで進んでない。いつまでたっても集団デ
ートでいいわけ?」
「そ、それは−−」
「早く二人だけのデートをするようになって、そこからまた、自分の気持ち、
打ち明けるまで持っていかないと」
「……できるかしら」
 軽く握った右手を胸に持っていく要。
「ねえ、公子もそう思うでしょう?」
 不意に、悠香が話を振ってきた。
「え? あ。ええ」
 要の様子ばかり気にしていた公子は、曖昧な返事しかできない。悠香が、不
思議そうな目で見返してきている。
「どしたの? ……ま、いいか。そろそろ手を引くべきではないかと、私は思
うんだけどね」
「手を引くって」
「私達が引っ付いていくの、よそうってこと。もちろん、頼井や石塚君もね」
「……カナはどういう気持ち?」
 無理に作った笑顔で、要に問う公子。自分の気持ちがばれてしまわないかよ
りも、要の意志が気になる。
「この間のプラネタリウムのときは、まだ恥ずかしがってたみたいだけど」
「うん、そうなのよね。みんながいてくれたら、話せるのよ、多分。それが二
人きりになんてことになると、もうだめ! 血が上ったみたいに顔が熱くなっ
て、何を言い出すか、自分でも分からなくなるわ」
「らしくないわねえ。カナの性格、よく分からん」
 ため息をはきながら悠香。
 公子の方は、心の中で、ほっと一安心の息をつけていた。
「結局、まだまだ集団デートが続けたいと?」
「うん、ユカちゃん。それがいいと思うの。私、自分に自信ないから、まだ」
「あーあ」
 無駄だったかという具合に悠香が伸びをしたところで、休憩時間の終わりを
告げるチャイムが鳴った。

――つづく




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