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★タイトル (AZA ) 99/ 2/13 23:22 (199)
参加作品>かわらない想い 3 寺嶋公香
★内容
「どういう人、頼井さんて? どういう関係?」
自分のことは忘れたか、要が興味深そうに尋ねた。
「小学校のときからの腐れ縁。ずっとクラスが同じだったの。中一のとき、や
っと離れたと思ったら、今度また同じになっちゃってね」
「いっしょに帰るってのは? 腐れ縁だけでそんなことしないよ」
「誤解もはなはだしいっ。家が隣同士なの」
「なるほどね」
分かったというように、秋山。
「あ、ごめん。話の邪魔して」
一歩下がる悠香。途端、要は自分の立場を思い出したようで、見る間に顔を
赤らめた。
「こっちこそ、余計な話を持ち出して悪かったかな。ごめんね、寺西さん?」
秋山が、うつむいている要を覗き込むような形で声をかける。
「ううん、いい」
「そう? でもまあ、よかった。色々と分かったから」
にやっと、意地悪そうに笑う秋山。
(? 何が分かったのかしら?)
公子は心の中で首を傾げた。
「頼井と野沢さんが幼なじみであるってことの他に、寺西さんが結構、お喋り
だってことも」
「やだ」
ますます赤くなる要。
「最初に見たとき、公子ちゃんより大人しい子が来たぞって思ったんだけどね。
本当はよく喋るんだ」
「だ、だって緊張しちゃって」
そう言う要の後ろで、公子も赤面しかけていた。
(うわー、今でも大人しいって思われているんだわ! 男の子と話すのが、ち
ょっと苦手なだけなのに)
身体の向きはそのまま、顔だけ横を向けて、ほてったのをみんなに見られな
いようにする公子。
「もう緊張しなくていいじゃない? 素のままの寺西さんで」
「そうかな……」
「そうそう。それで、話ってのはこれでおしまい? 時間、やばくなってきた
んだけど」
二度目の時間確認をする秋山。
「秋山君、まだなの。ほら、カナ」
黙っている要に代わり、公子がつないだ。実のところ、これだけ話すのさえ、
公子にとっては大仕事なのだが。
「えっと、今度の日曜か次の、ううん、いつでもいいから休みの日、私達と遊
びに行くのって、どうかなって……」
「『私達』って、君達三人?」
面食らったように、目を丸くする秋山。
要が言ったことは、あらかじめ三人で決めていた『計画』の通り。いざ、紹
介してもらえるとなった要は、早くも秋山を遊びに誘いたがっていた。それで
いて、いきなり一対一は恥ずかしいからということで、公子や悠香も巻き込ん
だ形を取る案を申し出てきたわけである。
無論、公子の気持ちは誰も知らない……はず。
「うん、そう。できれば、秋山君の友達二人、連れて来てほしい……」
「ああ、そういうことね。いきなり三人にもて始めたのかと思った」
これも冗談っぽく、秋山は笑った。その言葉が、公子をどきどきさせる。
「いい?」
恐る恐る、探るように聞いた公子。対して、秋山は明朗に答える。
「いいよ。他の二人に聞かないといけないから、次の日曜は無理だろうけど、
その次なら多分、大丈夫」
(よかった……)
と思って、お礼を言おうとした公子より先に、要が歓声を上げた。
「きゃっ! うれしい、ありがとうね、秋山君」
「はいはい、どうも。そんなにうれしがらなくても……。こっちは誰を連れて
いこうか悩んでいるんだし。公子ちゃん、ご希望は?」
「え?」
いきなり聞かれ、戸惑ってしまった。公子はぽかんと口を開け、相手を見返
す。
「遊びに行くとき、誰がいたらいい? 僕は結構、顔が広いつもりだから−−
あはは−−なるべく努力するよ」
「そ、そんな。私は別に……」
公子は、自分の顔の前で何度も手を振った。
(あなたがいれば、それだけでいいの)
と、言いたかったけれど、言葉に出せない。
(私の想い、絶対、表してはいけない。少なくとも今は……)
「キミちゃんは今のとこ、好きな子いないんだよねえ」
要が言った。彼女をにらむわけにもいかず、ただただ笑みを送るしかない公
子。
「そうなのかあ……」
どことなく拍子抜けした様子の秋山に、悠香が聞いた。
「私には尋ねてくれないのだろうか?」
「え? ああ、聞くまでもないと思ったから」
「どして?」
「だって、頼井を連れてけばいいんでしょ」
わざとなのか、まじめくさった調子の秋山。
「じょ、冗談を! 私の理想は高くてね、あいつなんかとてもとても」
「そう? かなりいい奴だと思うけど、あいつ」
「全然。付き合いが長いと、色々見えてくるのよねー」
「じゃ、他の奴を」
「待って。別に誰でもいっしょよ。それぐらいだったら、よく知っている奴の
方がいい」
多少、急ぎ加減に言い添えた悠香。
(ユカって、何だかんだ言って、頼井君っていう男子のことを……)
そんな感じを受けた公子だったが、今は冷やかす気にはなれない。
「ふむ、了解。あと一人、適当につかまえてみる」
かばんを手に取ると、秋山は急に忙しそうに言った。
「どこで何をして遊ぶかは、また次ね。じゃあ、もう時間だから」
「あ−−本当にごめんなさい」
公子はもう一度、謝った。すると、優しい声が返ってきた。
「いや。ありがとう! 楽しみだよっ」
日曜日。三人は遊園地の入り口を前にしていた。
「遅いなあ」
ここに来てからずっと、同じことを言っているのは要。
「私達が早すぎたのよ」
超然と、悠香が指摘する。淡いピンクのワンピースで決め、髪も思い切り手
入れしてきた要に対し、悠香の方は折角の休みにも関わらず、Tシャツにジー
パン、髪はいつものように一つにくくったままという出で立ち。
「私が家を出るとき、頼井はまだ寝てたわよ。昨日の電話で、まだ早いって言
ったのに、誰かさんが『もし何かあって遅れたら悪いから』って泣きつくもん
だから」
「泣いてなんかないよー」
「泣きつくってのはね、本当に泣いてなくてもいいの」
と、わいわいやってる二人の横、少し距離を取って、冷や汗をかく公子。初
めの内は服−−クリーム系統の上着にチェックのスカート−−を気にする素振
りをして時間を潰していたけれど、段々と間が持たなくなってきた。
(もう、あんまり騒ぐと、人が見るよー)
恥ずかしくて視線を地面に落とそうとして、かぶっていた黒の帽子がずれた。
上目づかいに直していると、視界に知っている顔をとらえる。
「秋山君!」
さっきまで恥ずかしがっていたのも忘れ、公子は叫びながら、手を大きく振
った。いつもなら、大声を出すのも恥ずかしいのだが、今の状況はそれどころ
でない。
「早いなあ」
「ええ? まだ十時になってないだろ?」
そんなやり取りが聞こえる。同時に、要達も静かになった。
「悪い、待たせちゃったみたいで」
「そ、そんなことない。私達、早すぎて」
公子は、またうつむいて答えた。知らない男子がいると、何故かしら普通に
していられなくなる。
「そう言えば悠香、朝、ちょっと声をかけてみたら、もう出ちまってたな」
さらさらの髪をした、六人の中では一番背の高い男子が言った。
(この人が頼井君よね?)
公子の推測は当たっていた。
「よっぽど、楽しみにしてたんだな。普段、男と遊べないから」
「うるさいっ。いっつも色んな子と遊んでるあんたには、ちっとも楽しくない
でしょうねえ」
「どういたしまして。毎回、楽しくてしょうがない。今日は他の子を断るの、
一苦労だったんだぜ」
「おあいにく様。私達の中に、あんたの相手をする人はいないわよ」
早速、やり合い始めた頼井と悠香。
二人を無視して、秋山が取り仕切るため口を開く。
「とりあえず、自己紹介だな。僕はもういいだろうから、石塚からいくか」
石塚という男の子は、一見してまじめそうである。白っぽいシャツの上に、
紺のチョッキという格好だが、私服にあまり慣れていない雰囲気があった。
「五組の石塚安孝です。えー、秋山君とは一年のとき同じクラスで、出席番号
が近いせいもあって、知らない内にこういうことに。それと、ああ、新聞部や
っています。記事になりそうな話があったら教えてください。よろしく」
人当たりのいい声質だ。中身はどうか分からないけど、まじめな外見とこの
声は、新聞部の取材でも生きるのかもしれない。
「いつものように呼び捨てにしろよ。『秋山君』なんて……。ま、いいか。で
次は、野沢さんは知ってるだろうけど、こいつが頼井健也。四組だよな? 僕
と同じ日本拳法部」
「法律の方じゃないからね」
「え……? あ、そうか」
頼井の言葉に、一拍おいて笑えた。公子は秋山が日本拳法部に入っているこ
とを知っていたから間違いようがないが、初めて聞いた者なら「日本憲法」と
勘違いしてもおかしくない。
「くっだらなーい」
背後で悠香がぽつりと漏らした一言は敢えて聞かなかったことにして、公子
は挨拶する。彼女にとって、初対面の男子と話すのは、かなり努力を要する作
業だ。それでも、最初に冗談を言ってくれたおかげで、ずいぶん気持ちが楽に
なっている。
「あの、朝倉公子です。クラスは、えーと、秋山君と同じ三組。クラブは入っ
てません」
続いて要の自己紹介。
「寺西要です。二組で、クラブは入ってなくて……。あの、拳法部にマネージ
ャーっていらないですか?」
秋山以外なら気兼ねなしに話せるらしい要の質問を、頼井が引き取る。
「残念! すでに二人いるんだ。これ以上は無理。どうしてもってなら選手の
方にならないと」
「マネージャー、二人とも女子で、こいつ目当てに入ったのが見え見えなんだ。
参るよ」
と、頼井を横合いから指さす秋山。要が不満そうな顔をした。「頼井君より
秋山君の方が、絶対に格好いい!」とでも思っているに違いない。
「さて、最後は私か」
悠香が自己紹介を始めた。
「四組の野沢悠香。クラブは帰宅部。そこのちゃらちゃらした人とは何の因果
か家は隣同士、クラスもほとんどいっしょだったけど、うるさくてしょうがな
いわ」
悠香は溜飲を下げるかのように、言いたい放題である。
「この」
頼井が反論のために口を開きかけたところで、
「さあ、時間がもったいないから、入りましょ」
と、するりとかわした。
力が抜けた様子の頼井の周りで、笑い声が起こった。
クラスは違えど、公子達は三人いっしょにいる場合が多い。全学年上げての
大掃除のときもその例から外れない。
各組の受け持ちを巧みに代わってもらい、校庭をほうきで掃いていた。かっ
たるいとか何とか言いながらも、どうにか進んでいく。
じゃんけんの結果、ごみを捨てに行く役は要に決まった。
「ようやく慣れてきたね」
二人になったところで、悠香が唐突に話しかけてきた。
「何に?」
「男子と話すの、慣れてきたんじゃない?」
「それは……そうかもしれない」
初めて六人で遊園地に行って以来、似たような集団デートを何回か重ねてい
る。その過程で、公子もどうにか秋山以外の男子とも話すのに慣れてきた手応
えはあった。
「ほんと、心配したんだから。公子、それだけかわいいのに、話せないなんて
ねえ」
「かわいい−−って?」
――つづく