AWC 参加作品>かわらない想い 2   寺嶋公香


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★タイトル (AZA     )  99/ 2/13  23:20  (200)
参加作品>かわらない想い 2   寺嶋公香
★内容
 本当はうれしかった。けれど、やっぱり早すぎるという意識が働いたし、気
持ちが整理できていなかった。何よりも、秋山君と付き合い始めたとして、う
まく付き合える自信がほとんどなかったのだ。告白を受けておきながら、お喋
りさえ満足に続けられないとしたら、秋山君は怒るかもしれない。私もそれに
は耐えられないし……。
「だめ、なのかな」
 だめ、という単語が、ずしりと重たく聞こえた。あわてた。
「ううん! ……あの……あのね。わ、私、秋山君のこと、嫌いじゃない……
嫌いじゃないわ。けど……私達がそういうこと考えるのって、早すぎる、と思
う……」
「で、でもさ−−」
「それにね」
 秋山君の話を聞くと、ずるずる行きそうで恐かった。私は必死に声を出して
いた。
「それに……秋山君、急すぎる……。私……まだ、誰かと付き合うなんて……
考えられない」
「……そう……」
 秋山君、寂しそうに言った。そして笑った。無理矢理に作った笑顔だったか
もしれない。
「友達でいてくれるよね?」
「うん」
 初めて私は顔をしっかり上げ、こくこくとうなずいた。こちらこそ、友達で
いてくれなきゃ嫌−−そんな気持ち。
「それならいいよ……。ごめん、こんなこと、急に言って。公子ちゃんの気持
ちも考えなくて……」
「ううん、いいの。……いいから」
 私の顔は、きっと真っ赤になっていただろうな。ひょっとしたら、迷惑がっ
ているように、秋山君の目に映ったかもしれない。
「ほんと、ごめん。……じゃあ」
 ランドセルを一方の肩だけで担ぐと、秋山君は一目散に走り出した。
 私は、万が一にも秋山君と顔を合わすことのないよう、だいぶ時間が経って
から、校門を出た。

 これだけなら、いい思い出ですんだはず。けれど、翌日の朝、学校に着いて
からがよくなかった。
「ねえねえ、朝倉さん」
 下駄箱の前で、あまり親しくないクラスメートがいきなり話しかけてきたの
で、私は不思議だった。
「秋山君に告白されたって、本当?」
「え−−」
 どうして知ってるの? 見られてた? そういう疑問がわいたけれど、言葉
にならない。昨日の告白と同じくらい、ショックを受けてしまった。
「ねえ、本当なの? 教えて。それと返事は?」
「……誰がそんなことを」
「男子達、言ってるわよ」
 そう聞くなり、私はその子を振り切るようにして、走り出していた。教室に
かけ込み、噂していそうなグループを探す。
 しかし、先に質問責めにされた。女子も男子も関係なく、どっと集まってき
て、さっきと同じ質問を聞いてくる。
「や、やめてよ」
 弱々しい声しか出ない。私はまた赤面し、うつむいていた。
 そこへ、新たな歓声がした。秋山君も来たのだ。何の騒ぎだよとか言ってい
た彼は、その内、大声で言い始めた。
「してないよ、朝倉さんに告白なんて」
「嘘だあ。自分、見ていたんだ」
 男子の一人が声高に言った。
「昨日の夕方、国旗の台の下で、秋山君と朝倉さん、いっしょにいたとこ、見
たよ。あの様子、絶対、告白してたんだ」
「していない。たまたま、話をしてただけ」
 秋山君は否定を続けた。それが、私の心にずきずき来た。どうして本当のこ
とを言わないの? 恥ずかしいから? それとも昨日の告白は本気じゃなかっ
た? 色んな考えが頭の中を回る。
「朝倉さんに聞いてみようぜ」
 別の男子が言った。私はぐっと身構えた。話すのが苦手な上、どう答えれば
いいのか分からない。
「朝倉さん。秋山君の言っているの、本当? だとしたら、どんな話をしてい
たの?」
「……ほ……」
 私は秋山君の顔を横目で見た。顔をそらしてしまった。
「……本当、よ」
「じゃあ、どんな話してたのよ」
 女子も聞いてくる。
「そ、それは……日直。日直だった私を手伝ってくれたから、秋山君が。だか
ら……その帰りしな、お礼を言ってたの」
「そうなの、秋山君?」
 また別の女子が、秋山君に再確認をする。
「そうだよ。朝倉さんの言った通り」
 分かったかという感じで、その場を離れようとする秋山君。
「仲いいんだよなあ。じゃあ、もしどっちかがどっちかに告白なんてしたら」
「な……」
 秋山君の顔も、少し赤くなっていた、と思う。
「何を言い出すんだよ! 僕はいいとしたって、あ、朝倉さんのこと考えろよ」
「『いいとしたって』ってことはぁ、秋山君は朝倉さんを好きなんだ」
「何でそうなるんだよ」
「だってさあ、そうとしか思えないじゃない。ねえ」
 クラス中が、一つの結論を決めてかかって、それを目指して進んでいるよう
に感じられた。
「そうよ。どう考えたって、秋山君、朝倉さんに特に優しいし」
「やめろよ。同じ。誰だっていっしょだったら」
「それなら、朝倉さんに……。朝倉さん、あなたはどう思うの、秋山君のこと」
「……」
 私が答えないでいると、秋山君が「やめろよ」と言ってくれた。もう泣きた
かった。
「答えてみてよ。何でもないんなら、どうでも答えられるんじゃないの? さ
あ、好きか嫌いか」
 このとき、最悪なことに、周りのクラスメートが、はやし始めた。「言えよ」
「教えてくれていいじゃない」といった声が、やがて、「言ーえ、言ーえ」と
いう一つの合唱になった。
「やめろってば」
 必死に秋山君が止めようとしたけど、収拾はつかない。
 私は両手で耳を押さえた。でも、コールはずんずん耳に響いてきて……我慢
できない。私は顔を上げ、思い切り叫んでいた。
「嫌いよ! これでいいでしょ!」
 しかし、それだけじゃなかった。もう一人の声が重なってした。
 秋山君の声だった。それはこう聞こえた。
「言ってやるよっ。嫌いだ!」
 合唱は急に消え、しんとなった。
 私は周りが見えなくなった。ただ、秋山君の顔だけが見えていた。
「あ」
 秋山君の表情は、そんな声を漏らしているようだった。
 私は何か言おうとしたが、何も出てこない。代わりに、涙がぽろぽろと、勝
手にこぼれだした。
 いけないととっさに思い、手で顔を覆いながら、廊下に飛び出した。
 教室の中では、「泣ーかした、泣ーかした」という新たな合唱が起こり始め
ていた。

 この『事件』の日から何日ぐらい経っていただろう。ようやく、噂にされな
くなった頃、秋山君が私に謝った。私も謝った。
 そして、友達でいようねという確認をして……終わった。

           *           *

(断ったという事実は変えようないもんね)
 一通り追想を終えた公子は、目尻にわずかに浮かんだ涙を指先でぬぐった。
(あんなことあったんだもの。今さら、私から秋山君に気持ちを伝えられるは
ずがない)
 そこまで考えて、ふと思ったこと。
(今の秋山君、誰か好きな子、いるのかな?)
 これまで浮かびもしなかった疑問だった。今でもひょっとしたら秋山君は私
のことを想ってくれてて、もしも自分が勇気を出して告白すれば、受けてもら
えるかも−−そんな淡い期待を勝手に抱いていた自分を見つけ、顔が熱くなる。
(やだっ、こんな大それた……。想像するだけで恥ずかしいっ)
 公子は頬に手を当てた。その拍子にシャープペンシルが転がって落ちたのに
気づき、緩慢な動作で拾う。
(あーあ。当たり前だけど、秋山君の気持ち、分からないんだ。中学入ってか
らも、結構、女子の人気あるみたいだし。決めるのは秋山君。私は……やっぱ
り、もうだめだろうな。秋山君、優しいから、友達としては続いているけれど。
だから……カナの気持ちを伝える……のは無理にしても、橋渡しぐらいはして
当然よね。ここで邪魔したら、私って凄く意地悪になっちゃう、きっと。よー
し、決めたっと。できるだけカナの応援、しちゃおう)
 どうにか自分を納得させた公子は、いくらか気分もすっきりしていた。
 しかし、机の上に広がる宿題を再認識して、さっきまでとは別の意味でため
息をつくのだった。

 水曜日の放課後、部活動に行こうとしている秋山が廊下に出たところで、公
子はやっと引き留めるのに成功した。
「ん、公子ちゃん? 珍しいね、君の方から声、かけてくるなんて」
「そ、そうかな。あはは」
 無意味に笑ってから、公子は口を閉ざした。後ろの方で見ているはずの、要
の視線を背中に意識する。
 廊下を行き交う人の数が多く、とりあえず、教室の中に戻る。合わせて視線
がついてくるのを感じた。
「どんな用?」
 壁の時計を見上げる秋山。教室内に、二人の他に誰もいない。
「部活の時間、いい?」
「うん。まだ大丈夫だけど」
「ご、ごめんね、呼び止めて。そう、用なの。実はさ、秋山君と会って話がし
たい子がいて」
「ふうん?」
 かばんを机に置く秋山。長くなりそうだと自主的に判断したらしい。
「私達のクラスじゃなくて、二組の子。一年のとき、同じクラスだったの」
 ようやく話し慣れてきた公子は、とにかく用件だけは伝えようと、早口で喋
る。
「何て人?」
「えっと、寺西要さんて言って」
 後ろを振り返る。開け放してあった教室の窓越しに公子は要と付き添い?の
悠香の姿を見つけ、こっち来てと目で合図する。
 いつも通りの悠香を前にして、いつもとまったく違う、もじもじした態度の
要が、ゆっくり、こちらに向かってくる。
「……後ろの子?」
 察したらしい秋山。
「うん。前の子は四組の野沢さん」
「野沢さんの方、どっかで見たような……ま、いいか」
 ようやく、要達がそばまで来た。
「さ」
 自分の役目はここまでと、公子は要を促す。
「あ、あの……私、寺西要ですっ」
 深々と頭を下げる要。
「これはご丁寧に。秋山広毅です」
 冗談めかして返答する秋山。相手をリラックスさせようという心配りかもし
れない。
 でも、要の緊張は簡単にはほぐれなかったよう。
「し、知ってます! 有名ですから。あ、秋山君、格好よくて、女子の人気あ
るし」
「それはいいこと聞いたなあ。人気あるのは頼井ばかりだと思ってた」
 頼井という名が出た瞬間、傍観者のごとくしていた悠香が、泡を食ったよう
に話に割って入ってきた。
「え? 頼井って……あいつのこと、知っているの、秋山君は?」
「知ってるも何も、同じ部だから。−−あ、そうか」
 はたと気づいたという感じに、声を高めた秋山。
 公子はもちろん、要も何のことやら分からないという風に、二人のやりとり
を聞いている。
「野沢さんだっけ? どこかで見たことあるなあと思って、思い出そうとして
いたんだけど、やっと分かった。たまに頼井といっしょに帰ってるでしょ」
「ほんと?」
 公子と要が、いっせいに聞いた。
 悠香は、あちゃーといった具合に、右手を顔に当てる。
「……見られているものね、ったく」

――つづく




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